政府が整備を進めている「全国医療情報プラットフォーム」の一部として、「介護情報基盤」が構築されようとしています。
>>>全国医療情報プラットフォームについてはこちらのコラムで詳しく解説しています。
「介護情報基盤」とは介護事業所やケアマネジャー、医療機関、利用者、市町村などの間で介護情報を共有できる仕組みです。2022年から介護情報基盤についての議論を進めてきましたが、2025年3月17日に開催された社会保障審議会・介護保険部会で了承されました
本コラムでは介護情報基盤についての概要から期待されることや課題まで解説します。
※2025年8月末時点での情報です。
2040年頃には、団塊ジュニア世代の高齢化により高齢者人口がピークを迎え、85歳以上の人口増加に伴い介護需要が拡大・多様化すると予測されています。さらに生産年齢人口の急減により介護分野を含む深刻な人材不足が見込まれます。この状況下で質の高い効率的な介護サービスを提供するには、ICT等を活用した業務効率化が緊急の課題となっています。
そこで出てきたのが「介護情報基盤」で、令和4年(2022年)12月20日の社会保障審議会介護保険部会の「介護保険制度の見直しに関する意見」で、介護情報基盤整備の在り方を検討する必要性が明記されました。
その後、令和5年度の介護保険制度の見直しに伴い「健康保険法等の一部を改正する法律」で、介護情報基盤の整備が法的に位置づけられています。
介護情報基盤は、要介護認定情報、LIFEデータ、ケアプランなど重要な情報を集約し、利用者同意のもと、利用者本人、市町村、介護事業所、医療機関の関係者間で電子的に閲覧・共有する仕組みです。
基盤整備の目的は以下の通りです。
介護情報基盤の法的な位置づけは、健康保険法等の一部改正により地域支援事業として位置づけられます。また実施主体は市町村が地域支援事業として実施し、国保連・支払基金への委託も可能と示されています。
介護情報基盤では、事業者・市町村・ケアマネジャー・利用者・医療機関などの間で、以下の5つの項目が利用者同意のもと共有されます。
1.介護レセプト情報
2.要介護認定情報
3.LIFE
4.ケアプラン
5.住宅改修費利用等の情報
市町村の介護保険事務システムを基盤仕様(第4.0版)に標準化改修し、連携機能を備えた自治体から基盤を活用
介護情報基盤の導入にあたり、介護事業者・医療機関を対象に国が補助制度を整備します。これにより、システムの初期導入や環境整備にかかる負担が軽減される予定です。
介護事業所が介護情報基盤を活用する際に必要となる環境整備費用が補助対象となります。具体的には以下のとおりです。
対象(介護サービス種別) | カードリーダーの助成限度台数 | 助成限度額(1.2を合算した限度額) |
| 訪問・通所・短期滞在系 | 3台まで | 助成限度額は6.4万円まで |
| 居住・入所系 | 2台まで | 助成限度額は5.5万円まで |
| その他 | 1台まで | 助成限度額は4.2万円まで |
※①・②について、同一事業所で複数のサービスを提供する場合には、介護サービス種別に応じた助成限度額の合計を助成限度額とすることができます。
医療機関が介護情報基盤を活用して主治医意見書等を電子的に送信するために必要となる機能追加に対しても補助が行われます。
対象 | 補助率 | 助成限度額 |
| 200床以上の病院 | 1/2 | 助成限度額は55万円まで |
| 199床以下の病院または診療所 | 3/4 | 助成限度額は39.8万円まで |
出典:厚生労働省|介護情報基盤の活用のための介護事業所等への支援(概要)
2025年8月に介護情報基盤ポータルサイトが開設されました。
★各種の情報発信などに加えて、下記の機能も2025年10月下旬から確認できるようになりました。
>>【公式】介護情報基盤ポータル
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
自治体・利用者・介護事業者・医療機関の視点から、介護情報基盤で期待される効果は以下の通りです。
これらの効果により、介護情報基盤は介護サービスの質の向上と効率化、そして医療と介護の連携強化に大きく貢献することが期待されています。
介護情報基盤に被保険者の資格情報(被保険者証・負担割合証等に記載されている情報)が格納されることから、2024年7月に行われた社会保障審議会介護保険部会では、介護保険被保険者証をペーパーレス化し、マイナンバーカードに一本化するといった方針について議論されました。
現在、65歳到達時に介護保険者証を一斉送付していますが、市町村では保険証の作成や郵送、返送に関する事務負担が発生しています。また被保険者がサービスを受ける際、事業所に保険証や負担割合証を提示する必要がありますが、被保険者は複数の保険証を管理・提示するといった負担があります。さらに事業者側では被保険者が保険証を紛失した場合に、再度訪問するという負担が生じています。
これらをすべてペーパーレス化することで、でさらなる業務効率化や利便性を図るというものです。
介護保険証のペーパーレス化は課題が多く残されています。まずはマイナンバーカードを持たない高齢者への配慮が必要です。厚生労働省は、マイナンバーカードを保有していない認定者等に対しては、介護保険の利用者であることを記載した書面を別途交付する方向で検討しており、すでに交付されている被保険者証の取り扱いについては、サービス利用時に現行の保険証を利用可能にするといった対応が考えられるとしています。
また介護情報基盤に未対応の事業所においては、全事業所が対応するまで一定期間を設け、その間に全ての要介護認定者等に対して、被保険者資格情報や利用者負担割合を記載した書面を、交付することが考えられます。一定期間は紙の保険証との併存や、現在の保険証を簡素化するなどの対応が検討されています。
議論の中では、多くの高齢者が新たな技術に対応できるかどうかや、認知症高齢者への十分な配慮が極めて重要であるとの意見が強調されています。そもそも、高齢者のマイナンバーカード普及率が不十分であるため、介護保険証のペーパーレス化はかなりの時間がかかる課題と考えられており、高齢者のデジタル化への対応と介護サービスの円滑な提供を両立させるためには、段階的な移行と十分な配慮が必要ではないでしょうか。
マイナンバーカードによるペーパーレス化以外にも、以下のことが懸念されています。
介護情報は非常に機密性の高い個人情報を含むため、厳重に保護する必要があります。不正アクセスや情報漏洩を防ぐための強固なセキュリティ対策が求められますが、厚生労働省は介護情報の取り扱いについて「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」を踏まえつつ、介護事業所におけるシステムの運用の実態等を考慮して、取り扱う必要があるとしています。
また介護事業所と介護情報基盤間の情報連携はインターネット回線を用いる方式を検討しており、通信ログの取得・保管・監視や、ログインルールの設定等でのセキュリティ対策を行うとしています。
今後検討される事項として、介護事業所で端末の管理、職員のアクセス権限の管理等の対策を実施することとし、これらについて既存のガイドラインを、介護事業所向けにわかりやすく作成しなおすとしています。
介護情報基盤に格納される情報を、ケアマネジャーや介護サービス事業所等が閲覧する際には、利用者本人の同意が必要です。事業所が介護情報を取得する際に、認知症等で本人から同意の取得が適切に得られないケースの場合、「だれが本人に代わり同意をするのか」また「それをどのように認めるのか」という問題があります。
今後は、利用者や関係機関の負担を最小限に抑えながら、適切に同意を得る運用が検討されています。
従来、複数の介護サービスを利用する場合、各事業所に同意の取得が必要であり、説明・手続きの負担が課題でした。そこで、包括的同意を導入し、以下のように整理されます。
市町村が更新申請時に同意を取得するまでの間、情報共有ができない事態を避けるため、以下の機関も利用者同意の取得が可能となります。
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
国はシステム設計、事業者支援策の構築、自治体システム改修の支援、早急な情報提供等を行うとし、介護情報基盤の施行に向けては、市町村(介護保険者)、介護事業所、主治医意見書を作成する医療機関において、以下の準備が必要となることを示しました。
具体的なシステム改修の内容、システムの仕様等については、介護情報基盤の調達仕様書、自治体システム標準化仕様書などで、情報公開される予定です。
| 主体 | 令和8年4月までの課題(主なもの) |
国 | ・システム設計・開発にかかる調整、事業者支援策の構築、 自治体システム改修の支援、早急な情報提供等 |
| 市町村 (介護保険者) | ・介護保険事務システムの標準化に伴う改修等 (介護情報基盤との連携が含まれる) ※ 介護情報基盤の施行までに標準準拠システムへの移行が 間に合わない場合は、既存システムの改修によって対応 |
| 介護事業所 | ・インターネット環境の整備 (既存端末も利用可能) |
主治医意見書を 作成する医療機関 | ・主治医意見書を電子的に共有するための対応 (既存ソフトの改修等) 等 |
介護情報基盤は市町村の地域支援事業の中で運用されることになっているため、システムの改修費について国からの財政的なサポートが必要との声もあがっており、介護事業所におけるカードリーダー導入の支援策なども含め、事業所・施設の負担を極力軽くする措置を並行して検討していくとしています。
出典:厚生労働省|介護情報基盤について
介護情報基盤は、事業者に環境整備やセキュリティ対応などを求めた上で、2026年4月1日からの施行に向け、今後議論が行われていきます。
介護情報基盤には大きな可能性がある一方で、セキュリティ対策や本人の同意取得、システム導入にかかるコストなど慎重に検討・対応すべき課題も多いと言えます。また小規模の事業所や高齢の介護スタッフにとって、システム導入・運用の負担が大きいと考えられるため、介護の質向上のバランスを取りながら、段階的に進めていく必要があるでしょう。
