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譲渡(M&A)後の従業員の雇用問題

従業員を承継するということ

今回は、M&Aにおける従業員の承継(雇用)について取り上げたいと思います。

事業承継時に、従業員のことを心配されるオーナー様はとても多く、
特に60歳を超えたオーナー様ほど、

「創業期から苦楽をともにしてきた付き合いの長い従業員のことが頭を過ぎり、先に引退するのがはばかられる」

抵抗感を覚えてしまい、決断しにくい傾向があるようです。

M&Aは、時として従業員の立場に大きな影響を及ぼすことがあるため、
このようなお気持ちになるのも不思議ではありません。

ご自身の決断に「巻き込んでしまう」という意識が働き、譲渡を躊躇う要因になってしまうようです。

譲渡時の従業員の扱いについて、ご質問にあがるのは主に次の2点です。

「M&A後も引き続き従業員の雇用は守られるのか」
「雇用条件に変化は生じないのか」

法的な観点

従業員の雇用に関しては、M&Aのスキーム(方法)によって注意する点が異なります。

例えば、合併によって会社が吸収合併される場合、
ほとんどのケースで就業規則や雇用条件が統一されるため、
事前に入念な準備を行う必要があります。

M&Aと一口に言っても様々な方法がありますが、
ここでは当社で取り扱いの多い「株式譲渡」「事業譲渡」を用いて説明させていただきます。

【株式譲渡の場合】

株式譲渡は、経営権を譲渡して会社ごと別の会社に承継する方法です。
従業員の雇用契約はそのまますべて買収先の会社に引き渡されます

そのため、M&Aをしたからといって譲渡企業の従業員を解雇することや労働契約を変更することはできません。
また、職員一人ひとりと雇用契約を再度取り交す必要が無く、スムーズな引継ぎが可能です。

【事業譲渡の場合】

事業譲渡とは、会社の一部または全部の事業を第三者に譲渡することを指します。
また、事業譲渡では、譲渡対象の会社資産や権利義務などを個別に承継します

そのため、従業員との雇用契約はいったん解消され、退職扱いとなります。
それに伴い、労働条件が見直され、定年退職の年齢、給与、退職金が変更される可能性があります

買収先の会社と従業員の間で、新たな雇用契約を結び直す手続きが生じ、
従業員は給与や勤務条件について、新会社の規定に合意の上で勤務することとなります。

しかしながら、いわゆる「不利益変更」がなされないように契約するケースが大半です。

中には、新会社の給与体系によっては、これまでの雇用条件が適用できない場合も考えられます。
そのため、M&Aの条件交渉の際に、「従業員の処遇は変えないこと」などと契約書に明記し、
雇用トラブルが発生しないよう細心の注意を払います。

なお、M&A後も残って新しい会社で働くかどうかは従業員の意思によるという点は、どちらにも共通しています。

ここまでは、あくまで法律の解釈に基づいた原則論です。
一方、そうは言っても実際のところはどうなのかという不安が残るオーナー様も多いかもしれません。
そこで、もう少し近年の実情と照らし合わせて考えてみたいと思います。

人材不足の影響

近年、人材不足は業界を問わず日本経済の共通課題です。

薬局経営は薬剤師という資格保有者が不可欠である以上、
譲り受けた従業員をあえて解雇するという考えは生まれにくくなっています

現に、人材の確保を目的にM&Aを推し進める企業が増えているのが、その何よりの証拠です。

また、社会がこうした情報に敏感になっており、
雇用トラブルが発生した場合のレピュテーションリスク(風評リスク)が高いので、
買い手側もトラブルが発生しないよう細心の注意を払っているのが実態です。

以上の理由から、従業員の雇用は守られることが多いのです。

M&Aは充分な協議のもと進んでいきます。

それはつまり、交渉によって決められる部分が多いことを意味しています
今回ご紹介した従業員の雇用についても例に漏れません。

必ず何らかの対処方法がありますので、
我々医療・介護・福祉業界専門のM&Aアドバイザーにお気軽にご相談ください。

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