令和8年度(2026年度)の診療報酬改定に向けて、厚生労働省では12月頃の「基本方針」取りまとめを目指し、議論が進められています。
2025年10月23日に開催された社会保障審議会 医療保険部会では、改定の基本的な方向性として、以下の4つの視点が示されました。
このうち、「物価・賃金、人手不足など、医療機関を取り巻く環境の変化への対応」が重点課題として位置付けられる方向性も示されています。
本コラムでは、10月23日の医療保険部会で厚生労働省が示した現時点での議論内容を整理し、今後の診療報酬改定の方向性について解説します。
※なお、ここで紹介する内容はあくまで議論中の素案であり、最終的な基本方針として確定したものではありません。

令和8年度診療報酬改定では、物価・賃金上昇や人口減少下の人材確保 など、社会経済構造が大きく変化する中での重要な改定になるため注目が集まっています。医療現場の経営・人材・制度の持続性をいかに守るかが焦点になります。
日本経済は「コストカット型」から脱却し、賃上げを伴う新たな成長局面に入っています。しかし、医療は公定価格に基づくため、物価や人件費の上昇に柔軟に対応できず、医療機関の経営や人材確保に深刻な影響が出ています。こうした状況を踏まえ、医療機関の経営安定と現場職種の賃上げ に確実につながる改定が求められます。
2040年には85歳以上人口の急増とともに、医療・介護の複合ニーズが高まります。一方で生産年齢人口は減少し、地域差も拡大します。そのため、「治す医療」から「治し、支える医療」への転換を進め、地域完結型で持続可能な医療提供体制の構築が不可欠です。
AI・ICTなどのデジタル技術を活用した医療DXを進め、医療情報の利活用や業務効率化を推進します。また、創薬・医療機器開発の支援や供給体制の強化を通じて、医療の質と経済の両立を図ります。
国民皆保険を堅持するためには、経済・財政との調和を図りつつ、医療資源を重点的かつ効率的に配分する必要があります。国民負担を抑えながら制度への納得感を高めることも重視されます。
今回の改定では、以下の4つの視点を柱とし、とくに「物価・賃金・人手不足への対応」を重点課題にする考えが示されました。
現在、医療機関は持続的な物価高騰や人件費・医療材料費の上昇に直面しており、事業費用の増加が収益の伸びを上回る構造的な厳しさにあります。また、他産業では賃上げが進む一方、医療分野はこれに追いつけず、人材確保が困難な状況が続いています。
こうした環境の中で、医療機関が安定的に医療を提供し続けることができるよう、物価高騰や人件費上昇を踏まえた報酬上の対応 が急務とされています。
同時に、医療従事者の処遇改善や業務の効率化・負担軽減、AI・ICTを活用した業務改善 などを進め、医師の働き方改革や診療科偏在の是正なども一体的に取り組むことが求められます。
物価高騰による人件費・医療材料費・委託費などの増加を踏まえ、報酬上の適切な対応を行う
医療従事者の処遇改善・賃上げを推進し、人材確保を図る
ICT、AI、IoT等を活用した業務効率化や負担軽減を進める
医師の働き方改革、診療科・地域偏在対策を進め、柔軟な基準設定を検討
医療現場が継続的にサービスを提供できる環境を確保する
診療報酬上の基準や要件の柔軟化
2040年を見据え、日本では85歳以上の人口が急増し、医療と介護のニーズが複合化していくと見込まれています。これに対応するには、単一の医療機関の機能強化ではなく、地域全体での医療機能の分化と連携の強化 が不可欠です。
また、生産年齢人口の減少により医療従事者確保の制約が強まる中、ICTやAIによる業務効率化、タスクシェアの推進などを通じて、限られた人材でも必要な医療を維持する体制の構築が求められます。さらに、「治す医療」に加え、慢性疾患・高齢者を支える「治し、支える医療」への転換が進められます。
患者の状態・必要医療機能に応じた入院医療の評価
┗ 地域医療構想・病院機能・地域特性に応じた報酬体系
「治し、支える医療」への転換
┗ 在宅療養患者や介護施設入所者を後方支援する医療機関を評価
┗ リハビリ・栄養・口腔管理など高齢者の生活支援を推進
かかりつけ医・歯科医・薬剤師機能の明確化と評価
外来医療の機能分化と連携強化(紹介・逆紹介の促進)
質の高い在宅医療・訪問看護の確保
人口・医療資源の少ない地域への支援強化
ICT・AI・IoT等を活用した医療従事者の負担軽減
チーム医療の推進、医師偏在対策の強化
国民にとって安心・安全で質の高い医療を持続的に提供するため、医療技術の進歩や疾病構造の変化を踏まえた客観的・成果志向の評価が求められます。
また、医療DX・ICTを活用して情報共有や効率化を図り、医療の質を高めることが重要です。
特に、救急・小児・周産期・がん・精神医療など重点分野への重点的な評価を通じて、医療の安全と信頼性を確保します。
医療費は高齢化や技術進歩によって増加が続く見通しです。その中で、国民皆保険を維持するためには、医療資源の効率的・重点的な配分と費用の適正化 が不可欠です。医療の質を維持しつつ、重複投薬や過剰処方を防ぎ、医薬品や医療材料の価格を市場実勢に即して適正化することで、制度の持続性を確保します。
出典:厚生労働省|令和8年度診療報酬改定の基本方針について_令和7年10月23日第201回社会保障審議会医療保険部会
2026年度診療報酬改定に向けて、厚生労働省では12月の「基本方針」取りまとめを目標に議論が進められています。基本方針案を踏まえ、今後は具体的な改定内容の検討が焦点となります。
改定に向けたスケジュールとしては、まず 11月下旬 に骨子案が提示され、 12月中旬 には正式に「基本方針」が公表される予定です。その後、2026年春に向けて、各種点数表の改定案や技術料の見直しなど、詳細な審議が順次行われる見込みです。
新報酬の施行は、前回の令和6年度改定と同様に、2026年6月1日施行となる可能性が高いと考えられています。
2026年度診療報酬改定に向けて、医療機関としても事前に準備すべきポイントがあります。基本方針案や今後のスケジュールを踏まえ、現場で取り組むべき具体的な対応は大きく分けて以下の通りです。
医師・看護師・薬剤師など各職種の確保状況を把握し、必要に応じて賃上げや勤務体制の見直しを行います。離職防止策や採用活動の強化につなげることがポイントです。
AIやICT、電子カルテの活用は、業務効率化のみならず、診療報酬上の評価にも影響します。2026年度改定では、ICT・医療DXを活用した業務改善やチーム医療推進に関する加算がより注目される可能性があります。ICT導入や業務フロー見直しを事前に進めることで、加算取得条件への対応力が高まります。
他の医療機関や介護施設との情報共有体制を確認し、退院支援や在宅療養支援など地域完結型医療の体制づくりを進めます。地域医療構想や医師・診療科の偏在対策を考慮することも必要です。
改定内容や詳細な点数表を随時確認し、業務フローや報酬請求体制の調整を行います。これにより、改定後も安定して医療サービスを提供できる体制を整えられます。
これらの取り組みを早期に進めることで、医療機関は2026年度改定にスムーズに対応でき、質の高い医療提供を継続することが可能です。
令和8年度(2026年度)診療報酬改定においては「物価・賃金上昇・人手不足」等、医療機関を取り巻く構造的な変化への対応が大きな焦点として浮上しています。とはいえ、示されているのはあくまで議論途上の内容であり、最終的な「基本方針」は11月〜12月にかけて取りまとめられる予定です。
本コラムでは、令和8年度診療報酬改定に関する情報を随時更新していきます。
引き続き、関係機関や現場の意見動向を注視しながら、改定内容の確定・実行を見据えておくことが重要です。
