M&Aで会社の譲渡を検討する際に、一番気になることは「自社の価値」ではないでしょうか。
M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)は、対象企業の総合的な価値を定量的に算定する重要なプロセスです。主な目的は、M&A交渉の基準点設定、取引の妥当性判断、価格決定の根拠作りです。
本コラムでは、一般的な算定手法である「時価純資産+のれん方式」と「類似会社比準方式」を中心に、企業価値評価の重要性を解説します。
M&Aにおける「企業価値評価」は「バリュエーション」ともいわれ、対象企業の価値を定量的に算定・評価する手法を指します。
これは、企業が保有する資産の価値だけでなく、将来的に創出すると見込まれる収益力や無形資産も含めた総合的な価値です。
企業価値評価を行う主な目的は以下の通りです。
企業価値評価の主な手法は以下の3つに分類されます。
企業価値評価は通常、M&A仲介会社との秘密保持契約・アドバイザリー契約締結後に行われます。この評価結果は、M&A交渉を進める上での重要な基準となり、譲渡企業と譲受企業の双方にとって、取引の妥当性や将来の事業計画を検討する上で不可欠な情報となります。
後ほど、一般的な算定手法である「時価純資産+のれん方式」「類似会社批准方式」について詳しく解説します。
「株式譲渡」と「事業譲渡」のどちらの方法で譲渡するかにより、譲渡対価に差が生じます。この2つのスキームの違いについて解説します。
株式譲渡とは、企業の株式を第三者に譲渡することで、経営権を移譲する方法です。
株式を取得した側が企業の経営権を握ることになり、企業全体のコントロールが可能となります。特に、株主構成を変えることなく企業全体を売却したい場合には有効な手法です。しかし、株主総会の承認が必要である場合が多く、手続きが複雑になることがあります。ですが、企業の全体的な価値を直接的に反映するため、企業価値を最大限に引き出したいと考える企業にとって、非常に魅力的な選択肢となります。
株式譲渡を効果的に行うためには、譲渡価格の算定や契約内容の調整が重要です。これには、法務・財務の専門知識が求められるため、専門家のアドバイスを受けることが望ましいでしょう。
売手目線での株式譲渡のメリット・デメリットは次の通りです。
株式譲渡のメリット |
大規模な資金調達:譲渡企業は大規模な資金調達を可能にし、事業拡大や新規サービスの開発に充てることができます。個人株主の場合、株式譲渡益に対する税率は20.315%の分離課税となり、事業譲渡と比べて税負担が軽減されます。またオーナー社長が自社株を売却して得た資金は、退職金の代わりとして使用することができます。 |
戦略的なパートナーシップ:譲受企業との間で戦略的なパートナーシップを構築し、シナジー効果を生み出すことができます。 |
株式譲渡のデメリット |
手続きの複雑さ: 株式譲渡は、法的な手続きが複雑であり、時間とコストがかかります。 |
従業員の不安: 経営者が変わることで、従業員のモチベーションが低下したり、離職率が上がったりする可能性があります。 |
企業文化の変化: 譲受企業の企業文化が異なる場合、既存の介護事業の文化が大きく変わる可能性があります。 |
事業譲渡は、企業の事業の一部、例えば特定の介護施設やサービスを他の企業に移転する方法です。
これにより、譲渡側の企業は特定の事業を切り離して売却できるため、経営資源を集中させることができます。事業譲渡は、特定の資産や負債を引き継がずに事業そのものを売却できるため、譲受側にとっても柔軟な対応が可能です。ただし、従業員や取引先との契約の対応が必要となるため、注意が必要です。
さらに、事業の特性や市場環境に応じた柔軟な戦略を立てることが可能であり、企業の成長戦略に合わせた最適な選択が可能です。譲渡先企業との協議を経て、詳細な譲渡条件を設定することが、成功への鍵となります。
また、事業譲渡は企業の一部を切り離して売却できるため、特定の事業の収益性や成長性を最大限に活用することが可能です。
売手目線での事業譲渡のメリット・デメリットは次の通りです。
事業譲渡のメリット |
経営資源の集中: 非核事業を売却し、コア事業に経営資源を集中させることができます。 |
負債の整理: 負債のある事業を売却することで、財務体質を改善することができます。 |
事業の再編: 事業ポートフォリオを最適化し、事業の競争力を高めることができます。 |
事業譲渡のデメリット |
従業員の雇用問題: 譲渡される事業の従業員の雇用問題が複雑化する可能性があります。 |
顧客との関係維持: 顧客との関係が途絶える可能性があり、顧客の離脱を招く可能性があります。 |
この方式では、企業の純資産(資産総額から負債総額を差し引いたもの)を時価で評価し、そこにのれん代(営業権)を加えることで企業価値を算定します。
特に、不動産を所有されている場合に用いるケースが多い評価方法で、土地や建物を時価で評価し直すことが重要となります。具体的には、最新の市場データを基に不動産の時価を算定し、決算書に含まれていない偶発的な債務(退職給付引当金、賞与引当金等)を考慮に入れて、正確な時価純資産を算出します。
土地や建物の市場価値を適切に見積もることで、企業価値の透明性を高めることができます。加えて、資産の評価には地域特性や法規制の影響を考慮する必要があり、多角的な視点からの分析が求められます。
計算が比較的容易で、財務的安定性を考慮でき、企業の将来性や無形資産の価値を反映できる点がメリットとして挙げられます。一方、デメリットとしては、のれんの算定に主観性が入る可能性があること、純資産の時価評価が難しい場合があること、企業の収益力や成長性を十分に反映できない可能性があること、そしてのれんの価値変動による減損リスクが生じる可能性があることが挙げられます。
のれん代は、企業が持つブランド力や顧客基盤、営業権などの無形資産を評価するもので、企業価値評価において重要な要素です。のれん代を正確に算定することで、企業が持つ潜在的な利益創出能力を反映させることができます。競争の激しい介護業界では、のれん代が企業の差別化要因となり得るため、的確な評価が求められます。
類似会社批准方式は、マルチプル方式ともいわれ、同業他社の市場での評価(上場企業の株価)をもとに自社の価値を算出する方法です。介護事業市場においては、大手企業が上場していることから、それらの企業の事業価値が利益等の何倍になっているかを参考に評価額を計算します。
また、この方式では、企業の規模、業績、成長性、リスク、収益性などを分析し、類似の業態を持つ企業の市場価値を参考にして事業価値を評価します。不動産が賃貸契約の場合に用いるケースが多いです。
特に、介護事業においては類似の事業を持つ企業との比較が行いやすいため一般的に用いられる手法ですが、小規模事業所であるほど類似企業を見つけることが困難になります。ただ市場動向を反映した最新の評価を行うことができ、迅速であるため、変化の激しい市場環境下でも有効です。
類似会社批准方式の最大のメリットは、比較可能なデータを基に迅速に評価を行えるため、評価過程が効率的である点です。一方デメリットとして、市場の変動や業界特有のリスクを完全に反映できない場合があることが挙げられます。また、同業他社と自社の状況が異なる場合、評価が不正確になる可能性もあります。このため、類似会社批准方式は他の評価手法と併用することが望ましいです。
さらに、この方式は市場データの入手が容易である一方で、データの適用範囲が限られる場合があり、慎重な検討が必要です。最適な評価を行うためには、定性的な要因も考慮することが重要で、業界の専門知識を活かした分析が求められます。
介護M&Aにおいて、企業の買取対象価値を向上させるためには、多角的なアプローチが重要です。買収候補として魅力的な企業となることで、より有利な条件でのM&Aを実現することができます。
利用者満足度を高めるためのサービス改善、人材育成、品質管理体制の構築、先進的な技術やケア技術を導入し、利用者満足度を向上させることが重要です。
医療との連携強化や既存サービスの拡大により、事業規模の拡大と収益の多角化を図ります。
経験豊富で専門性の高いスタッフを揃えることで、サービスの質が向上し、企業価値が高まります。介護職員のスキルアップを支援する研修プログラムの導入やキャリアパス設計により、人材の定着率向上と組織全体の活性化を図ります。
運営コストの削減や効率的な資源配分を行うことで、収益性を高めます。債務削減、キャッシュフローの安定化、利益率の向上など、財務体質の強化は不可欠です。
特定の地域に根ざしたサービスを提供することで、地域住民からの信頼を獲得し、良好な関係を構築することにより、安定的な顧客基盤を築きます。
介護業界の厳格な規制に適切に対応し、法的・規制上の問題がないことを確認することで、買収側の信頼を得ることができます。
将来の事業拡大や新規サービス導入などの具体的な成長戦略を持つことで、企業の将来性をアピールできます。
M&Aの価額算定は、企業の将来性や成長性、そして市場の状況など、様々な要素が複雑に絡み合うため、より詳細な検討が必要となります。上記に加え、以下の点にも注意しましょう。
M&Aにおける企業価値評価において、評価手法の選択は非常に重要です。企業価値と言っても、その評価方法は様々であり、企業の特性や業界の特性、そして将来性を考慮した上で最適な手法を選択する必要があります。
バリュエーションは、主観的な判断によって評価額が大きく変動する可能性があります。特に、インカムアプローチ(企業の収益力に着目した評価方法)のような主観的評価に重点を置く方法では、企業価値が大きく左右されることがあります。複数の評価手法を用いることで、より客観的な評価に近づけることができます。
企業価値評価において、有形資産だけでなく、無形資産の評価も非常に重要です。無形資産は、企業の競争優位性を生み出し、将来の収益に貢献する重要な要素です。
バリュエーションで算出された価額と実際の売却価額は異なることがあります。M&Aにおいては、売り手と買い手が協議して最終的な価格を決定するため、バリュエーション結果にこだわりすぎないことがスムーズな取引につながります。
M&Aの価格算定は、企業の価値を多角的に評価し、様々な要素を考慮する複雑なプロセスです。専門家であるM&Aアドバイザーの支援を受けることが、成功への近道と言えるでしょう。
CBパートナーズでは企業・事業の価値を無料で算定できるサービスを行っております。算定までの流れは以下の通りです。
お預かりした書類については秘密保持誓約書に従いお取り扱いし、算定後は責任をもって返却または破棄させていただきます。
また弊社ではM&Aが成約した場合のみ手数料を頂戴しておりますので、ご相談や算定には一切の費用はいただいておりませんので、お気軽にご相談ください。