企業価値評価の代表的な算出方法に、ディスカウントキャッシュフロー方式(DCF法)があります。DCF法はM&Aに際し、欧米では以前から利用が進んでおり、国内でも上場企業のM&Aでは欠かすことのできない存在です。

上場企業のM&Aでは既に広く利用されているDCF法について、その内容や計算方法を解説いたします。

ディスカウントキャッシュフロー方式とは?

スーツの男性

ディスカウントキャッシュフロー方式(Discount Cash Flow、DCF法)は、企業価値評価の代表的な手法の一つです。

DCF法は企業が生み出すキャッシュフローに注目して企業価値を算出する方法であり、具体的にはフリーキャッシュフローを現在価値に割り引くことで企業価値を算出します。

DCF法で算出される数字は企業価値です。上場企業の株価に発行済株式数を掛けると企業の時価総額が算出されますが、企業価値≠時価総額との関係です。

DCF法で上場企業の企業価値を算出することで、現在の株価(時価総額)が企業価値と比べて割高か割安か等、株式市場の相場変動に影響されない企業そのものの価値判断が可能となります。

 

ディスカウントキャッシュフロー方式の計算方法

ディスカウントキャッシュフロー方式の計算方法は下記の流れとなります。

  • フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する
  • 割引率を計算する
  • ターミナルバリュー(TV)を設定する
  • 最後に現在価値に割り引いて企業価値を算出する

フリーキャッシュフロー(FCF)を計算する

計算

DCF法では、最初にフリーキャッシュフロー(FCF)の計算が必要です。

FCFは企業が自由に使えるお金であり、企業はFCFから借入金の返済、株主への配当、事業拡大のための設備投資を行います。
FCFがマイナスの企業の場合、企業を維持するために銀行借り入れ・第三者割当増資・資産売却など、いずれ資金調達が迫られます。

ただしFCFは企業が多額の設備投資などを行うと、優良企業であっても一時的にマイナスの年が発生します。よってDCF法により企業評価を行う場合は、単年度のFCFを利用するのではなく、数年分のFCFが利用されます。

参考サイト:
https://str.co.jp/general/easy-to-understand-explanation-of-the-dcf-method

フリーキャッシュフローの計算式

上場企業などキャッシュ・フロー計算書が既に作成されている場合、フリーキャッシュフローの計算式は下記となります。

「フリーキャッシュフロー=営業活動によるキャッシュ・フロー+投資活動によるキャッシュ・フロー」
※投資活動によるキャッシュ・フローは通常マイナスとなるため、上記計算式では営業活動によるキャッシュ・フローから投資活動によるキャッシュ・フローが引かれることになる

一方でキャッシュ・フロー計算書の作成がなされていない場合は、下記の計算式で算出が可能です。

「フリーキャッシュフロー=営業利益×(1-税率)+減価償却費-投資額-運転資金増加額」

※運転資金=売上債権と棚卸資産の合計額から仕入債務を引いた金額

フリーキャッシュフロー自体は、キャッシュ・フロー計算書の有無にかかわらず、貸借対照表及び損益計算書があれば算出可能です、しかしDCF法による企業評価は、事業計画書に基づいて計算がなされます。

よって事業計画書から将来のフリーキャッシュフローを求めるために、予想損益計算書はもとより予想貸借対照表の作成も必要となります。

参考サイト:
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-11959.html

2.割引率を計算する

DCF法の考え方は、キャッシュフローを現在価値に割り引く、というものです。資本は時間の経過とともに、その価値が増殖する性質を持つ、という考え方が背景にあります(ex.銀行預金等の無リスク資産の保有によっても資本の増加が可能)。

よって事業計画書の将来計画数字から算出されたフリーキャッシュフローを割り引いて、現在価値に修正する必要があります。

尚、割引率の数値について、長期国債金利相当の場合はほぼ無リスクと考えることになります。
事業計画書の精度や企業規模にもよりますが、割引率によりDCF法の企業価値評価額には大きな差が生じます。

加重平均資本コスト(WCAA)を用いるのが一般的

DCF法の割引率には、加重平均資本コスト(WACC)の利用が一般的です。
WACC(Weighted Average Cost of Capital)は資金調達に際し、借入による資金コストと増資による資金コストを加重平均したものです。

企業は資金コスト以上の収益を上げなければ、最終的にキャッシュの蓄積はできません。よってWACCは企業として最低限超えなければいけない数字であり、ハードル・レートと呼ばれることもあります。

WACCの計算式は下記となります。

「WACC=負債総額/(負債総額+株式の時価総額)×(1-実効税率)×負債コスト(※1) + 時価総額/(時価総額+有利子負債)×株主資本コスト(※2)」

※1:負債コスト=支払利息/有利子負債
※2:株主資本コスト=株主が期待する収益

WACCは株主資本コスト=株主が期待する収益の設定により、最終的な数字が大きく変化します。

参考サイト:
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12525.html

3.ターミナルバリュー(TV)を設定する

DCF法では事業計画書などで予測可能な期間と、それ以降の期間とを分けて考えます。

その中でターミナルバリュー(TV)は、事業計画書などでキャッシュフローが計算できない期間以降について算定される永続価値を指します。

ターミナルバリューにより、事業計画書で想定された年度(ex.5年)以降のフリーキャッシュフローも、企業価値として取り込むことが可能になります。

ターミナルバリューの計算方法

ターミナルバリューの計算方法は下記となります。

「ターミナルバリュー=予想期間の最終年度のフリーキャッシュフロー÷(割引率-永久成長率)」

永久成長率とは

ターミナルバリューを求める際は、予測期間以後は一定の成長率でキャッシュフローが増加すると考えます。
そして一定の成長率を永久成長率と呼び、その数字を定める必要があります。尚、一般的にはインフレ相当率である0~1%とするケースが多く、ゼロで算定されるケースも多くなります。

最後に現在価値に割り引いて企業価値を算出する

上記の手順により、事業計画書の期間内のフリーキャッシュフロー(FCF)に加え、事業計画書以降のターミナルバリュー(TV)の算出が行われます。
そして各期のFCFについて割引率を用いて現在価値を算出し、各期の現在価値のFCFとTVを合算することで、DCF法による企業価値の算出がなされます。

参考サイト:
https://mba.globis.ac.jp/about_mba/glossary/detail-12118.html

ディスカウントキャッシュフロー方式のまとめ

スーツの女性

ディスカウントキャッシュフロー方式(DCF法)による企業価値評価の際は、様々な計算を行う必要があります。
また将来のフリーキャッシュフローを求めるための、詳細な事業計画書の作成が必要不可欠です。

更に割引率など利用する数字により、DCF法での企業価値評価は計算結果が大きく異なります。

病院や未上場企業では利用のハードルの高いDCF法ですが、業績予想等で詳細な数字の作成が必要となる上場企業では、その利用のハードルはそれほど高くありません。
欧米のM&Aでは以前から、DCF法を利用する企業価値評価は一般的であり、国内でも上場企業中心に、現在ではM&Aの際にDCF法を利用して企業価値評価を行うケースが一般化しています。

計算書類の策定など、利用に一定のハードルがあるDCF法ですが、世界的には標準的な企業評価の方法です。

今後は未上場企業においても中堅規模以上の企業では、利用されるケースが増加するのではないでしょうか。

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