ケアマネジャー(介護支援専門員)の資格更新制度は、5年ごとに所定の研修を受講することが義務付けられています。
日々の業務に追われる中で、受講料の負担や日程調整の難しさも抱えながら、更新研修を受けてこられた方も多いのではないでしょうか。
こうした現状を踏まえ、ケアマネ資格更新制度の廃止や取得要件の緩和など、より柔軟で現場に即した制度への見直しが進められています。
本コラムでは、資格更新制度の廃止や取得要件の緩和、主任ケアマネジャーの位置付けの明確化など、今後の制度改正の方向性と現場への影響について解説します。
まず、現行のケアマネジャー(介護支援専門員)の制度は、取得後も「更新」が必要な仕組みとなっており、5年ごとに所定の更新研修を受けなければならないというルールがあります。
更新研修は、各都道府県が実施主体で、受講時間・費用・日程などが都道府県ごとに異なりますが、一般に数万円の受講料と数十時間の受講時間が必要であるということから、精神的・時間的・費用面でケアマネジャーにとって大きな負担となってきました。
研修修了後は、都道府県や指定窓口に更新申請を行い、資格の更新手続きを完了させます。更新を行わなければ、「ケアマネジャー」としての業務、例えばケアプラン作成や利用者支援を継続することが難しくなる場合もあります。
受講時間や費用の負担が伴うため、更新制度そのものが離職の一因となることも指摘されてきました。こうした負担を軽減することで、人材不足の解消につなげる狙いがあります。
さらに、ICTの普及により、現場での情報収集や研修コンテンツのオンライン化が進んだことも、更新制度廃止の検討を後押ししています。今後は、個人の責任や職場内研修を活用し、資格保持者の業務能力を維持する方向性が示されています。
2025年10月27日の社会保障審議会では、資格更新制度の廃止やケアマネ資格取得要件緩和を中心とした方向性が示され、おおむね了承されました。
これにより、従来の「義務的な更新研修」から、柔軟で実務に直結した形への移行が進む見通しです。また、ケアマネ資格取得要件の緩和や、主任ケアマネジャーの役割を明確化するといった点も議論され、ケアマネジャー制度全体の見直しが進むことが期待されています。
まず注目すべきは、資格更新制が廃止される点です。具体的には以下の方向性が想定されます。
一方、資格更新のための研修は廃止されるが、「研修の義務は残る」という方針も示唆されており、いずれにしても更新制度が廃止される時期については未定となっています。
こうした方向性により、研修の受講が現場負担になる問題は緩和されますが、知識や技能の維持をどのように担保するかが新たな課題となります。資格取得段階での基礎力の明確化や業務の整理(事務負担の軽減や業務分担の見直し)など、現場の質を保つ仕組みづくりが並行して進められることが想定されています。
従来、ケアマネジャーの資格を取得するには一定の実務経験が求められ、養成講座を修了した上で国家資格や登録手続きを経る必要がありました。今後はこの取得要件も緩和される方向です。具体的には下記の点が議論されています。
これにより、多くの人がケアマネジャーとして参入しやすくなります。ただし、取得要件が緩和される一方で、実務力やケース対応力を事業所内で補完する仕組みが不可欠です。OJTやメンター制度の充実、事業所内研修の体系化が重要になります。
これまで主任ケアマネジャーは実務上「助言・指導」「他のケアマネジャーとの連携」「関係機関との調整」といった役割を担ってきましたが、法令上の明確な位置付けはありませんでした。
今回の議論では、主任ケアマネの位置付けを法令レベルで明らかにする方向が示されています。主任ケアマネは、地域包括支援センターや居宅介護支援事業所で、他のケアマネジャーの活動をサポートしたり、多職種との連携を進めたりする中核的な役割を担うことになります。これにより、現場での責任や権限が明確になり、より専門性を発揮しやすくなると考えられています。
さらに、主任ケアマネが安心して役割を果たせるよう、研修や育成の仕組み、業務負担の調整、報酬の評価などの環境整備も検討されています。現場からは「管理者業務や育成業務、ケアマネ業務が混ざってかなりの負担になっている」といった声があり、役割を整理することが課題とされてきました。
こうして主任ケアマネジャーの位置づけを明確化することは、ケアマネジャー全体の質を保ち、業務の効率化にもつながる重要なポイントになるでしょう。2027年の介護報酬改定に向けて、今後さらに法的な整備が検討されていきます。
出典:厚生労働省|地域包括ケアシステムの深化(相談支援の在り方) 2025年10月27日社会保障審議会
ケアマネジャーの資格更新廃止に加え、資格取得条件の緩和や主任ケアマネジャーの役割明確化など、制度全体が見直されることで、現場や事業所の働き方にも変化が生じます。従来の更新研修負担の軽減だけでなく、新たに参入する人材の増加や主任ケアマネの中核的な役割の確立によって、日々の業務やチーム運営のあり方も変わってくることが予想されます。
資格取得要件の緩和によってケアマネジャーを目指すハードルは下がるものの、実際には新たな人材がすぐに増えるとは考えにくいのが現状です。ケアマネの仕事は専門性が高く、責任も重いため、資格を取るだけでなく「現場で続けられる環境づくり」が不可欠です。
新規参入者を増やすには、OJTやメンター制度など教育体制の整備だけでなく、経験者が安心して後進を育てられる余裕のある職場環境が求められます。そのためには、業務の適正化やチーム内の業務分担の見直し、ICTを活用した効率化など、現場全体での仕組みづくりが欠かせません。
人材不足の根本的な原因は、「仕事量に見合わない処遇」にあるという声が多く聞かれます。給与や待遇が改善されなければ、制度の柔軟化を進めても離職防止や新規参入者の定着には限界があります。制度改革は重要な一歩ですが、ケアマネジャーが安心して働き続けられる環境づくりには、処遇改善と制度運用の両輪が必要です。今後は、処遇改善加算の拡充や、主任ケアマネの役割に応じた報酬評価など、実効性のある支援策が求められます。
制度の見直しが「人材を増やすための改革」で終わらず、「現場で働く人を支える改革」となることが期待されます。
資格更新制度の廃止や取得要件の緩和など制度の見直し方向性が示され、おおむね了承されていますが最終段階には至っていません。人材不足の現場で奮闘されている介護事業者の皆さまにとって、研修や業務の負担は依然大きいものです。制度が現場の本当の「支え」となることが期待されます。
また、事業運営や人材確保の課題に対応する手段として、施設や事業所のM&Aや事業承継も選択肢の一つになります。M&Aへのご関心やご質問があれば、当社までお気軽にご相談ください。
