令和6年度の介護報酬改定でLIFE(科学的介護情報システム)が変更になりました。2024年10月からシステムが稼働し、11月には事業所フィードバックが始まっています。また2025年1月から利用者フィードバックも始まります。
本コラムではLIFEの基本概念と、フィードバックを自社でどのように活用するのかをご紹介させていただきます。
LIFE(科学的介護情報システム)は、Long-term care Information system For Evidenceの略称で、全国規模で介護データを収集・蓄積・分析するシステムです。介護施設や事業所がLIFEにデータを入力すると、利用者ごとまたは事業所ごとにケア内容の分析・評価結果がフィードバックされます。介護現場における情報の集約と分析を通じて、介護サービスの品質向上を目指すシステムです。
LIFEシステムの目的は、介護事業所が利用者一人ひとりのデータを集約し、科学的根拠に基づいた介護の提供をサポートすることです。利用者の健康状態や生活環境に関するデータを統合し、それらを元にしたケアプランの調整が可能となるため、より個々のニーズに応じたケアが実現します。これにより、介護従事者は利用者に最適な支援を提供できる環境が整い、介護全体の質が向上することが期待されています。
さらに、LIFEシステムの導入により、利用者の生活の質を向上させるための新しい介護モデルが模索されています。例えば、デジタル技術を活用した遠隔モニタリングでバイタルサイン等のデータを確認できたり、AIによる予測分析を用いて個人の健康状態や行動パターンから未来のリスクを予測したりと、より細やかなケアプランの策定が可能になるでしょう。
LIFEが生まれた背景には複数の要因があります。医療分野では既に科学的根拠に基づく実践が行われていたものの、介護分野では介護サービスの効果を正確に測定する仕組みが不足していました。また高齢者の増加による介護ニーズの多様化や、人材不足により現場の負担が増加している状況下で、全国的な介護データの収集と分析が不可欠だと認識され、「科学的介護」というキーワードが注目され始めました。
そこで厚生労働省は、2017年に介護データの収集と分析する「VISIT(リハビリに関するデータベース)」の運用を開始し、2020年には「CHASE(栄養や介入に関するデータベース)」の運用を始めました。これら2つのシステムを統合し、より発展させたものが「LIFE」です。
LIFEを使用するメリットはどのようなものでしょうか。
LIFEの活用が要件に含まれる各種加算の取得が可能となり、施設の収益増加につながります。これは施設運営の安定化と経営面でも大きな影響があります。LIFEの活用が要件に含まれる主な加算は以下の通りです。
単位数:30単位/60単位
要件:すべての利用者のADLを測定し、そのデータをLIFEで提出すること
全国の事業者データから科学的根拠に基づいた介護サービスの提供により、利用者個人に合わせたケアの提供が可能になります。サービスの質が向上することで、利用者の満足度の向上にもつながるでしょう。
エビデンスに基づくケアの提供により、職員が自信を持って業務に取り組めるようになります。これは職員の能力向上につながります。
利用者の状態や課題が把握しやすくなることで、潜在的なリスクの早期発見と対応が可能になります。
全国の介護施設・事業所で同一項目によるアセスメントの情報共有が実現可能になります。
同じ”軸”での利用者アセスメントを行うことで、利用者の状態を正確に捉えることができます。
共通目標を設定することで、利用者に関わる全職員が同じベクトルで取り組むことができます。
令和6年度の介護報酬改定に合わせて、LIFEシステムが大幅にリニューアルされました。この新LIFEシステムでは、旧システムの課題を改善し、利便性の向上と質の高い情報収集・分析を目的として以下のような変更が行われました。
「入力画面表示がわかりにくい」「操作方法が難しい」といった入力に関する声があがっていたため、入力画面やマニュアルの内容が変更されました。
従来のLIFE | 新LIFE | |
新規利用登録方法 | 利用に申請が必要 | 電子請求受付システム(介護)のID・パスワードで利用可能 |
管理ユーザー パスワードリセット | ヘルプデスクへの問い合わせが必要 | 電子請求受付システム(介護)のID・パスワードでリセットが可能 |
様式情報登録 | 操作職員でのみ様式情報の登録が可能 | 操作職員に加え、管理ユーザーも様式情報の登録が可能 |
問い合わせ機能 | ヘルプデスクへの問い合わせ内容・回答状況はメールの送受信履歴からの確認が必要 | ヘルプデスクへの問い合わせ内容・回答状況をLIFE上で確認可能 |
そのほかセキュリティ機能の強化として、 未操作時における自動ログアウトまでの残り時間が表示されたり、端末登録されていない端末からログインがあった際のアラート通知が可能になりました。
褥瘡マネジメント加算、排せつ支援加算、ADL維持等加算などのLIFE関連加算について、アウトカム評価の充実を目的として要件の拡充・変更が図られました。
旧LIFEでは利用者の同じ状態を評価する項目であっても、加算の様式ごとに項目名や評価指標が異なっていたため、入力されたデータの質低下や入力作業の負担増加が問題となっていました。また、各加算によってデータ提出頻度が異なっていたため、介護施設・事業所での管理が煩雑になっていました。
これらの課題に対応するため、まず、様式間で重複している項目の名称や評価指標等を統一し、データの一貫性と入力の効率化が図られました。次に、フィードバックの精緻化を目的として「基本情報」が追加されました。これによりフィードバックにおいて類似した状態の事業所・利用者データを見ることが可能となりました。
さらに、データの提出タイミングを「少なくとも3か月に1回」に統一し、管理が簡素化されました。加えて、同一の利用者に対して複数の加算を算定する場合、一定の条件下でデータ提出期限に猶予を設けることで、提出頻度の統一を可能にしました。
事業所フィードバック、利用者フィードバックの変更点については次の項目で解説します。
LIFEシステムにおけるフィードバックは、介護サービスの質を向上させるための重要なツールです。フィードバックを活用することは、介護サービスの質の向上と職場環境の改善につながり、職員のモチベーション向上や職場定着率の改善も期待できます。
介護サービスの提供後、職員が利用者ごとの情報をLIFEに登録します。この登録情報を基に、フィードバック帳票が作成されます。
作成されたフィードバック帳票は、LIFEシステム内で通知されます。状況が「作成済」となったフィードバック帳票をダウンロードすることができます。2024年度介護報酬改定に基づく事業所フィードバックは、2024年11月26日から開始され、利用者フィードバックは2025年1月頃公開予定です。
では次に、事業所フィードバック及び利用者フィードバックについて説明します。
事業所フィードバックは、介護施設や事業所全体の評価を示すものです。
新LIFEになったことで、全国平均だけでなく、サービス別や都道府県別など、より詳細な比較データが提供されるようになりました。自施設・事業所の利用者の状態変化や、全国の同種サービスを提供する介護施設・事業所との相対的な位置が確認しやすくなり、これらのデータに絞り込み機能が追加されたことで、様々な要素で全国値を絞り込むことが可能です。
事業所の数値を全国平均と比較し、強みや改善点を特定します。低い項目や高い項目を確認し、事業所の特徴を把握します。
各項目の変化を確認し、取り組みの効果を評価します。変化がない場合でも、良い状態の維持か課題の継続かを判断します。
フィードバックの内容をケアプランや介護計画と合わせて職員間で共有します。定期的なデータ活用会議を設け、現状や取り組みの効果について議論します。
フィードバック情報を「Check(評価)」の段階で活用し、ケアの改善につなげます。評価結果に基づいて、新たな計画(Plan)を立案し、継続的な改善を図ります。
フィードバックを活用し、計画書や機能訓練の見直し、サービスの質の管理を行います。LIFE関連加算の算定要件を満たすため、フィードバックの活用を徹底します。両フィードバックを効果的に活用することで、科学的根拠に基づいた介護サービスの質の向上と、利用者一人ひとりに合わせたきめ細かなケアの実現が可能となります。
利用者フィードバックは、個々の利用者に関する評価を示すものです。各利用者について、状態の変化が表示されます。前回提出分との比較表で提供されます。
各利用者の状態変化を時系列で確認し、ケアプランの効果を評価します。前回データとの比較で示されるアップダウンの矢印を参考に、ケアの効果を分析します。
フィードバック票を利用者や家族に提示し、近況報告や今後の対応についてディスカッションを行います。数値や矢印によるわかりやすい表示を活用し、ケアの成果や課題を説明します。
サービス担当者会議で利用者フィードバックを共有し、エビデンスに基づいた検討を行います。複数のサービスを利用している場合、各事業所の解釈を共有し、連携したケアを実現します。
「LIFEはめんどくさいのでやらない」という声も耳にしますが、LIFEの活用は今後の介護事業経営において必須となり、今や「やらなければいけない」ものとなっています。
LIFEの導入により、科学的介護推進体制加算など新たな加算が算定可能となり、事業所の収益増加につながります。またLIFEのデータ活用により、業務改善や効率化が図れ、間接的に経営改善につながる可能性があります。
一方で、LIFE関連加算が算定できない場合は収入減となる可能性があり、今後の介護報酬改定でもLIFE中心の方向性が予想されています。LIFEへの対応能力が事業所の競争力や収益性に直結するため、LIFEに対応できない事業所は中長期的に経営が厳しくなる可能性があります。
このような状況下で、LIFEに対応できない事業所がM&Aの対象となる可能性が高まると予想されます。逆に、LIFEを効果的に活用し、高い収益性を示す事業所は、M&Aにおいて買収側としてより事業を拡大していくでしょう。
そこでICTの活用や電子化の推進など、LIFEに対応するための環境整備が重要になってきます。LIFEをはじめとするICT導入に対して、課題を抱える企業は、生き残るための経営戦略として、ICTノウハウを持つ企業とのグループ化を検討することも手段の一つでしょう。
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