本コラムでは医療法人のクリニックの承継について、譲渡を成功させるためのステップと、
当社でご支援させていただいた承継事例をご紹介します。
本コラムが承継を検討する際のご参考になれば幸いです。
帝国データバンクの調べによると、2024年8月までに、病院4件、クリニック20件、歯科医院22件の計46件が閉院となりました。
なかでもクリニックと歯科医院の閉院件数が増加しており、要因として予防意識や医療機関の選別意識が向上していることや、コロナ禍に減少した患者が戻らないこと、経営者の高齢化や後継者難で事業継続ができないケースが挙げられ、今後もさらに増加していくとみられています。
出典:帝国データバンク |「医療機関」倒産動向(2024年)
クリニックの承継を検討する際、早めの準備が何よりも重要です。ご相談いただいてからクロージングまで、約4~8か月ほどで長ければ譲渡実行まで1年もかかることがあります。
またクリニックの運営には多くの要素が絡んでおり、突然の事態に備えるためには計画的な準備が欠かせません。特に、後継者がいない場合や、買手を見つけるのに時間がかかる場合など、予期せぬ事態を避けるためには早めの検討が必要です。
医療法人のクリニックの場合、「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」が存在します。クリニックの承継において、持分の有無は大きな影響を及ぼします。持分がある場合、承継のスキームが異なり、税務上の取り扱いや法律上の手続きも変わってきます。これにより、承継プロセス全体に影響を与えるため、事前にしっかりと確認しておくことが重要です。
承継を検討する際、まず「周囲の理解を得る」ことが重要となります。
まず法人の社員・役員へは、クリニックを譲渡するに社員の承認が必要なため、あらかじめ相談しておく必要があります。また顧問会計士や税理士にも退職金の金額などを事前に相談しておくと、承継のイメージがつきやすくなります。医療法人の承継は、単なる事業の引き継ぎではなく、地域医療の継続性や患者の信頼維持など、多くの要素を考慮する必要があります。周囲の理解を得ることは重要ですが、同時に情報管理や法的手続きの遵守、財務面での配慮など、様々な側面に注意を払うことが求められます。専門家のアドバイスを受けながら、慎重に計画を進めることが成功の鍵となります。
クリニックの承継を成功させるためには、まずは明確な目標を設定することが不可欠です。譲渡の対象や譲渡したい買手、譲渡金額などの目標を設定することで、具体的な計画を立てることができます。
次に、買手の選定と交渉が行われます。この段階では、買手の背景やクリニックの運営方針などを考慮しながら、適切な買手を選ぶことが重要です。また、交渉の際には、譲渡条件や価格についての合意を形成するためのコミュニケーションが求められます。
最終的には、契約の締結と手続きが行われます。ここでは、法律的な手続きや税務処理が絡むため、専門家の助言を受けながら進めることが推奨されます。特に、医療業界特有の手続きが多いため、業界に精通した仲介会社のサポートが欠かせません。
ではここで当社がご支援したクリニックの承継事例をご紹介します。
買手様は複数の医療機関を運営しておられたことから、医療機関のシステム化や人材採用に関する運営ノウハウが豊富でした。売主様は病院間連携や訪問診療の拡大を推進したかったが、具体的なアクションが取れていない状況でした。クリニックの譲渡完了後、買手様は周辺の医療機関や介護施設への積極的な営業活動を展開し、その結果として訪問診療サービスを新たにスタートさせることに成功しました。
売手様は地域密着で運営をされてきましたが、クリニックの発展のため新しいチャレンジをするにも、院長先生、スタッフもともに高齢であることから断念している状況でした。また譲渡元のクリニックが京都という土地柄、海外からの観光客が多く、海外の方の体調不良などに対応する新たなニーズがありました。
このような状況下、承継先も医療法人様はこれらの新しいニーズに対応し、事業を拡大する能力と意欲を持っていました。この展開は、長年クリニックを運営してきた売手様にとっても、自身の築き上げてきた医療サービスが新たな形で継続・発展していくという点で、大きな喜びとなりました。
最後まで不動産の扱いについては交渉を重ねました。売手様は売却希望でしたが、買手様は賃貸を希望しており両者の意向の中、条件付きで買手様が不動産を購入することで折り合いがつきました。
この事例における承継成功のカギは、売手様が承継の準備がしっかりとできていたこと、
買手様が売手様の医療法人をどのように発展させたいかを明確化していたことがポイントとして挙げられます。
クリニックの承継では、様々なトラブルが発生に備える必要があります。
よくあるトラブルとして以下のことが挙げられます。
■財務・税務上の問題
隠れた負債や税務問題の発覚、贈与税・相続税対策の不備、譲渡対価の算定トラブルなどが挙げられます。綿密な事前調査を実施する必要があります。
■法令上の手続きの不備
保健医療機関指定の遅れ、必要な行政手続きの漏れ、医療法人における出資持分や理事会メンバーの変更手続きの不備、カルテ引継ぎの法的問題などがあります。行政手続きの確認に関しては保健所や厚生局への事前相談が有効でしょう。
■契約条件をめぐる対立
譲渡条件の事後的な変更、賃貸物件オーナーとの契約トラブル、既存スタッフの継続雇用条件を巡る問題などが発生することがあります。必要に応じて弁護士のチェックを受けることをおすすめします。
■診療方針の違いによる問題
前院長との診療方針の相違による患者離れや、地域医療ニーズとのミスマッチが起こる可能性があります。
■人間関係のトラブル
既存スタッフとの関係構築の失敗や、地域医療機関・患者との関係維持の難しさがあります。
■設備・レイアウトの問題
老朽化した設備の修繕費用の想定外の発生や、使いづらいレイアウトの変更が困難なケースがあります。
■患者情報の引継ぎトラブル
個人情報保護の観点からのカルテ引継ぎの問題や、患者の同意取得プロセスの不備が起こることがあります。
■経営計画の甘さ
継承後の収支見込みの甘さによる経営難や、建物の修繕・医療機器の買い替えコストの見落としなどが発生する可能性があります。
これらのトラブルを回避するためには、事前の十分な調査、専門家への相談、丁寧な引継ぎ作業が重要です。また、承継後も地域医療への貢献を念頭に置いた運営が求められます。特に財務状況、法的手続き、契約条件、人間関係の構築には細心の注意を払う必要があります。早めの準備と慎重な対応が、スムーズな承継につながるポイントです。
後継者がいない場合、第三者への承継という手段があります。この場合、専門の仲介会社を通じて、適切な買手を探し出すことが重要です。また、クリニックの価値を第三者目線で評価し、公正な価格での承継を目指すことが求められます。
これらのポイントに注意を払いながら、慎重かつ計画的に承継を進めることで、医療法人のクリニック承継を成功に導くことができます。また、専門家のアドバイスを適宜受けることで、より確実な承継プロセスを実現できるでしょう。
クリニックの承継において、業界に精通した仲介会社のサポートは欠かせません。特に医療業界では特有の法規制や診療報酬などがあるため、それらを理解している仲介会社を選定する必要があります。手続きや法規制に詳しい仲介会社は、スムーズな承継を実現するための重要なパートナーとなるでしょう。
優れた仲介会社を選ぶためには、実績や評判を確認することが重要です。また、クリニックの承継に関する具体的なサポート内容や、過去の事例を参考にすることで、信頼できる仲介会社を見極めることができます。そのほか中小企業庁の「M&A支援機関」に登録されているなど公的な信頼性があることや、長年の実績があるかどうかも見てみましょう。
手数料はどのくらい必要で、どのタイミングで発生するか事前に確認しておく必要があります。
上記の点を考慮し、複数の仲介会社を比較検討した上で、自身のニーズに最も合った会社を選ぶことが重要です。
また初期の相談段階から、M&Aだけでなく経営改善や他の選択肢についても助言してくれる仲介会社を選ぶと、より良い判断ができる可能性が高まるでしょう。
よく耳にするFAとはファイナンシャルアドバイザーの略で、M&Aにおいて買手または売手のどちらか一方と契約し、片側の利益を最大化するためのアドバイスを行います。
M&A仲介会社は中立的な立場で全プロセスをサポートするのに対し、FAは特定の企業の立場に立ってアドバイスを行う点が大きな違いといえます。
M&A仲介会社とFAの違いを、「立場」「業務範囲」「利用者」「手数料」「目的」の視点から見ていきます。
▶立場
M&A仲介会社:買い手と売り手の間に立ち、中立的な立場で仲介する
FA:買い手または売り手のどちらか一方と契約し、その側の利益を最大化する
▶業務範囲
M&A仲介会社:相手探しからM&A成立までの全プロセスをサポート
FA:主に交渉段階以降のアドバイスや手続きをサポート
▶利用者
M&A仲介会社:中小企業が多い
FA:大手企業や上場企業が多い
▶手数料
M&A仲介会社:買い手と売り手の双方から受け取ることが多い
FA:契約した一方の企業から受け取る
▶目的
M&A仲介会社:双方にとって満足のいく取引の成立を目指す
FA:契約した側の利益最大化を目指す
クリニックの価値を評価する際には、第三者目線からの公正な評価が求められます。
これは、クリニックの運営状況や財務状況、将来的な成長性などを総合的に評価することで実現されます。
評価方法には以下の方式が挙げられます。
これは最も一般的な評価方法の1つです。
将来のキャッシュフローを予測し、現在価値に割り引いて評価する方法です。
同業種・同規模のクリニックの過去の取引事例を参考に評価する方法です。
EBITDAに一定の倍率を掛けて企業価値を算出する方法です。
これらの評価方法を組み合わせ、単純な数字だけでなくクリニックの特性や地域性なども考慮し、
総合的に評価することが重要です。
クリニックの承継は、医療サービスの継続性と地域医療への貢献を維持しつつ、円滑な経営移行を実現する重要なプロセスです。
成功へのプロセスとして以下のポイントが挙げられます。
これらのポイントを押さえつつ、専門家のアドバイスを適切に活用し、慎重かつ計画的に進めることが重要です。早期からの準備と適切な対応により、スムーズで効果的なクリニック承継を実現することができるでしょう。
CBパートナーズでは、クリニックの事業承継に関するご相談や、法人・事業の価値の算定を
すべて無料で承っております。
些細なことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。