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介護現場の処遇改善へ、2026年度中異例の介護報酬「臨時」改定

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若い介護福祉士の男女

はじめに

介護業界では原則として 3年ごとに介護報酬改定 が行われますが、厚生労働省は介護職員の処遇改善を目的に、2026年度中に異例の「期中改定」 を実施する方針を固めました。介護現場では介護職員の賃金改善や人材確保の課題が深刻化する中、処遇改善やサービス体制の見直しが急務とされており、期待の声が寄せられています。

一方、2025年度の補正予算案では、介護従事者全般に月1万円程度の臨時給付(半年分)を行う案も報じられており、次期改定までに現場の賃金・処遇をつなぐ暫定的支援策として注目されています。

このように、期中改定と補正予算による臨時支援という二本柱 により、現場職員の処遇改善に向けた動きが加速しています。

本コラムでは、期中改定が検討される背景や改定の主要な焦点、そして事業者が今から準備すべきポイントを整理します。

期中改定が検討されている“背景と狙い”

通常、介護報酬の改定は 3年ごとに行われます。直近では 2024年度に改定が行われ、次回改定は 2027年度に予定がされていました。

しかし、現場では人材不足や離職率の高さ、物価上昇や運営コスト増などが急速に進んでおり、2027年度まで待っていては対応が遅れる可能性があります。こうした状況を踏まえ、厚生労働省の社会保障審議会・介護給付費分科会では、 2026年度中の臨時的な介護報酬改定(期中改定)が実施される見通しとなっています。

◆人材確保・離職・賃金格差の深刻化

期中改定が議論される詳しい背景には、介護現場の人材確保と定着が揺らいでいる現状があります。特に、介護分野では他の産業と比較した賃金差や離職率の高さが指摘されており、現場の安定的な運営に大きな影響を及ぼしています。

厚生労働省の報告によると、介護職員等処遇改善加算を取得している施設・事業所における 介護職員(常勤)の基本給 は、2024年9月から2025年7月までに平均6,130円・2.5%上昇しました。また、ボーナスなどを加味した平均給与額も6,840円・2.0%上昇しています。

一見すると給与は上がっているように見えますが、他産業と比べると 介護分野の給与上昇は依然として低水準にとどまっています。

加えて、物価上昇や燃料費、光熱費、車両維持費など、事業運営にかかるコストは増加しており、「収入が伸び悩む中でコストだけが上がる」という状況が現場を圧迫しています。

出典:介護人材確保に向けた処遇改善等の課題|厚生労働省

◆制度的・政策的な動き

政府は介護現場の賃上げ・待遇改善を重要課題と捉えており、高市首相の所信表明演説 でも「診療報酬・介護報酬については、賃上げや物価高を適切に反映させていく」と明言されています。

さらに、金融・保険・介護を横断した経済政策の「医療・介護等支援パッケージ」 の中では、介護分野の早期の処遇改善を支援する方向性が示されており、現場への迅速な支援が政策課題となっています。

▽「医療・介護等支援パッケージ」について

令和7年11月21日、政府は医療・介護分野の 人材不足や物価高、コスト増といった課題に対応するため、経済対策の一環として 「医療・介護等支援パッケージ」 を緊急支援策として閣議決定しました。

この支援パッケージの狙いは、単に将来の報酬改定を待つのではなく、報酬改定のタイミングを前倒しする、あるいは報酬改定効果の“先取り”を支援することにあります。

支援パッケージに盛り込まれた施策として、次のように明記されています。

  • 人材流出を防ぐ緊急対応
    令和8年度の報酬改定を待たずに、介護職員の待遇改善や離職防止を図るための支援。
  • 介護サービスの継続支援
    物価高や光熱費・燃料費の増加などの影響を受ける事業所・施設に対し、必要なサービスを維持できるよう財政的な下支えを行う。
  • ICT/DX導入による効率化支援
    記録の電子化やシフト管理など業務効率化を支援し、訪問介護やケアマネジメント提供体制の維持を後押しする。

また、地方の介護事業所に対しては、補助金や交付金(重点支援地方交付金)を活用できる仕組みも用意されるとのことです。

出典:「強い経済」を実現する総合経済対策」における介護分野の「医療・介護等支援パッケージ」及び「重点支援地方交付金」による支援について |厚生労働省

2026年度介護報酬改定の焦点

2026年度改定では、賃上げ・処遇改善が中心となるのはほぼ確実とみられていますが、同時に現場の働き方やサービス提供体制に関わるいくつかの点も議論されています。

◆現場職員の処遇改善の規模

まず最も注目されているのが、今回の改定のメインテーマとなる 「現場職員の処遇改善・賃金アップ」 です。特に、どの程度の賃上げが実際に現場職員の手元に届くのか が改定の大きな焦点となっています。

直近の2024年度改定では、介護職員等処遇改善加算が一本化・拡充されましたが、事業所ごとに加算をどう配分するか・処遇改善が実際に現場職員に行き渡ったかという点では課題が残っています。介護事業所・施設の経営が厳しいためそもそも加算を取得していても、実際に賃金や手当に反映できないといった現状がありました。

今回は「現場職員にしっかり実感されるインパクトある処遇改善にしなければならない」という声が強くなっており、加算見直し・対象範囲拡大・最低賃金保証的な仕組みの導入などが検討されています。

具体的に検討されている改定内容は下記の通りです。

  • 処遇改善加算の加算率の引き上げ
  • 処遇改善加算の対象を拡大(介護職員が配置されていない訪問看護や居宅介護支援も対象に含めるか)
  • 賃金体系(基本給・昇給制度・賞与)を明確にするルールの強化

このように、単なる「加算額アップ」だけでなく、「誰にどう還元されるか」「制度がどう運用されるか」を現場の実感レベルで担保するための仕組みが求められています。


◆基本報酬・サービス機能・報酬構造の見直し

処遇改善だけでなく、報酬体系自体の見直しも今後の議論で注目されています。

在宅系サービス(訪問介護・居宅支援)や施設系サービス(特養・老健)では、利用者の重度化・多様化や在宅移行の加速が進んでおり、こうしたサービス提供体制を報酬面で評価する方向性も示唆されています。

また、ICT/DXの活用による生産性向上を報酬に反映するという議論も注目されています。具体例としては、記録時間の削減やデータ活用によるケアの質向上など、成果(アウトカム)を報酬要件に含める可能性があります。

さらに、物価高や運営コスト増に伴い、処遇改善を従業員に十分に還元できていない現状を踏まえ、基本報酬単価の一律引き上げも選択肢として検討されています。


◆制度・仕組み整備と地域包括ケア体制の強化

期中改定そのものでは大規模な制度改正は行われないと考えられますが、今後の中長期的な方向性として制度改正や地域包括ケア体制の強化と報酬との連動について議論が示唆されています。

  • 介護情報基盤(LIFEなど)の整備
  • 都道府県主導による地域包括ケア体制の強化
  • 人材確保・育成、地域連携・バックアップ体制、ICT活用の評価

報酬改定では、単に「職員の確保」だけでなく、サービス提供の仕組み強化や地域での位置づけを明確にすることが評価に反映される可能性があります。

また、サービスごとの人員配置基準・減算規定を緩和するか維持するかという議論もされています。通所介護や施設サービスでは、国が定めた人員配置基準を満たさない場合、報酬を約3割減算する「人員基準欠如減算」のルールがありますが、現実には、慢性的な人手不足・採用難の中で、人員基準をクリアするのが困難な事業所も少なくありません。こうした事業所では、正規の報酬を受けられず、経営を圧迫される事態となりやすく、職員確保のために 人材紹介会社への高額手数料 を支払ってようやく基準を満たすという事態も報告されています。

このような背景から人員配置基準の見直し、減算規定の柔軟化または除外を含めたルール改定の可能性が議論されています。


◆事業所・施設への支援の有無

物価高騰や燃料費・光熱費増により、事業所経営は厳しさを増しています。そのため、事業者団体は 賃上げ以外の補助や支援策 を求めており、期中改定でこうした支援がどこまで反映されるかも注目です。

2026年度改定で想定される見直しパターン

現場職員の処遇改善・賃金アップがメインテーマとなる見込みですが、上記の「焦点」を踏まえて、複数の改定パターンが想定されます。実際にどのような改定になり得るかを予想します。

●パターン1:処遇改善(賃上げ)を中心にした改定

もっとも注目されているのがこのパターンではないでしょうか。

介護職の賃金は全産業平均よりも低く、特に訪問サービスは「採用ができない・定着しない」という危機的な状況があります。

このため、「処遇改善加算」の拡充・加算率アップ・対象拡大などが検討されており、「賃上げ=待遇改善」のメッセージ性が強いです。

ただし、処遇改善加算だけでは「運営費」を補うには不十分であるため、基本報酬の引き上げこそが処遇改善の本筋ではないかといった指摘もあります。


●パターン2:基本報酬を一律引き上げ

物価高や光熱費・備品費の増加など運営コストの増加に対応するため、基本報酬単価そのものを引き上げる案です。

現場では「人件費だけでなく光熱費・備品費・燃料費など『運営コスト』の増加の方が経営を圧迫している」という声が多数あるため、単価そのものを引き上げる方向も検討されています。

ただし、基本報酬の期中改定は制度設計・調整・システム改修というハードルが高いため、実施の難易度はやや高いと見られています。


●パターン3:重点領域にメリハリ配分

財源の制約等もあり、「すべてを一律に上げる」ことが難しいため、特に課題が深刻な領域を「重点的」に手当てするというパターンです。

例えば、訪問介護・居宅介護支援など“人材確保が最も難しいサービス”に対して、単位数アップ・加算新設・特別配置などが考えられています。

逆に、利用者数が多いもののサービス価値が低い・差別化が難しい領域では、減算強化・機能要件の厳格化というメリハリのある見直しもあり得るという分析もあります。


●パターン4:処遇改善+基本報酬+重点配分の複合型

そして上記の3パターンを組み合わせた形です。この構成であれば、政策的メッセージ・現場の期待・財源制約のバランスを取ることが可能かもしれません。

  • 処遇改善(賃上げ)を確実に実施
  • 運営コスト対応のため基本報酬の底上げを一定程度実施
  • 課題の深い領域を重点強化

現場への影響と課題

●前回改定の課題の振り返り

前回の2024年度の改定では、処遇改善加算を取得したものの、職員個人の賃金へどれほど反映されたか不透明、事業所ごとに配分の仕方が異なり、現場職員に実感が薄かった、という声もあったのではないでしょうか。

つまり、制度設計として加算制度は整備されてきた一方で、「配分」「使途の透明性」「実質的な給与上昇」という現場実感とのギャップが残っているわけです。

●今回の改定で処遇改善を実感につなげるには

今回の期中改定では「処遇改善が現場職員に確実に届くかどうか」が鍵になります。具体的な観点としては次のとおりです。

  • 加算・報酬改善を行ったあと、事業所が職員還元ルールを明確にしているか
  • 賃金体系・昇給制度・賞与・手当など、処遇改善が実際の給与に反映される仕組みが整っているか
  • 職場環境改善・キャリアパス制度・研修制度など、待遇改善の“質”までセットになっているか
  • 対象サービス・対象職種(例:ケアマネ・訪問系)を拡大し、「職員全体の待遇改善」に繋がるか

このように、改定額だけではなく“制度運用”の仕組みが伴わなければ、現場実感は薄れ、離職防止・人材確保にはつながりにくいとみられます。

●事業所経営・運営への影響

期中改定によって 賃上げや手当の拡充といった“固定費の増加”が避けられない ため、事業者側には収益構造の見直しと業務効率化の両輪で対応することが求められます。

特に 業務効率化(ICT/DXの活用) は、今後の「報酬改定+処遇改善」を現実的に成立させるための重要な基盤となります。具体的には、

  • 記録業務の効率化による 記録時間の削減
  • シフト最適化や役割見直しによる 職員配置の改善
  • 業務の標準化・IT活用による 多能工化の推進

などが求められ、同時に以下のような 制度・事務対応の負担増 も避けられません。

  • 人事制度・就業規則の改定
  • 賃金体系の明確化(基本給・昇給制度・賞与の整理)
  • 処遇改善関連の 賃金台帳整備・配分ルールの明文化
  • システム改修や運用フローの変更

このように、改定は単なる「賃上げ」だけの話ではなく、事業運営全体を見直す契機となります。「期中改定」はスケジュールがタイトになる可能性が高いため、早めの着手が望まれます。

また利用者負担等への影響も留意すべきです。報酬が上がるということは、利用単価・自己負担の増加可能性を伴うため、利用者・そのご家族への説明・合意形成も含めた対応が必要です。

●現場の期待と留意点

現場の職員・事業所管理者ともに、今回の改定に対して「期待」が高まっています。特に、「賃金が上がる」「処遇改善が実感できる」「働き続けられる環境が整う」という期待です。

一方で、次のような留意点もあります。

改定が発表されたとしても、実際に職員の給与に反映するまでには時間がかかる可能性があります。加算対象・職種・制度要件・配分ルール次第では、「今回もまた現場実感が薄かった」という批判が出る可能性があります。

事業所側が制度対応・配分ルールを明確にし、職員へ説明責任を果たさなければ、「制度改定をやったけれど実感がない」という反応を招くリスクがあります。

つまり、改定を「待つ」のではなく、事業所自らが「改定をどう活かすか」「どう職員に還元するか」を仕組み化・運用化しておくことが、今回の改定を“チャンス”に変える鍵になるかもしれません。

事業者が今から進めるべき準備

報酬改定を事業運営・人事戦略・業務改革という視点で捉え、今から取り組んでおくべき具体策を整理します。

①加算・報酬構造の把握・準備

期中改定が実施される場合、現場に実質的な賃上げや処遇改善を届けるためには、職員ごとの給与や加算の現状を正確に把握しておくことが重要です。

② 賃金体系・人事制度の整備

基本給・役職手当・賞与・昇給ルールなどの見直しを検討しましょう。改定に合わせて賃金アップ・処遇改善・キャリアパス制度を設計しておくことが望まれます。

等級制度・評価制度・昇格・昇給制度を持っていない事業所は、この機会に制度構築を検討すべきです。現場職員に「働き続けて上がる仕組み」が見える化されているかが定着率に影響します。

また職場環境改善(休暇制度、休日・夜勤負担、研修・キャリア形成支援など)も処遇の一部として捉え、制度設計に組み込むのもよいでしょう。加えて、ICT/DXを活用して「記録時間削減」「多能工化」「業務改善」を進め、「生産性向上=報酬評価につながる」という視点を持っておくと、改定時に有利です。

③ 業務改革・ICT投資・生産性向上

「人を増やせばいい」という旧来型ではなく、「人が効率的に働ける仕組み」「ICTで記録・確認・分析の仕組みを整える」ことが今後重要になってきます。具体的には、電子カルテ・クラウド記録・業務支援システム・移動・訪問ルートの最適化・ケアプラン共有のデジタル化などです。制度改定要件として「ICT化・データ活用ができている事業所に加算を出す」という流れも考えられます。生産性向上により、「人材確保だけでなく定着」「在宅復帰支援」など、質の向上を報酬に結びつけることができると、改定後のメリットも大きくなります。

④ 地域連携・機能特化・強みづくり

今後、地域包括ケア・都道府県主導の支援体制強化が進むため、地域でのポジショニングを早めに明確にしておくことが重要です。

例えば「看取り対応」「在宅復帰支援」「認知症ケア強化」「訪問系サービス」など自社の強みや特色を整理し、報酬改定時の機能評価で有利になる体制の整備などがあげられます。

また、サービス区分・利用者層・重度化率・地域特性などを踏まえ、自社がどの役割を担うのか、地域ネットワークの中でどう位置づけられるかを見直しておくことが望まれます。

加えて、利用者・家族・地域住民に対して事前に情報発信・説明を行っておくことで、改定後の利用者理解・事業継続・地域連携という観点でも有利になるでしょう。

⑤ コミュニケーションと説明責任

改定による処遇改善・報酬増があったとしても、職員が「自分にどう反映されるのか」を理解していなければ、定着・モチベーション向上にはつながりません。

そのため、事業所として「改定内容」「自社がどのように対応するか」「職員一人ひとりにどのように恩恵が届くか」を説明する場を設けることが重要です。また、利用者・家族・地域に対しても、報酬改定・サービス内容の変化・自己負担の変化がある場合には、誠実に説明・合意形成を図る必要があります。

さいごに

2026年度の介護報酬改定は、介護現場の処遇改善を目的とした特例的な改定です。職員の待遇改善をしっかりと実感してもらうためには、報酬や加算の見直しだけでなく、制度や業務の状況を整理し、現場環境を整えることも大切です。

事業所としては、改定の内容を確認し、給与や人事制度、業務フローを整えて、職員にしっかり還元できる仕組みを早めに準備しておくことが安心につながります。介護報酬改定は、現場の働きやすさやサービスの質を高める大きなチャンスです。制度や報酬の動きを見守りながら、少しずつ着実に準備を進めていくことが、安定した運営とより良いサービス提供の鍵になるでしょう。

コラム監修者

ディレクター
R.OKURA

  • 経歴
    大学卒業後、商社で購買物流や事業開発、M&A業務に携わり、宿泊事業のコンサルを経てCBパートナーズに入社。地域密着型デイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業所、就労移行支援事業所などの介護分野から、社会福祉法人までをご支援。株式譲渡・事業譲渡・持分譲渡など多様なM&Aを手がける。