インバウンド需要の回復により、都市部や観光地を中心に外国人患者の来院が増加しています。しかし、多くの医療機関では「対応しないといけないのは分かっているが、何から手をつければいいか分からない」という状況です。
英語を話す患者の増加
問診・会計時のやりとりに毎回時間がかかる
スタッフから「対応に不安」の声
通訳や翻訳ツールの導入は検討中だが踏み切れない
こうした現場の悩みを抱える医療機関が多数存在します。
本コラムでは外国人患者の対応に悩む医療機関の皆さまへ、すぐに実践できる具体策と国の支援情報をご紹介します。
近年、新型コロナウイルスの影響で一時的に減少していた訪日外国人が、急速に回復・増加しています。2025年には年間4,000万人超えが予測されており、月平均では300万〜400万人規模に達しています。これにより、観光地や都市部の医療機関では、外国人患者の受診がすでに「特別な対応」ではなく「日常的な対応」になりつつあります。今後、インバウンド医療ニーズの多様化が一層進む中で、医療機関がどのように体制を整えるかが問われています。来院の理由で特に多いのは以下のようなケースです。
観光中の急な腹痛や外傷、発熱
高齢旅行者の持病の悪化による受診
出張中の外国人ビジネスパーソンによる風邪・頭痛などの一般外来
また、アジア圏だけでなく、アメリカ・ヨーロッパ・中東など国籍も多様化しており、英語対応だけでは不十分なケースも増えています。
外国人患者の多くは、日本の医療制度に不慣れなため、患者満足度の低下だけでなく、スタッフの心理的負担や業務の混乱を招くことがあります。日本人患者と同様の対応をしていると、思わぬトラブルが発生しやすいのです。
例えば、以下のような想定外のトラブルが起こることがあります。
「保険証がない」「自由診療の金額が高い」と驚かれる
クレジットカード払いを希望されるが非対応
医療用語が難しく、病状の説明や薬の注意事項が伝わらない
「次回は◯日後に来てください」と言っても、帰国日との調整が必要なことも
医療機関を訪れる外国人患者は、観光客だけにとどまりません。在留外国人の定期受診や、海外から特定の治療目的で来日する医療観光客など、多様なニーズが広がっています。このため、医療機関には単なる英語対応を超えた、文化的配慮や医療倫理の理解、国際保険制度への対応など、より高度な専門性が求められています。
具体的には、以下のようなケースが多く見られます。
永住者や技能実習生、留学生の慢性疾患管理や定期検診
不妊治療、がん治療、健康診断など高額医療サービスを目的とした来日
国際スポーツ大会や学会で一時的に来日した関係者の緊急医療対応
上記のことから、外国人患者の来院が「まれなこと」ではなくなってきました。都市部や観光地近郊の医療機関では、英語を話す患者が突然来院することも珍しくありません。「問診で症状が正確に聞き取れない」「会計の説明が伝わらず時間がかかる」そんな現場の声が、医療機関の中からも増えています。
しかし、「多言語スタッフを新たに採用するのは難しい」「通訳を常駐させるコストは出せない」と感じている経営者・理事長の方も多いのではないでしょうか。
費用を抑えながら、外国人患者への対応力を高める工夫は、今すぐ始められるものも数多くあります。
外国人患者の受け入れにおいて、最もよく挙がる課題が「問診」と「会計」です。患者とのやり取りがスムーズに進まないことで、診療全体の流れが滞り、スタッフの精神的負担も増加します。そこで、ツールを活用した業務の効率化が不可欠です。
外国語対応の問診票をあらかじめ準備しておくことで、初診時のやりとりを大幅に軽減できます。紙での配布はもちろん、タブレットを活用すれば、項目選択式で患者自身が入力でき、受付業務もスムーズになります。
英語・中国語・韓国語など複数言語で作成(厚生労働省から公開されているものもあり)
よくある症状(腹痛、咳、発熱など)をアイコン付きで表示
翻訳精度が高いアプリを活用(例:VoiceTraなど)
受付や会計時の対応にも、外国語表記があることで混乱を回避できます。対応する電子カルテやレセコンを選ぶ、あるいは翻訳支援ツールを併用して、患者が理解しやすい環境を整備しましょう。
無料の翻訳アプリ(Google翻訳など)は便利ですが、医療現場では専門用語や症状のニュアンスが重要です。医療用に特化したAI翻訳サービスを導入すれば、より正確な対応が可能です。
「お名前を教えてください」「この薬は1日3回です」といった基本的なフレーズを英語などでまとめた冊子やカードを用意しておくと、現場の安心感が高まります。貼り紙形式や制服に小型ブックレットを携帯させる形も有効です。
語学力や文化の違いに自信がないと、接遇の質に影響を及ぼしかねません。そこで、実務に即した形での研修・教育が効果的です。
外国人患者の対応を経験したスタッフから、リアルな対応のコツや工夫を学ぶ機会を作るのも有効です。言葉だけでなく態度や表情、トラブル時の対処など、現場に役立つスキル習得に繋がります。
繰り返しになりますが、スタッフに語学力を求めずとも、以下のようなツールを導入しておくことで、心理的ハードルは大幅に下がります。
タブレット型の多言語問診ツール(選択式)
医療現場用のフレーズカード(受付・診察・会計など場面別)
自動音声翻訳アプリの利用(ボタンひとつで対応できるもの)
通訳スタッフを常駐させるにはコストがかかり、人的配置も難しいのが現実です。そのため、必要なときだけ対応できる柔軟な体制づくりが求められます。
常勤通訳の代替として、スマートフォンや専用端末を使った電話通訳サービスを利用する医療機関が増えています。英語、中国語、ベトナム語などに対応し、診察室内で三者通話する形で対応が可能です。
地域のNPO法人や通訳者派遣会社と連携し、外国人患者が来院したときだけスポットで派遣してもらう仕組みもあります。緊急時は電話対応、それ以外は予約制で通訳を配置するなど、段階的な導入も可能です。
こうした中で、国も外国人患者の受け入れ体制整備を重要な政策課題と位置づけ、様々な取り組みを進めています。
厚生労働省は、外国人患者を安心して受け入れられる医療機関の普及を目的に、「外国人患者受入れ医療機関認証制度(JMIP)」を推進しています。JMIPは、言語対応・受入れ体制・安全管理などの基準を満たした医療機関に対して認証を行う制度で、2025年以降も認証支援や研修の充実が継続される予定です。
また、電話通訳や医療コーディネーターの配置に関する支援事業も実施されており、少ない人的資源でも一定の多言語対応が可能となる環境づくりが進められています。
観光庁と連携し、多言語で対応可能な医療機関リストの整備や、地域ごとの「外国人対応医療マップ」の作成が各地で進行中です。2025年大阪・関西万博に伴い、全国の観光拠点における医療受入体制の強化が重点的に行われており、国際的なイベントに対応できる医療インフラの構築が急がれています。
外国人患者の増加に伴い、クレジットカード決済や海外渡航保険の利用が当たり前になりつつあります。これを受けて厚労省では、未収金リスクへの備えとして、受付時の確認事項や案内ツールの提供、医療費トラブル防止のための簡易マニュアルを配布しています。
ほかにも厚生労働省の補助事業として、外国人患者の受け入れに関するノウハウや手引き、実際の導入事例、通訳サービスの活用方法などを掲載した情報が公開されています。このサイトでは、医療機関向けだけでなく、自治体や地域ぐるみでの受け入れ体制整備に役立つ資料も豊富に紹介されています。たとえば、外国人患者対応マニュアルや、場面別の多言語対応ツール、導入支援制度などが体系的にまとめられており、初めて対応を検討する医療機関にとっても導入のハードルを下げる内容となっています。
近年、外国人患者の増加に対応するため、国際診療に特化したサービス展開を進める医療法人の買収や提携が活発化しています。
当社でも、観光地近郊にあるクリニックの譲渡支援を行った際、買い手側はインバウンド観光客の増加を背景に、国際診療体制の強化を強く望んでいました。
都市部の一部クリニックでは、外国語問診票の導入やクレジットカード決済、多言語対応の電子カルテの整備に加え、医療通訳やAI翻訳ツールの活用を進め、訪日外国人や医療観光客の受け入れに注力する動きが見られます。中には、大手企業と連携し、富裕層向けの健診・再生医療・予防医療をパッケージ化したサービスを展開する事例もあり、医療をインバウンド事業の一環として捉える動きがますます強まっています。
これらの取り組みは、自院単独では難しい場合でも、M&Aを通じたスキーム構築や外部資本の導入によって実現されるケースが少なくありません。
外国人患者の受け入れ体制の整備や国際診療の強化は、今後ますます医療機関の競争力向上に直結する重要なテーマです。
しかし、その実現には多くの課題や準備が必要であり、単独で進めるのは容易ではありません。M&Aを活用した事業拡大や資本提携によって、スピーディかつ効果的に体制を整える事例も増えています。
当社では、こうした医療機関の譲渡や買収に関するご相談をお受けしており、医療現場の実情に即したサポートを提供しております。
クリニック譲渡・買収をご検討の際は、ぜひお気軽に当社までご相談ください。最適なマッチングとスムーズな承継をサポートいたします。
マネージャー
H.FUJIMOTO
