病院・クリニック業界は、日本の医療の根幹に当たります。

医療・介護・福祉業界に寄り添う当社として、病院・クリニックの業界は、正に日本の幹であると考えております。

しかし、2012年時点で1,511万人だった後期高齢者(75歳以上)人口は、団塊の世代の高齢化によって、2025年には、2,179万人程度まで増加し、日本の5人に1人が後期高齢者となるとされています。

現実を帯びてきた超高齢化社会を背景に、日本の医療の根幹である病院やクリニックにも、
経営難や後継者不足の問題がすぐ近くまで迫ってきている状況となりました。

そんな中で、医療・介護・福祉業界に特化したM&AアドバイザリーであるCBパートナーズに、病院やクリニックのM&Aのご相談を頂ける法人様も増えてきており、病院やクリニックを第三者に承継するという選択肢が、現実的な選択肢として受け入れられ始めています。

このページでは、病院やクリニックを第三者に承継するM&Aについて、
病院・クリニック業界のM&Aにおける特徴と、それを踏まえたメリットをお伝えし、
病院・クリニック業界でのM&Aのポイントをご紹介させていただきます。

 

病院・クリニック業界の現状 Current status

業界定義

病院とは、法律上では「医師または歯科医師が,公衆または特定多数人のために医業や歯科医業を行なう場所」と規定されており、複数の診療科と20以上の病床を持つ医療機関のことを指します。

業界定義

出典:医療施設の類型より
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/kousei/10-2/kousei-data/PDF/22010206.pdf

具体的には、大学病院、市民病院といった、いわゆる総合病院のことになります。

一方、クリニックとは、医師や歯科医師が診察をするところは同じですが、病院との違いは、
「病床が少ない or 持っていない」 というところになります。

街中でよくみかける医療機関は大抵”クリニック”に分類され、体調不良や怪我で実際に診察のために行く人が多い施設がクリニックとなります。

一般的に、入院を必要としない、そこまで重篤ではない疾患はクリニック、入院を必要としたり、重度な疾患などは病院というように、両者の住み分けがされているのも特徴です。

急速に高齢化が進む日本では、病院・クリニックの業界は、これまで以上に日本医療の根幹としての役割が非常に大きくなってきています。

社団法人の病院・医療法人

一般的な病院・医療法人の大半が社団法人の形態です。社団法人は複数人が出資して設立する法人で、出資者は社員となり出資額に応じて出資持分を有します。また退社や法人の解散の際に、持分に応じて払戻し・分配を受けることが出来ます。尚、社団法人の社員は一般的なイメージの社員とは異なり、株式会社の株主に該当する存在です。

社員の退社や法人の解散の際は、法人が出資時より成長していれば、成長に応じた払戻し・分配金を得ることができます。株式の場合のキャピタルゲインの獲得を、出資者は法人の成長に応じて獲得できます。

尚、出資持分の定めのある医療法人のみならず、出資持分の定めのない医療法人も存在します。

ただし第五次医療法改正により、2007年(平成19年)4月1日以後に社団法人を新規設立する場合は、持分なしの医療法人しか認められません。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000084153_3.pdf#search=’医療法人社団とは’

財団法人の病院・医療法人

財団法人とは個人または法人が無償で寄附した財産に基づいて設立される法人であり、財産の提供者(寄附者)に対しても持分を認めていません。解散の際は理事会で残余財産の処分方法を決め、知事の認可を受けて処分します。

社団法人は社員=人、財産=出資の両者から構成されるイメージとなりますが、財団法人は一定の目的の下に拠出された財産そのものが法人というイメージです。理事や評議員は財団法人に雇われる関係となります。

財団法人は寄附による財産的な裏付けがなければ設立できませんが、同族経営による寄附の場合は、贈与税の課税対象となります。よって財団法人の病院・医療法人の設立のハードルは非常に高く、現在では殆ど見られません。

【参考記事】
http://zaidanhoujinka.com/index.php?医療法人財団って何? メリットは? なぜ今ほとんど設立されないの?&_fsi=unOzbX6N

https://realcontents.jimdo.com/医師の開業-独立について/医療法人の一種-財団医療法人-のメリット-1/?_fsi=nePiHa5X/

業界の構造

医療サービスは、国、自治体、日本赤十字社、学校法人、社会福祉法人、医療法人、個人などが提供しています。原則、株式会社の医療サービス提供は許可されていません。ただし例外的に、大企業が社員の福利厚生に役立てるために所有し経営する病院も存在します。

また医療法人には社団法人として、持分の定めありの社団法人、持分の定めなし社団医療法人(社会医療法人、特定医療法人、特別医療法人、基金拠出型医療法人)、財団医療法人が存在します。

ただし医療サービスを提供する病院・クリニックには様々な組織が存在しますが、絶対数では“出資持分の定めあり”の社団法人が最も多い状態にあります。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_shusshi_09.pdf#search=’医療法人社団とは’

病院・クリニック業界の経営環境

厚生労働省が発表した第21回(平成29年実施)医療経済実地調査(医療機関等調査)によると、一般病院全体の損益率では約6割(58.1%)の病院が赤字という結果が判明しました。また国公立を除く一般病院でも約5割(47.4%)が赤字です。

高齢化社会の到来により患者数は増えているものの、病院の約半数が赤字経営を余儀なくされる実態が明らかです。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/bunya/iryouhoken/database/zenpan/jittaityousa/dl/21_houkoku_iryoukikan.pdf#search=’病院の損益率分布’

また医療費は平成29年度42.2兆円となり、4年続けて40兆円を突破しました。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-12401000-Hokenkyoku-Soumuka/0000177608.pdf

そして「平成28年度国民医療費の概況」によれば、国民医療費の国内総生産(GDP)に対する比率は7.81%、国民所得(NI)に対する比率は10.76%です。

平成28年度国民医療費

出典:厚生労働省 平成28年度国民医療費の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-iryohi/16/dl/data.pdf

グラフで医療費全体及び対GDPやNIの比率の推移を見ると、ピークを打ったかにも見えます。しかし人口のボリュームゾーンでもある団塊の世代の後期高齢者入りが迫っており、今後更なる医療費及び国民負担の増大が予想されます。

通常の企業なら顧客の増加が見込まれる、“良好な市場環境”といえる状況です。しかし病院・クリニックの場合、高齢化社会到来による患者数の増加はあるものの、慢性的な人手不足の中で、数字的にも厳しい経営環境に置かれています。

医療費の国民負担も増大する中で、今後大幅な保険料収入の増加も見込めないため、病院にとって厳しい経営環境は当面継続すると予想されます。高齢化の問題は病院経営者(理事長)にも発生しており、経営環境面に加えて病院経営者自身の高齢化という点からも、今後更なる病院経営の効率化が求められるのではないでしょうか。

【参考記事】
https://jp.ub-speeda.com/analysis/archive/07/

病院・クリニック業界と非営利性について

病院・クリニックの経営は、国民皆保険制度と切り離せない関係にあります。健康保険や介護保険などは、税金のように強制力のある制度として、公的保険料だけではなく税金が投入され成立しています。よって医療サービスは、単に経済合理性のみで割り切れるサービスではありません。

本前提があるため、国民全体に広く良質な医療サービスを提供できるか、赤字を理由に早期に撤退せずに継続的な医療サービスの提供は可能か、という点が医療機関では常に議論の対象になります。

よって組織として利益を追求する仕組みである株式会社には、原則として医療サービス提供は許可されていません。

【参考書籍】
『ひと目でわかる病院業界』(梛野順三)

営利法人はオーナーになれない

医療法人の殆どが出資持分ありの社団法人となりますが、社団法人の出資持分の取得は個人でも法人でも可能です。しかし株式会社では出資と経営権はセットなのに対し、社団法人では出資と経営権は別々に存在します。

社団法人の経営の最高決定機関は社員総会であり、社員総会は株式会社の株主総会に相当します。株式会社では法人も株式を取得すれば株主となれますが、社団法人の社員は個人にのみ認められており、法人は社員総会への参加権を有する社員にはなれません。

そして1人1議決権という投票ルールも定められています。よって営利法人のオーナーが個人の資格で出資持分の大半を取得した場合でも、社員総会での議決権は1票に過ぎないため、それだけでは経営権の取得はできません。

営利法人の役員・職員は理事になれない

医療法人の理事長は、原則として医師以外の就任はできませんが(例外規定は存在)、理事には医師以外も就任が可能です。しかし理事であっても医療法人と取引関係にある営利法人の役員は、理事への就任は難しいといえます。

医療法第46条6項4号には、理事の忠実義務、競業及び利益相反取引の制限についての規定が存在します。本規定の存在から、取引関係にある営利法人の役員の理事就任は難しい状態にあります。

法令的な観点のみ考えれば、医療法人と取引関係にある営利法人の役員の理事就任は可能です。しかし様々な許認可権を持つ自治体に対して、詳細の説明が求められる事態が予想されます。仮に取引関係にある営利法人の役員が理事を兼任する場合、忠実義務、競業及び利益相反取引の制限について、第三者からの懸念を抱かれない証票・理由が必要不可欠です。

【参考文献】
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/iryo/hojin/tebiki.files/dainisyo-iryohojin-no-setsuritsu.pdf

【参考記事】
https://nishioka-office.jp/kaitou12.html
http://www.fujii-jimusho.com/iryou/iryouhou2a.html

病院・クリニック業界のM&Aの動向

病院・クリニックが置かれている状況の中で一番大きなトレンドは、やはり日本全体で急速に進む高齢化です。

高齢化による、社会保障費の負担増や医療制度改革により、診療報酬の切り下げが続いています。
この診療報酬は病院やクリニックの収益の柱であり、国の制度によって切り下げられてしまうことにより、病院・クリニックの経営が努力だけではどうにもならなくなってしまうという状況も見えてくるところまで来ています。

また、病院・クリニックでは慢性的な人材不足もあり、医師だけではなく、看護師を含めた、サービスの質を左右するような有資格者の確保にどの医療機関も苦戦しています。

特に看護師に関しては、”7対1看護配置”の制度において、1名の看護師に対し患者が7名配置されている状態であれば、高い診療報酬を受けることができると設定されており、逆に、看護師1名に対しての患者数が多くなっていくほど、診療報酬が低くなっていってしまうため、看護師の採用は、病院・クリニックの収益性を維持・向上させる意味でも非常に重要になっています。

その中で、病院・クリニックの業界は、日本の人口や年齢構成、政策等を考慮しても残念ながら今後市場の環境が大きく好転する要素は少なく、各病院・クリニックは生き残りをかけ、経営判断をすることを迫られており、経営者の高齢化もあいまって、地域医療・事業継続のために、M&A自体が増加傾向にあります。 特に、クリニックを個人で開業できる若手医師に対して、比較的小規模なクリニックのM&Aが今後注目されています。

M&Aを活用するメリットとは

譲渡(売り手)のメリット

病院・クリニックの譲渡を行う側(売り手)の代表的なメリットは、下記5点があります。

  • 後継者不足の問題解決
  • 経営の安定化
  • 従業員の雇用の安定
  • 設備投資
  • 創業者利益の獲得

後継者不足の問題解決

子供など創業者の親族が医者となり後継者となる場合でも、設備投資による多額の借入金の存在等により後継者が尻込みするケースがあります。
実際に、倒産する企業の要因には後継者がいないケースが大半を占めています。

倒産件数の推移

出典:厚生労働省「労働経済の推移と特徴」
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-1-1_02.pdf

一方で信頼できる部下を後継者とする場合、出資持分を買い取る資産的な余裕がないケースが殆どです。

よって譲渡は、後継者不足の問題解決策として有力な選択肢となります。

【参考文献】
https://www.jftc.go.jp/cprc/katsudo/bbl_files/148th-bbl.pdf#search=’医療法人のM%26Aの実態’

経営の安定化

高齢化社会の進展による医療と介護の相互連携や、高額の医療機器の必要性など、小規模な医療法人では対応できない問題が現在では多く発生しています。

複数の病院を持つ資本力のある医療法人なら、医師・看護師の増員も資金的な余裕から可能です。

資本力のある医療法人に病院・クリニックを譲渡することが経営の安定化につながり、その結果として提供する医療サービスの質の向上にもつながります。

従業員の雇用の安定

病院・クリニックの買収が可能な医療法人は、規模の大きい医療法人に限られます。規模の大きい医療法人に買収されることで、従業員の雇用の安定も確保できます。

経営状態の厳しい病院が経営に余裕がある病院に買収された結果、従業員の給与がアップして、雇用が安定するケースもしばしばあります。

設備投資

現代の医療にはCTやMRIなど高額の医療機器が必要不可欠であり、医療法人にとって必要とされる設備投資資金の捻出は経営上の大きな課題です。

必要性が認識されながらも小規模医療法人では資金面から見送られていた設備投資が、譲渡により大手医療法人の傘下入りすることで前進します。

創業者利益の獲得

社団法人の病院の場合、社員の退社の際に出資金の払戻し・分配金を得ることができます。病院の売却により創業者である社員が退職する際、創業者は病院の成長に応じた創業者利益の獲得が可能です。

これにより創業者に対して過去の経営の労苦に報いるとともに、M&A後の生活資金の不安を取り除くこともできます。

譲受(買い手)のメリット

次に病院・クリニックの譲受側(買い手)のメリットとして、主に下記5点をあげることができます。

  • 有資格者の人材確保
  • 診察領域の拡大
  • 専門性の強化
  • 病床規制への対策
  • コスト削減効果

有資格者の人材確保

病院・クリニックを買収することで買い手は、対象先の有資格者を自社グループに受け入れることになります。各部門において人手不足感の強い医療業界において、有資格者の確保はいずれの医療機関にとっても頭の痛い問題です。

よって買収の実行が、人材面の課題解決に向けた大きな一歩となる可能性があります。また同一地域での買収が行われる場合、地域内でのグループの存在感向上が、医師・看護師・薬剤師などの有資格者の確保に大きな効果が生じることも期待できます。

【参考書籍】
『病医院・介護施設のM&A成功の法則』(谷口慎太郎)

診察領域の拡大

専門的な知識が求められる近年の医療現場では、診察領域の拡大について専門医師の確保から設備投資まで、広範囲な投資が必要とされます。よってゼロから新しい診察領域を立ち上げるよりも、既に該当領域を手掛ける病院・クリニックの買収を行うことで、スピーディーな立ち上げが可能です。

スピーディーに新規事業への進出が可能という、企業のM&Aでの買い手側の代表的なメリットに重なりますが、医療法人のM&Aにおいても買い手のメリットとして、新しい領域へのスピーディーな展開が可能となります。

専門性の強化

既に保有の診察領域と重複する医療法人を買収する場合、人的なリソースの拡充により深堀が可能となり、専門性の強化に繋げることができます。

得意分野を伸ばすパターンのM&Aの形であり、既に手掛けておりノウハウを有する領域だからこそ、買収後の展開もスムーズに運ぶことが可能です。

企業のM&Aと同様、既存部門の強化するための買収も、医療法人において有効に機能します。

病床規制の対策

医療費の膨張を防ぐため、既に病院は自由に病床数を増やすことはできず、病床の総数は地域ごとに大枠が決められています。病院側が事業拡大のため病床数拡大を志向しても、行政の病床規制対策により拡大は容易ではありません。

一般病床・療養病床の病床数の推移 一般病床及び療養病床の病床数の推移(平成5年を1とした場合) 基準病床数に対する病床数の推移

出典:厚生労働省「基準病床数制度について」
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000000zc42-att/2r9852000000zc7d.pdf

しかしながら病床を有する医療法人の買収を行うことで、グループとして病床数の増加を果たすことができます。

医療事業の拡大には、受け入れ患者数の総量が決まる病床数の拡大は欠かせません。医療機関の買収には、規制下で容易に増やすことのできない病床数を買う、という側面も存在します。

【参考記事】
http://www.office-tomiyama.com/ma5.html

コスト削減効果

買収による規模の拡大により、様々な物品の購買力が強化され価格交渉力がアップします。主にボリュームディスカウントを背景とするコスト削減効果は、買収の重要な効果の一端を担います。

買収による規模の経済を活かしたコスト削減を行うことは、取り扱い物品の数が多い医療法人では、企業のM&A以上に効果が生じる可能性があります。

一般的なM&Aとの違い

企業を対象とするM&Aの場合、買い手側と売り手側の企業はいずれも株式会社のケースが殆どです。よって会社によってケースバイケースの面はあるものの、根本の部分では株式会社間のM&Aという共通点があります。

一方で病院のM&Aの場合は一言で医療法人といっても、社団法人・財団法人などの組織の違いに加えて、設立母体も個人オーナーから始まり、国・自治体そして社会福祉法人や学校そして企業まで様々です。

医療法人のM&Aでは医療法人の種類に加え設立母体の多様さが、手続きを煩雑にする大きな理由となっています。

【参考書籍】
『病医院・介護施設のM&A成功の法則』(谷口慎太郎)

社員への出資金の返還が必要

持ち分の定めありの社団医療法人の場合、出資者に当たる社員が退社する際は、社員は出資持分について、その割合に応じて払戻しを請求する権利があります。

企業のM&Aの場合、売り手側企業が出資者に対して資金を支払うケースは殆どありません。買い手側が株式の売り手となる株主に対して、株式の購入代金として資金を支払うケースが殆どです。

しかし医療法人では、退職社員に対し出資金の返済という形で出資金が払い戻される(病院から資金が流出する)、企業のM&Aにはない特徴があります。

 

病院・クリニック業界のM&Aで抑えておくべきポイント Points

病院・クリニック業界特有の留意点を理解する

病院・クリニック業界のM&Aには、独特の留意点が存在します。代表的な4点を下記に取り上げました。

  • 診察内容(科目)
  • 患者(カルテ)数
  • スタッフ数
  • スタッフの引継ぎ

診察内容(科目)

病院・クリニックのM&Aでは、診察科目としては内科と外科の人気が高い状態です。また美容外科や歯科医院は買い手側からの譲渡希望が多い状態にあるため、譲渡される件数も多いといえます。

企業買収では、買収した相手先の事業が最終的に重荷となり赤字が続いた結果、M&Aが失敗に終わるケースが度々発生します。買収前より買収後に採算性が悪化するケースもあります。病院・クリニックの経営に決定的な影響を持つ診察科目について、買収後も十分な採算性を見込めるのか、充分な検討が必要です。

患者(カルテ)数

病院・クリニックは、極論すれば患者が集まらなければ採算は取れません。よって買収する病院・クリニックがどの程度の患者を抱えているかを知ることで、基礎的な収益力の把握が可能です。

また現在の患者数だけでなく、病院の所在する地域住民の性別や年齢の割合も買収の判断材料となるケースもあります。足元では患者数が堅調に増えていても、今後10~20年スパンで考えると、患者数の激減が予想される地域も存在します。

よって現在の患者数のみならず、周辺地域の人口構成などから、将来的な患者数の分析も重要です。

スタッフ数

特に有資格者については、医療業界全体で人手不足に陥っています。慢性的な人手不足の中で、人手不足解消のために行う病院・クリニックの買収は有力な選択肢です。

どの程度の数の人材を確保できるのか、という点は買収後の展開を考える際に必要不可欠な視点です。単に医療法人という箱を買収しても、実際に日々のオペレーションを行うスタッフがいなければ事業の拡大は不可能です。

医療業界の慢性的な人手不足は、当面解消される見込みはありません。スタッフの数の確保にも買収は有効活用できます。

スタッフの引継ぎ

せっかく買収で確保した人材も、病院を去っては意味がありません。

また、人員の配置標準もあるため、最低限の人材は確保しておかなくてはなりません。

医療施設別、病床区分別の人員配置標準について 参考データ

出典:厚生労働省「医療法に基づく人員配置標準について」
https://www.mhlw.go.jp/shingi/2007/03/dl/s0323-9b.pdf

主要メンバーは契約などで縛ることもできますが、病院全体のスタッフを見据えれば、そのまま病院に残ってもらえるような環境作りも大切です。

人材面は最も数字で表すことが難しい部分となります。しかしながら、買収後にスタッフがごっそり抜けてしまえば、せっかく買収した医療法人の価値は大幅に棄損します。新たなスタッフ採用が困難な中、既存スタッフをやめることなく引き継ぐことも非常に重要です。

医療法人の類型別に手続きが異なる

医療法人は、通常の法人(株式会社や有限会社)とは手続きの種類や方法も異なってきます。また、医療法人の中にも数種類あり、それぞれにM&Aの手続きが異なってきます。

医療法人のM&Aは、通常の法人(株式会社)とは手続きの種類や方法も異なります。また医療法人の形態も複数種類あり、それぞれ手続きが異なります。

また医療法人には法人の種類だけではなく、様々な設立母体が存在します。そしてその設立母体により管轄官庁も異なるため、M&Aの際のプロセスは設立母体及びその管轄官庁にも大きな影響を受けます。

医療法人の種類自体の多さもありますが、設立母体の多様性が医療法人のM&Aを複雑にしている大きな要因の一つです。複雑で詳細な手続きが必要となる医療法人のM&Aは、経験ある専門家への相談が必要不可欠となります。

医療法人の種類や母体毎に異なる手続きが必要となりますが、代表的な例として財団法人の例、社団法人の例の2つを下記に取り上げました。

【参考書籍】
『病医院・介護施設のM&A成功の法則』(谷口慎太郎)

財団

財団医療法人には、株式に相当する出資持分という考え方自体が存在しません。ただし逆に考えれば、株式会社での取締役会に当たる機関の掌握により事実上の買収が可能です。

財団の意思決定権者は下記の3者です。

  • 最高意思決定機関である理事会及び理事
  • 理事の業務執行を監督・監査する監事
  • 財団法人の運営がその目的から逸脱していないかを監視する評議員

理事・監事・評議員を、買い手側が指名するメンバーで構成できれば事実上の買収となります。

【参考記事】
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji153.html#17
http://www.1-zaidanhoujin.com/hyougiin/

社団

株式会社の場合は、過半数以上の株主シェアを保有すれば、株主総会に加えて取締役会の過半数の指名ができ、株主による会社のコントロールが可能です。よって過半数以上の株式取得ができれば、実質的には買収が完了します。

一方で社団の場合は、社員=株主ではなく、出資を行わない社員も存在します。よって出資と社員の立場は別個の存在です。

よって社団の買収を行う際は売り手から、社員の出資持分の買い取りに加えて、売り手の社員という立場からの退任(退社)も必要です。そして買い手側の社員により、社員総会の過半数を占める状態とすることで実質的な買収がなされます。

【参考文献】
https://www.jftc.go.jp/cprc/katsudo/bbl_files/148th-bbl.pdf#search=’医療法人のM%26Aの実態’

買い手が限定される

特に病院については、運営母体が医療法人に限定されてしまうため、事業譲渡という形よりは、医療法人をそのまま譲渡するという形を多く取ります。 そのため、医療法人を引き継げる法人しか、買収することができないため、譲り受の企業を見つけるのも一苦労となってしまうのです。

また法律などの規定から、医療法人の株主ともいうべき社員には個人しかなれず、株式会社などの法人は社員となることはできません。よって資本力のある上場会社でも医療法人を直接的に買収することは不可能です。医療法人の買収が可能なのは、合併などができる医療法人に限られます。そして他の医療法人を買収できる程の資本力や経営力のある医療法人も、限られているのが実状です。

平等な医療を受けられるために医療機関の利益追求を認めない、という理念の下で現行の医療法人に対する法的枠組みが定められています。しかしその結果として、医療法人の買収が可能なのは実質的には医療法人に限られる、という制度上のハードルが存在します。

経営権のコントロール

株式会社の場合、発行済み株式数の過半数の株式を取得することで株主総会及び取締役会の支配が可能であり、経営権を取得することができます。

医療法人の多くを占める社団法人において、最高意思決定機関は社員総会です。株式会社の場合、株主総会で株主の持ち株比率に応じた議決権が割り振られますが、社団法人の社員総会では出資額の過多に関係なく社員1人につき議決権1票と、社員間の票数は平等に割り振られています。

よって医療法人の経営権の掌握には、企業とは異なる方法が必要です。

直接経営

直接経営は、資本面及び社員総会面の両面から医療法人の経営を掌握する方法です。

まず買い手側の医療法人が、売り手の医療法人の社員から出資持分の過半数の買い取りを行うことで、資本面から売り手医療法人を掌握が可能です。

しかし財団法人の最高意思決定機関は社員総会です。また社員総会は出資額に関係なく、社員1人について議決権1票というルールが存在します。よって買い手側の医療法人は、売り手側医療法人の社員総会において、自らの意見に賛同する社員数が過半数となるよう、社員の派遣が必要です。

出資という資本、社員総会という決定権の両面を直接買い手が掌握することで、医療法人の経営のコントロールが可能となります。

関節経営

現時点では法律上の規定から、医療法人の株式会社化は認められておらず、また医療法人の経営権の取得には出資と社員の2つのハードルを越える必要があります。よって株式会社が医療法人を買収して病院経営を行うためには、超えるべき高いハードルが存在する状態です。

しかし株式会社が医療法人の経営権を取得する方法として、間接経営という方法があります。

間接経営を行う際は、医療法人の出資持分を有するMS(メディカルサービス)法人の株式を取得する、診療報酬債権や病院保有の不動産を担保に取る等、債権者など間接的な立場で医療法人の経営に関与することになります。

ただし間接的な影響力の行使は可能ですが、経営権の掌握は限定的なものに留まります。

病院・クリニック業界のM&Aにかかる時間

ケースバイケースではあるものの、企業間ではM&Aにかかる時間は概ね半年程度となります。

病院・クリニック業界の場合もケースバイケースとなりますが、企業に比べ時間がかかる傾向にあり、M&Aにかかる時間は半年から1年程度です。

病院・クリニック業界のM&Aが企業に比べ時間がかかるのは、

  • そもそもM&Aを行う病院・クリニックが少ない
  • 行政機関が関わる

という理由が背景にあります。特に行政機関が関わる点は病院・クリニックのM&Aの特徴であり、手続きに時間がかかる大きな要因です。

そもそもM&Aを行う病院・クリニックが少ない

しかし企業のM&Aに比べると、病院・クリニックのM&Aは買い手及び売り手のいずれも数が不足している状態です。特に売り手の数が非常に限られており、病院ブローカーが暗躍する一因ともなっています。

企業のM&Aでも売り手の確保が重要視されますが、病院・クリニックの場合も同様です。買収意向のある病院・クリニックがあった場合でも、売り物となる病院・クリニックがなければ検討の俎上にすら載せられません。

売り物がなければ、M&Aの入り口段階で時間経過は必然的に発生します。ただし今後売り手となる病院・クリニックの数が増加すれば、病院・クリニックのM&Aも入り口段階での時間短縮がなされるのではないでしょうか。

行政機関が関わる

企業と病院・クリニックのM&Aの大きな違いの1つは、国や自治体といった行政機関が関与する点です。

国民皆保険制度の下で、医療報酬の源泉となる健康保険には多額の公的資金が投入されており、病院・クリニックには様々な場面で行政機関の関与があります。

M&Aを行う際も同様であり、行政機関に対して丁寧な説明が必要です。企業のM&Aにおいても、行政の許認可が必要となる場合や公正取引委員会が関与する場合は、通常のM&Aに比べ時間がかかる傾向にあります。

しかし企業のM&Aでは、行政機関が関与するケースは大企業を除けば少数派です。一方で病院・クリニックのM&Aにおいては、殆どの場合に行政機関の関与が発生します。よって行政機関が関与する企業のM&Aが通常のケースより時間がかかるのと同様、病院・クリニックのM&Aは時間がかかることになります。

病院・クリニック業界の譲渡価格の相場

M&Aは譲渡側と譲受側の同意によって、価額等が決められるため、絶対的な相場というものがあるわけではありません。

特に施設周辺の人口や建物の状態など、複雑に絡み合った条件によって、
ある程度の譲渡価格を算出することは可能です。

ただ、ご自身で計算をするのは非常に手間と時間がかかりますので、
専門家である我々CBパートナーズにご相談ください。

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資産基準+営業権方式

資産基準+営業権方式は、既に保有する資産(現預金、設備、不動産など)をベースとする価格算定方式です。病院・クリニックの貸借対照表を元に譲渡価格が算出されます。

現預金や不動産など換金性が高い資産を持ち、また借入金が少ないほど、高い譲渡価格となります。

また資産という過去のストックのみならず、今後価値を生むであろう営業権も加味することで譲渡価格が算出されます。

過去に積上げたストックを重視しつつも、将来的な収益の両面に着目した価格算定方式です。

買収事例比較方式

企業間M&Aに比べ数は少ないながら、病院・クリニックのM&Aは毎年着実に行われており、過去のM&Aの事例データは蓄積されています。

買収事例比例方式は、過去にあったM&Aの譲渡価格を参考として、譲渡価格を計算する算定方法です。

対象となる病院・クリニックの貸借対照表などの資産性がベースとはなりますが、それに加えて他のM&A事例を踏まえた上で、譲渡価格が算出されます。

上場会社同士のM&Aを行う際、他の類似上場会社の株価や同様のM&Aの際の株価を参考とするケースがありますが、買収事例比例方式は類似の計算方法といえるでしょう。

ディスカウント・キャッシュフロー方式

ディスカウント・キャッシュフロー(DCF)方式は、買収先の病院・クリニックが今後生み出すキャッシュフローに基づき譲渡価格を算出する方法です。資産基準+営業権方式、買収事例比例方式が、主に過去の資産や過去事例に基づき価格を算定するのに対し、DCF方式は将来収益に着目した計算方法です。

事業計画で作成される予想収益に基づき価格が算出されるため、予想収益により算定結果は大きく左右されます。よってDCF方式を採用する際は、今後の事業計画について、実現可能性のある詳細な計画の策定が必要不可欠です。

2018年度の病院・クリニック業界のM&Aの概要  Summary

2018年度の病院・クリニック業界は、大きく動いたというよりは、静観というような状態でした。
しかし、医療業界全体の報酬が少しずつ経営に影響を与えてきているというのは事実であり、病院やクリニックの業界でも少しずつM&Aという選択を選ぶ法人様が増えてきたというのが正直なところかと考えております。
調剤薬局のように、2018年が最盛期ということはありませんでしたが、人口減少や高齢化の影響により今後さらに病院やクリニックの承継は増えていくと見られています。

病院・クリニック業界でのM&A事例①

M&Aを契機に買い手側、売り手側双方が好循環を生み出すことに成功した事例を紹介します。

M&A前
  • 九州南部の医療法人Aは、毎年数千万円の利益を計上しており、経営状況は良好に推移していました。しかし後継者がいなかったため、理事長は譲渡を決意することになりました。
  • 一方、地域は異なるものの同じ県に所在する医療法人Bは、リハビリテーション病院・診療所・介護保険施設などの複数事業を運営していたため、他都市への進出を検討していました。
  • A理事長は譲渡を決意した後、会計士を通じてBに対して譲渡を持ち掛けました。その結果、Bは事業拡大の余地ありと判断し、Aの吸収合併を決断しました。
M&A後
  • AとBの経営統合の後、AはBのリハビリテーション機能に加えて、経営管理手法も導入しました。その結果、病床稼働率が満床状態に上昇し、利益が倍増しました。また職員については、吸収合併のため全員一旦退職の上で再雇用となり、雇用も維持されることになりました。
  • またBはAを買収したことで、Bグループ全体としての利益拡大がなされ、利益を源泉に施設の建て替え等の設備投資が可能になるなどの成果を得ました。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_h22_gappei_03.pdf(89-99p)

病院・クリニック業界でのM&A事例②

M&Aが不振の医療機関を大きく変えるきっかけとなった事例を紹介します。

M&A前
  • 東北地方の医療法人Cは過去の乱脈経営の結果、大幅に経営状態が悪化しました。前経営者が債務整理等で、経営再建に一定の目途を立てたものの、前経営者が体調を崩し後継者もおらず経営の引受先を探すことになりました。
  • そして病院に加え介護老人保健施設など運営する医療・福祉グループDが、メインバンク経由でC譲渡の打診を受けました。
  • Cの買収は事業拡大を意図するDにとってメリットがあり、またCの前経営者の経営再建にかける思いにもD側は共感したため、Cの買収を決断しました。
M&A後
  • CはDの傘下入りを機に病院を新築し移転しました。またCの移転を機に、県とメインバンクの意向もあり、DはCを吸収合併しました。
  • Cは新築移転により集患に成功し、また新築に際し増設した施設も単年度黒字を達成しました。
  • 厳しい経営状態が続いたC側の職員にとって、D傘下入りは待遇改善につながりました。
  • Dの傘下入りとそれを契機とする新築移転で、Cは医療機関として本来の姿を取り戻しました。またD側も事業拡大に成功しました。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_h22_gappei_03.pdf(60-68p)

病院・クリニック業界でのM&A事例③

単に買う側と売る側という関係でなく、M&Aに関与した両者が新たな事業プランを策定し、更に病院経営の近代化を果たした事例を紹介します。

M&A前
  • 九州の医療法人Eは歴史ある病院だったのですが、施設が老朽化したため、経営状況が悪化しました。一方でFはEと同じ市内で病院及び介護老人保健施設、リハビリ施設を運営していました。
  • EとFは両者でEの移転新築プランを協議し、銀行からの支援も取り付けることに成功しました。
  • そしてFの理事長がEの新理事長に就任し、法人統合及び移転新築を実行しました。
M&A後
  • Fは新築移転により、黒字化し大幅な経営改善がなされました。また経営状態の苦しかったF側職員は、法人統合後にFの給与体系に統一されたことにより待遇改善につながりました。
  • Fによる救済合併というより、EとFとの経営統合との色合いの強いM&Aとなりました。E側、F側のいずれも統合前は組織的な病院運営や経営改善への意識という点では、従来型の医療機関でありましたが、経営統合が組織的な病院運営を行う契機となりました。

【参考文献】
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/houkokusho_h22_gappei_03.pdf(79-88p)

2019年度の大手医療法人M&A戦略 Prediction

病院・クリニックの業界は、今後も大手が台頭してくるということは少ないと考えられており、
その多くはクリニックを開業を希望する若手医師への承継がメインとみられています。

医師の開業希望は依然として高いため、個人レベルでの承継・運営が可能なクリニックが病院・クリニック業界のM&Aの中心となっていくでしょう。

 

最後に Message

ここまで見てきたように、病院・クリニック業界のM&Aはやっと盛り上がり始めたかというところです。

しかし、調剤薬局業界や介護業界のように、高齢化を主な背景としてこれからさらに盛り上がりを見せるとみられていますが、病院・クリニックという特殊な業態/業種のM&Aとなってしまうため、譲受や譲渡を検討している法人や医師を探すのも片手間では非常に難しいのが現実です。

私達CBパートナーズは、医療介護福祉業界に特化したM&Aアドバイザリーとして、
お客様のご要望に全力でご対応致します。

ご相談や価値算定は無料で承りますし、M&Aも成約までは費用は頂きません。

まずは、業界の専門家である私達にお気軽にご相談くださいませ。

 

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