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M&Aで発生する会計処理とは

M&Aの会計の種類と取引別の会計処理

M&Aを行う際は、買い手企業は必ず会計処理が必要となります。
しかし売り手企業は、会計処理が必要な場合と不必要な場合があります。
またM&Aにおける会計処理は、簡単な仕訳から複雑な仕訳まで様々です。

中堅・中小企業がM&Aを行う際に発生する会計処理について、その状況に応じた仕訳を解説いたします。

M&Aの会計の種類

企業会計には下記3種類が存在します。

・個別会計
・連結会計
・税務会計

M&Aの際は、子会社が存在しない場合は個別会計、多数の子会社が存在し会社をグループとして把握が必要な場合は連結決算が利用されます。ただし個別会計と連結会計のいずれの場合も、法人税などの納税のため税務会計の利用も必要です。

個別会計

個別会計は企業単体での会計処理です。子会社などが存在せず、企業が単体で事業展開を行う場合は、個別会計のみで会計処理がなされます。

尚、子会社を多く所有し連結会計を採用する企業においても、個別会計により企業単体の決算書の作成はなされます。

連結会計

連結会計は企業を単体ではなく、企業グループとして捉えることを目的として導入された会計制度です。上場企業などの大手企業は、企業が単体で事業展開を行うのではなく、複数の子会社などが設立され、企業グループとして事業を展開しています。

個別会計では個別企業の財務状況の把握はできても、グループ全体としての財務状況の把握は困難です。よって連結会計制度を導入し、グループ会社を一括して連結決算で見ることで、企業グループとしての実態把握が可能となります。

尚、上場会社であっても国内で1社単独で事業展開を行う企業では、連結会計は導入されていません。

税務会計

個別会計、連結会計は財務会計(企業の会計情報を債権者、株主などに提供する)に分類される会計制度です。一方で税務会計は、法人税などの納税のため税法の規定により行われる会計制度となります。

よって殆どの企業では、財務会計に基づく決算書に加え、税務会計に基づく決算書の作成もなされます。尚、財務会計と税務会計の差額を調整し、税金費用を適切に期間配分する税効果会計を導入することで、両者の橋渡しが可能です。

取引別の会計処理

M&Aを行う際は、取引の内容毎に会計処理が異なります

・株式の取得時の処理
・事業譲渡時の処理
・株式交換時の処理

上記の会計処理について、中堅・中小企業に多い個別会計における、「買い手企業」「売り手企業」の仕訳を解説いたします。

株式の取得時の処理

株式の取得によりM&Aが行われる場合、売り手企業は株主の移動があるのみであり、決算書(財務状況)に変化は生じません。よって会計処理が必要となるのは買い手企業のみとなります。

次に株式取得時でも、

・支配権を取得した時の仕訳
・支配権は取得せず、議決権の3分の1以上を取得した時の仕訳
・支配権も議決権の3分の1以上の取得もしなかった時の仕訳

上記3つのケースそれぞれで、買い手企業の仕訳方法は異なります。

支配権を取得した時の仕訳

(借方)子会社株式100/(貸方)現預金100
※現金100で株式を取得の場合(以下同様)

支配権を確立した場合でも、簡単にいえば買収先の株式を取得することに他なりません。よって通常の株式取得に類似の仕訳(借方の勘定科目は子会社株式)が行われます。

支配権は取得せず、議決権の3分の1以上を取得した時の仕訳

(借方)関連会社株式100/(貸方)現預金100

議決権の3分の1以上を取得した場合でも、役員の派遣などをせずに支配権の取得を行わない場合、株式取得に類似の仕訳(借方の勘定科目は関連会社株式)となります。

支配権も議決権の3分の1以上の取得もしなかった時の仕訳

(借方)投資有価証券100/(貸方)現預金100

支配権も議決権の3分の1以上の取得もしない場合は、単なる株式取得となり、借方の勘定科目は投資有価証券での仕訳となります。

株式を取得した後の仕訳

当初の予定通りにM&A後の事業進捗がなされれば、株式取得後に会計処理を行う必要はありません。しかし株価の下落や買収先企業の財務状況が大幅に悪化した場合、別途新たな会計処理を行う必要があります。

買収企業が未上場会社の場合

日々の株価変動が発生しない未上場会社の場合、通常は特別な会計処理は必要ありません。しかし純資産が大幅に棄損した場合などは、1株当たり純資産相当額まで評価減を行う会計処理が必要です。

(借方)子会社株式評価損70/(貸方)子会社株式70
※子会社の純資産が100→30となり、70の評価損を計上

買収企業が上場会社の場合

買収先企業が上場企業で、子会社株式及び関連会社株式として仕訳がなされていれば、会計処理は不要です。ただし業績の大幅悪化時の対応は、未上場会社と同様に評価減を行う必要があります(仕訳は上記を参照)。

一方、投資有価証券で計上がなされている場合は、市場価格に応じて評価損益の計上が必要です。ただし売買目的での取得ではないため、評価差額は損益計算書ではなく貸借対照表の純資産の部に計上されます。

①(借方)投資有価証券60/(貸方)その他有価証券評価差額金60
※投資有価証券の時価が簿価を60上回った場合

②(借方)その他有価証券評価差額金60/(貸方)投資有価証券60
※投資有価証券の時価が簿価を60下回った場合

ただし②の時価が簿価を下回った場合、その他有価証券評価差額金は貸借対照表上、純資産の部にマイナス(▲)での表示となります。

尚、税効果会計を適用する場合、繰延税金負債(①の場合)、繰延税金資産(②の場合)の計上が別途必要となります。

① (借方)投資有価証券100/(貸方)その他有価証券評価差額金70
/ 繰延税金負債30
※時価が簿価を100上回った場合、実効税率30%

② (借方)その他有価証券評価差額金70/(貸方)投資有価証券100
繰延税金資産30
※時価が簿価を100下回った場合、実効税率30%

事業譲渡時の処理

M&Aを行う際に株式譲渡ではなく、事業そのものを切り離して売却する、事業譲渡を行う場合の代表的な仕訳は下記となります。尚、事業譲渡の際は、全ての資産を時価評価した上で貸借対照表に取り込みを行います。

買い手企業の仕訳

(借方)棚卸資産20/(貸方)現預金110
機械装置30/
土地建物50/
のれん10 /
※純資産100の事業について現金110で事業譲渡を受けた場合

尚、売買代金(現預金)>譲渡資産価格となる場合は、差額分が借方にのれんとして計上されます。

売り手企業の仕訳

(借方)現預金110/(貸方)棚卸資産20
/ 機械装置30
/ 土地建物50
/ 事業譲渡益10
※買い手企業の場合と同様

買い手企業にのれんが計上される場合、売り手企業は貸方にのれん分を事業譲渡益(時価より高い価格で事業譲渡が行われた)の計上を行います。

株式交換時の処理

株式交換は買い手企業が新株を発行し、売り手企業の全株主が保有する全ての株式について、買い手企業の新株と交換する取引です。

買い手企業が未上場企業の場合、売り手企業株主は流動性のない未上場企業の株式を取得することになるため、メリットは殆どありません。よって株式市場で株式の売買が自由にできる、上場企業で株式交換は利用されるケースが殆どです。ただし上場企業にとって、株式交換は現金を使わずに企業買収が可能であり、非常に使い勝手のよい制度となっています。

買い手企業の仕訳

(借方)子会社株式100/(貸方)資本金50
資本剰余金50
※売り手企業の株式100を取得する際に、買い手企業の同額の株式を発行のケース

売り手企業の仕訳

株式交換の場合、売り手企業の株式が買い手企業により取得されるものの、売り手企業の決算書(財務状況)に変化は生じないため、仕訳は発生しません。

株式移転及び会社分割について

会社法では現金ではなく株式を利用するM&A手段として、上記の株式交換に加え、株式移転、会社分割も認められています

株式移転は主に持ち株会社を設立することを想定しており、親会社として持ち株会社を設立し、新設された持ち株会社に既存株主の全ての株式を譲渡します。株主は対価として親会社である持ち株会社の株式を受け取ります。M&Aを絡めた企業再編時に利用されるケースが多いといえます。

また会社分割は、企業が事業の全部または一部を他社に移転するものです。切り出した事業を新しく設立する会社に承継する新設分割と、他社に承継する吸収分割の2パターンがあります。しかし煩雑な手続きとなる上、会社分割は組織再編の手法として活用されるのが通常です。

方法論としては、株式移転及び会社分割も中堅・中小企業のM&Aで活用の可能性はあります。しかし中堅・中小企業の殆どが未上場企業であり、株式の流動性及び手続きの煩雑性から、株式移転及び会社分割の利用は現実的ではありません。

まとめ

未上場の中堅・中小企業でM&Aが行われる際は、現金の支払いによる株式の取得、もしくは現金の支払いによる事業譲渡で行われる場合が大半を占めます。そしてそれぞれ定められた会計処理に基づき、仕訳が行われています。

M&Aの際の会計処理は、様々なケースが想定されるため、専門家のアドバイスも受けながら正確な会計処理及び仕訳を行っていただきたいです。

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