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経営が上手くいっているサービス付き高齢者向け住宅の特徴

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サ高住 収支モデル

はじめに

サービス付き高齢者向け住宅は、急速に高齢化が進む日本において、重要な役割を果たしています。高齢者が自立した生活を送るための住まいとして、必要なサービスが提供される環境が整備されており、近年その需要は増加しています。

しかし、その運営には多くの課題もあります。特に、経営者にとって最も重要な要素は、入居者の確保や収益の安定性、そして質の高いサービスの提供です。M&Aでも買収の人気が高いサービス付き高齢者向け住宅ですが、必ずしも運営が順調に進むとは限りません。

本コラムでは、サービス付き高齢者向け住宅の基本的な特徴、経営タイプ、収支モデル、そして現在直面している課題や成功のためのポイントについて解説します。

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サービス付き高齢者向け住宅とは

サービス付き高齢者向け住宅の定義

サービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)とは主に要介護度が高くない自立している高齢者を対象とした、「安否確認・見守り」「生活相談」の2つのサービスを必ず受けることができるバリアフリー賃貸住宅のことです。外出などが自由にできるため有料老人ホームより自由度の高い生活を送れることが大きな特徴です。

高齢者住まい法の改正によって、2011年に創設されました。

サ高住には「一般型」「介護型」の2種類あり、ほとんどのサ高住は「一般型」です。

「一般型」では、自立〜介護度の低い方を対象とし、介護サービスが必要となった場合は外部のサービスを利用することができます。

「介護型」は厚生労働省が定めた「特定施設入居者生活介護」に指定されている施設で、要介護度が高くても入居でき、施設内の常駐スタッフから介護サービスを受けられる点が特徴です。

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◆登録基準・登録事業者の義務

<登録基準>

設備・各専用部分の床面積は、原則25㎡以上
・各専用部分に、原則台所・水洗便所・収納設備・洗面設備・浴室を備えたもの
・バリアフリー構造(廊下幅・段差解消・手すり設置)
サービス・安否確認サービス・生活相談サービスを提供していること
・少なくともケアの専門家が日中駐在していること
契約内容・長期入院を理由とした一方的な解約ができないなど、居住の安定が図られている契約であること
・敷金・家賃・サービス対価以外の金銭を徴収しないこと
・前払金において入居者保護が図られていること

<登録事業者の義務>
・契約締結前にサービス内容や費用について、書面を交付して説明すること
・登録事項の情報開示
・誤解を招くような広告の禁止
・契約に従ってサービスを提供すること

<行政による指導監督>
・報告徴収、事務所や登録住宅への立入検査
・業務に関する是正指示
・指示違反、登録基準不適合の場合の登録取消し

出典:厚生労働省|高齢者向け住まいについて

サービス付き高齢者向け住宅を取り巻く環境

登録件数の増加

2011年に「高齢者の居住の安定確保に関する法律」通称「高齢者住まい法」の施工後、全国的にサービス付き高齢者向け住宅の建設ラッシュが始まり、年々増加の一途を辿っています。

一般社団法人 高齢者住宅協会の発表によると、2015年12月末では5,885棟(191,871戸)の登録だったのが、2025年2月末では8,346棟(290,590戸)で、法整備直後のラッシュ時には及ばないものの、10年前と比べると約1.4倍の数になっており、今後も増えていくことが予想されます。

またサ高住の登録状況では北海道、首都圏、愛知、大阪、兵庫、広島、福岡といった大都市が多くなっており、医療系事業者や、不動産業、建設業からの新規参入も増えています。

実際に、買収のご相談をいただくお客様の中にも、「サービス付き高齢者向け住宅といった入居施設の買収を検討している」といったケースが多く、介護事業運営における1つのターニングポイントとして、サービス付き高齢者向け住宅をはじめとする入居系施設の運営を考えている経営者様が、多く存在しているといえるでしょう。

出典:一般社団法人 高齢者住宅協会|サービス付き高齢者向け住宅の最新動向(2025年2月)

 介護人材の需要と課題

超高齢化に伴い介護職員の需要は増加する一方、介護業界の人材不足は深刻です。​厚生労働省の推計では、介護職員数は2026年に約25万人、2040年には約57万人不足するとされています。

​これにより、介護人材の確保と定着が大きな課題となっており、国は介護職員の処遇改善、人材の確保・育成、離職防止・定着促進・生産性向上、外国人の受け入れ環境整備などの対策を講じています。

出典:厚生労働省|第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について

サービス付き高齢者向け住宅の経営タイプ

◆サ高住の経営タイプ

サ高住の経営タイプは以下の4パターンに分けられます。

  • 自主方式

    土地のオーナーがすべての業務を担当する方式です。建物の建築から運営まですべてを担い、賃料収入から人件費などの販管費を引いた残りが利益となるため、収益率はもっとも高くなります。一方で経営に関する知識や経験がかなり必要となるため、もっとも厳しい経営方法といえます。

 

  • サブリース方式(一括借り上げ方式)

    土地のオーナーがサ高住の建物を建築し、施設の運営は介護事業者が行う方式です。入居者の確保や契約は介護事業者が行わなければなりません。

 

  • 委託方式

    入居者の確保や契約はオーナー自身が行い、介護サービスは外部の介護業者へ委託する方式です。
    オーナは入居者から賃料と介護サービスの料金を受け取り、委託している介護業者に手数料を支払います。

 

  • テナント方式

    委託方式と似た経営方式ですが、入居者の確保や契約や施設の運営はオーナーが担い、介護サービスの提供は介護事業者が行う方式です。委託方式と違う点はオーナーが介護事業者から賃料やテナント料を受け取るという点です。

 

◆サ高住の収支モデル

収入と支出の差額が利益となります。一般的にサ高住の運営は安定した収益を得ることができますが、入居率や提供するサービス内容、施設の立地などによって収益性は大きく変わるため、入居者数が安定して確保できるかどうかが重要になります。

主な収入・支出の内容は以下のとおりです。

  • <収入>
    ・土地や建物の賃貸料・入居一時金
    ・テナント料
    ・生活支援サービス費
    ・市町村からの補助金
    ・食費、その他サービス費
    ・介護費用

  • <支出>
    ・土地購入費用
    ・建築費用
    ・保守費、修繕費
    ・人件費、採用費
    ・経費(備品代・水光熱費)
    ・各種税金

~ ポイント ~

  • 入居者の高齢化や退去による空室リスクに備え、常に入居者を確保するためのマーケティングやサービス改善が重要です

  • 介護保険の変動や法改正によって、収入の見込みの変動が生じます

最も多く運営されているサービス付き高齢者向け住宅の収支モデルは?

介護付き有料老人ホームなどと比べて諸々に関わる基準が緩やかで、参入障壁が低いサービス付き高齢者向け住宅ですが、その始めやすさ故に様々な規模のサービス付き高齢者向け住宅が存在します。皆様の周りにも1棟あたり15戸程度の比較的小規模なものから、1棟あたり50戸程度の大きなものまで、様々な規模のサービス付き高齢者向け住宅があるのではないでしょうか。

しかし、買収先として人気が高いサービス付き高齢者向け住宅の規模は、1棟あたり30戸以上の規模です。

一般社団法人 高齢者住宅協会の統計(2024年1月末時点)によれば、全国にあるサービス付き高齢者向け住宅は8,275棟(286,244戸)で、1棟あたりの平均戸数は34.5戸となっています。この平均値からもわかるように、一定の戸数を確保することで損益分岐点を超えやすく、安定した運営が可能になります。

一方、戸数が少ない施設は収益化が難しく、運営が厳しくなる傾向があります。また、50戸を超える大規模施設の場合は、建築コストや人材確保の負担が増すため、それらを乗り越える資本力が必要とされます。

こうした背景から、30戸前後のサービス付き高齢者向け住宅は、収益性と運営効率のバランスが最も良いとされ、M&A市場でも高く評価されています。実際に、15戸前後の小規模施設を運営されている事業者様からの譲渡相談が増加傾向にあります。

出典:一般社団法人 高齢者住宅協会|サービス付き高齢者向け住宅の最新動向(2024年1月)

サービス付き高齢者向け住宅のビジネスモデルと深刻な人手不足

サービス付き高齢者向け住宅の基本的なビジネスモデルは、入居者に訪問介護や訪問看護などの介護サービスを提供し、その対価として家賃や介護保険料を受け取ることで利益を得る仕組みです。入居者の介護度が高いほど、収益が大きくなる傾向があります。

しかし、介護サービスを提供するには、適切な人員が必要です。

介護度が低い入居者が多ければ、人件費が抑えられる一方で収益も減少し、
介護度が高い入居者が多ければ、人件費は増えますが収益も向上する

という、一長一短な状況に陥ります。

結論からお伝えすると、入居者の平均介護度を3前後に保つことが、「最も成功している事業所」とされています。しかし、この平均介護度3の入居者を支えるためには、十分な人員を確保できるかどうかが課題となります。

特に、”人手不足が深刻な事業者や地域”では、必要な人員を確保できず、結果として介護度が低い、または自立した入居者しか受け入れられないケースが多発しています。このような状況では、収益を確保することが難しくなります。

しかし、裏を返せば、人員の確保ができれば収益を安定させることが可能です。

そのため、”スタッフの確保に苦戦しているサ高住のオーナー”と”スタッフが確保できているがサ高住を持っていない事業者”の間で、事業承継が活発に行われているのです。

サービス付き高齢者向け住宅の経営に求められること

先述のとおり、サ高住の開設が増えているため、経営戦略として他社との差別化が非常に重要になってきます。また介護報酬改定による収益減や入居者の高齢化や退去による空室リスクに備え、常に入居者を確保するためのマーケティングやサービス改善が必要です。
集客には以下のような取り組みが考えられます。

1. マーケティングで入居者の獲得と維持

効果的なマーケティングにより、ターゲットとなる高齢者やその家族にサ高住の魅力や提供するサービスを伝えられれば、集客につなげることができます。また、既存入居者に対しても満足度を高めるため、情報発信やコミュニケーションが重要です。

以下はマーケティングの一例です。

デジタルマーケティングホームページの最適化、SNSの活用、オンライン広告などを通じて情報発信
イベント開催見学会や説明会、地域イベントへの参加を通じて直接的な接触機会を増やす
パートナーシップ医療機関や介護施設、地域の企業との連携を強化し、紹介制度を構築
広報活動地域紙やラジオ、テレビなどのメディアを活用した広報活動

マーケティングは、単に入居者を増やすためだけでなく、施設の信頼性やブランド価値を高め、地域社会とのつながりを強化するためにも重要な役割を果たします。また自社ブランドを確立し、地域での評判や信頼性を築くことで、入居希望者に対して安心感を与えることができます。

2. 市場分析とターゲティング

市場分析によって地域の高齢者人口やニーズ、競合施設の状況を把握し、ターゲット層を明確にすることで、最適なマーケティング戦略を策定することができます。ターゲット層に合わせたサービス提供やプロモーション活動が重要です。

3. コミュニケーションと情報発信

自社のサ高住の特徴や提供するサービス、イベントなどの情報を効果的に発信するために、ホームページ、SNS、パンフレット、広告などを活用し、ターゲット層に適切な情報を届けることが求められます。

4. 入居者満足度の向上

満足度調査などを通じて入居者からフィードバックを収集し、それを基にサービスの改善や新しいサービスの導入を行うことができます。
入居者のニーズに応えることで、満足度を高め、口コミや紹介による新たな入居者獲得にも繋がります。

また質の高い介護スタッフや医療スタッフを揃え、リハビリや認知症予防など、専門的なサービスも提供することで、入居者の満足度を高めます。ほかにも定期的な健康チェックや、栄養管理、運動プログラムなど、健康維持のためのサービスを提供することで、競合施設と差別化を図ることがでしょう

5. 地域との連携

地域の医療機関、介護施設、自治体などと連携を強化することも大切です。地域の医療機関や福祉施設と連携し、地域密着型のサービスを提供することで、入居者の生活の質を高めます。
また地域イベントへの参加や、地域住民との交流を通じて、自社のサ高住の存在感を高めることができます。

~ 収益性を上げるためのポイント ~

〇高入居率の確保

空室が多いと収益が安定しません。入居率を高く保つことが、サ高住の収益を安定させる鍵となります。入居希望者を確保するためには、マーケティング活動を積極的に行うことが重要です。

〇効率的な運営管理

コスト管理や効率的な運営が求められます。例えば、人員配置を最適化したり、必要最低限のサービスを提供することで、運営費を抑えることができます。

〇高付加価値サービスの提供

介護や生活支援のオプションサービスにおいて、利用者からの追加料金を収益に結びつけることができます。特に、個別の介護ニーズに対応するサービスが求められます。

【当社事例】サービス付き高齢者向け住宅のM&A

当社でサ高住のM&Aをご支援した事例をご紹介します。

<ご相談いただいた経緯>

譲渡企業様は薬局事業を中心に展開しており、薬局とのシナジーを考えてサービス付き高齢者住宅を始められましたが、不採算の状況が続いたため承継を決心されました。当社に相談いただいた際は、サービス付き高齢者住宅のみの運営されており、訪問介護事業等は行っておりませんでした。

<当社アドバイザーからのご支援>

本件のサ高住では、介護サービスの提供をされていなかったため、事業所近隣で介護事業を運営していて、シナジー効果が発揮できる法人にターゲットを絞り、譲受先候補を探すことをご提案いたしました。

また 赤字幅が大きかったため、家主である譲渡企業様に家賃交渉をご支援し、1年間のフリーレントという条件をご提案させていただき、成約につながりました。

<譲受企業様について>

以下2点の理由からご興味を持ってくださいました。
・既存事業所と距離が近く、現場の従業員の負担があまり増えなかった
・家賃交渉ができたおかげで、半年足らずで黒字化できる見込みが立った

本ケースにおける成約のポイントです。

  1. 利用者とスタッフへの説明
    サ高住の入居者の介護度は、要支援と自立が9割を占めており、この状況を変えなければ黒字化は不可能であるということが、売手様と買手様の共通認識でした。スタッフの業務は見守りと食事の配膳をメインで行っていましたが、承継後は業務内容が大きく変わることを前提に従業員告知を行い、勤務の継続が可能かどうかすり合わせを行いました。
    結果的に、無資格者の方は離職することになってしまいましたが、その分の人件費で有資格者の方を採用し、利用者の新規受け入れと平均介護度の上昇をすることができたため、早期に黒字化の目途を立てることができました。

  2. 家賃交渉
    不動産は引き続き売主様が保有することとなったため、売主様と家賃交渉を行い、1年間のフリーレント(家賃無料)と、さらに半年間の家賃の割引を契約内容に追加しました。 最初、売主様も賃料のご提案には驚かれていましたが、このまま赤字が続くとスタッフに還元できないというデメリットから、ご承諾されました。

さいごに

当社では人手不足が原因で収益が悪化した事業所の事業承継を、お手伝いさせていただくケースが多くなっています。
どのような買手がいるのか、成約事例が知りたいなど、些細なことでも構いません。まずはお気軽にご相談ください。

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作成日:2023年11月7日

コラム監修者

マネージャー
T.FUNAMOTO

  • 経歴
    九州の国立大学を卒業後、CBグループに新卒入社。病院・薬局・介護施設を対象としたコンサルティング業務を経て、2020年度よりM&A業務に従事。介護分野を中心に、これまで累計30件以上の成約支援に携わる。