医療DXをめぐっては、「全国医療情報プラットフォーム」の構築をはじめ、「電子カルテ情報共有サービス」「電子処方箋」「オンライン資格確認等システム」などの基盤整備が段階的に進められてきました。これまでのフェーズでは、補助金や診療報酬上の評価を通じた“導入支援”が中心でした。
しかし、令和8年度(2026年)診療報酬改定では、「情報を取得する」段階から一歩進み、「取得した情報を活用し、医療機関間で連携する」段階へと明確に移行しています。医療DX政策は、いよいよ診療報酬と本格的に結びつき、ICTへの対応状況や情報活用体制そのものが報酬評価に直結する設計へとシフトしました。
つまり、「DXへの取り組み=経営への影響」という構図が、より鮮明になった改定だと感じます。本コラムでは、令和8年度診療報酬改定における医療DX・ICT関連の改定内容を整理し、経営戦略の一つとしてM&Aという選択肢についても解説していきます。
参照:厚生労働省|個別改定項目について 中央社会保険医療協議会 令和8年2月13日(金)
※本コラムの内容は2月13日時点での内容です。詳細は3月上旬に発表される告示等をご確認ください。

今回の改定では、従来の「医療情報取得加算」や「医療DX推進体制整備加算」が整理・統合され、新たに「電子的診療情報連携体制整備加算」が創設されました。この加算は、オンライン資格確認による診療情報の取得だけでなく、電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスの活用をより強力に推進するものです。
※在宅医療DX情報活用加算は廃止ではなく、経過措置が延長されています。電子カルテ情報共有サービスが全国での運用を開始するまでの間、当該基準を満たしているものとみなす経過措置が設けられていますが、全国的な運用が開始された場合には、速やかに導入するよう努めることが求められています。
「電子的診療情報連携体制整備加算」の初診料・再診料・外来・入院料の詳細については下記の通りです。
【加算1~3共通の基本要件】
以下のすべてを満たす必要があります。
【上位区分の追加要件】
加算1と加算2の違いは、基本要件に加えて、以下の「電子処方箋」および「電子カルテ情報共有サービス」の対応状況により決まります。
※ちなみに「電子的診療情報連携体制整備加算」を算定する場合は、「明細書発行体制等加算」は別に算定できません
再診料におけるこの加算を算定するためには、先述の初診料の「電子的診療情報連携体制整備加算3(4点)」に求められる基本要件と共通の体制を整備している必要があります。
算定要件や基準は初診料における基本要件(加算3の要件)と共通する以下の体制を整備している必要があります。
【共通の基本要件】
加算1・2ともに、先述の初診料における基本要件(加算3の要件)と共通する以下の体制を整備している必要があります。
【加算1・2の違い】
加算1と加算2の主な違いは、上記の基本要件・体制に加え、非常時(サイバー攻撃等)における対応体制のレベルにあります。
上記の要件の、「十分な体制」と「必要な体制」の具体的な運用基準は通知で示される予定ですが、加算1の要件のほうが厳しい内容であることは明らかです。
また本加算は、専任の診療情報管理体制や診療録の点検・適正管理を評価する「診療録管理体制加算」の基準とも関連しており、「診療録管理体制加算1」の施設基準の一部である、「サイバー攻撃対応要件」が削除され、点数も2区分に再編されています。医療機関全体として、情報管理体制やBCPの整備がより重視される内容です。
医療機関にとっての影響は、これまでの「マイナ保険証を導入して情報を取得する」という段階から、「電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスを活用し、地域全体で情報を共有・連携する」という、より高度なDXが求められるようになる点にあります。単なる点数項目としての廃止ではなく、医療DXを日常診療のインフラとして定着させるための実効的な評価への移行と言えます。
この「電子的診療情報連携体制整備加算」の新設は、単なるデジタル化の推進に留まらず、普及した医療DX関連サービスを日常の診療において実効性を持って活用し、より質の高い医療を患者に提供することを正当に評価する狙いがあります。医療機関にとっては、電子処方箋の導入や電子カルテ情報共有サービスの準備状況によって算定できる区分が異なるため、自院のシステム改修スケジュールと照らし合わせた対応が必要になります。
深刻な人手不足への対策として、ICT機器を組織的に活用することで、入院基本料の看護要員配置基準を緩和できる規定が導入されました。
具体的な要件として、見守りセンサー、音声入力による記録支援、同時通話可能なインカムなど、指定された3つのICT機器をすべて導入し、業務効率化が確認された病棟では、看護要員数や看護師比率の施設基準について、一定範囲内で柔軟化されることになりました。
詳細は下記の通りです。
ICT機器等の活用により業務が軽減され、適切に患者の看護を行える体制がある場合、一日に勤務する看護要員の数や看護師比率が、本来の施設基準から1割以内の減少であっても、基準を満たしているものとして所定の入院料が算定可能です。
施設基準として、まず以下のアからウの3つの機能をすべて導入し、看護職員等が広く活用していることが条件となります。
機器の導入だけでなく、下記のような適切な労務管理や評価体制も求められます。
この柔軟化措置の対象となる主な入院料は以下の通りです。
医師の働き方改革を支える「医師事務作業補助者」の配置基準にもICT・AIの力が導入されました。 生成AIを活用した診断書等の原案作成システムや音声入力システム等を導入し、業務効率化が顕著な場合、医師事務作業補助者の人数を実人数の1.2倍または1.3倍として算出できるようになります。
今回の改定は、AI等を導入することで、より少ない人員でも上位の補助体制(高い点数区分)を維持・算定できる道を開き、医療現場の生産性を向上させることを目的としています。
以下の生成AIを活用した文書作成補助システム(①)を導入し、全ての補助者が常時活用できる体制を整え、かつ適切な研修を実施している場合、補助者1人を1.2人として算入できます。
上記の生成AIシステムに加え、以下のICT機器のうち少なくとも1種類以上を広く活用している場合、1人を1.3人として算入できます。
ICT導入前後で、業務内容や業務時間、負担感等について年1回程度の定量的・定性的な評価を実施し、衛生委員会等で確認する必要があります。この換算方法を適用する場合、直近3月以上の期間において、当該配置区分(またはそれ以上)を算定し続けている実績が求められます。
医師事務作業補助者が実施可能な業務についても具体的に再定義されています。
また、働き方改革の一環として、常勤職員の定義も変更されています。これまで「週32時間以上」とされていた常勤要件が、「週31時間以上」に緩和されました。
オンライン診療と在宅関連の診療料との併算定ルールが明確化されました。
あわせて新設・整理されたのが「D to P with N」です。これは、医師が離れた場所からオンラインで診療し、患者のそばにいる看護師等が診療を補助する形を評価するものです。医師は遠隔、現場には看護師等が同席する体制を制度上明確に評価することで、より安全で実効性のあるオンライン診療を後押しする内容となっています。
「遠隔連携診療料」とは、対面診療を行っている医師が、ビデオ通話が可能な情報通信機器(ICT)を用いて、他の医療機関の専門医と連携して診療を行った場合に算定される診療報酬です。D to P with D(医師から患者、および別の医師)によるオンライン診療の役割拡大を踏まえ、従来の「目的別(診断・その他)」の区分から、「外来診療・訪問診療・入院診療」の3区分に再編され、点数は一律 900点に整理されました。いずれの区分も、3月に1回に限り算定可能です。
また、質の高い専門的診療を地域によらず受けられるようにするため、従来は「難病」と「てんかん」に限られていた対象疾患が大幅に拡大されました。
定期的な訪問看護(訪問看護計画書に基づいて定期的に行う指定訪問看護)とは別で、オンライン診療での診療補助を行った場合の評価
遠隔診療中に看護師等が実施する検査や処置についても、新たな実施料が設定されました。
一定の施設基準を満たす医療機関で、オンライン診療時に電子処方箋を発行した場合、算定可能になります。
この加算を算定するためには、単に電子処方箋を発行するだけでなく、以下のアからウの要件をすべて満たす必要があります。
医療DXへの対応が求められる中で、病院・診療所経営にはこれまで以上に戦略的な判断が必要になっています。今後は、機能分化の明確化や業務効率化、DX推進による生産性向上が“理想論”ではなく前提条件となる時代です。
その中で経営者に問われるのは、次のような視点ではないでしょうか。
例えば、急性期機能を維持し続けるのか、回復期や慢性期へ転換するのか。外来特化へ舵を切るのか。訪問診療を強化するのか。これは単なる診療方針の問題ではなく、DX投資や人材配置、設備更新と直結する経営判断です。また、電子カルテ更新やセキュリティ対策、データ連携体制の整備には相応のコストがかかります。補助金等もありますが、単独で数千万円規模の投資を続けられるのかという現実的な問題も避けて通れません。
「診療体制の再設計」は、単に診療科を増減させるということではありません。
例えば、
・急性期から回復期への機能転換
・外来特化や在宅医療の強化
・不採算部門の見直し
・他法人との統合による機能補完
といった、地域の中での役割を踏まえた機能の組み替えを意味します。
人口動態の変化や医療需要の縮小、そしてDX投資が当たり前になりつつある現状を考えると、「今の形を守ること」が必ずしも最善とは限らない場面も出てきています。もちろん、すぐに大きな決断をする必要があるわけではありません。ただ、将来を見据えたときに、自院の強みはどこにあるのか、どの機能に力を入れていくのか、どう最適化するかを一度立ち止まって考えてみることは、これからの時代において大切な視点になっていくのではないでしょうか。
その選択肢の一つが、統合やM&Aです。
例えば、ICT基盤を整えた法人にグループインすることで、システム投資の負担を抑えたり、本部機能を集約することでバックオフィスコストを削減したり、診療機能を補完し合うことで地域内での役割を明確にしたりと、具体的な効果が見込めます。
これは単なる売却という話ではありません。「単独で抱え続けるのか、それとも組織として支え合うのか」という選択でもあります。
多くの経営者様は、「できる限り自分の手で守り続けたい」という強い責任感を持って日々経営をされていることと思います。一方で、実際に当社にご相談いただく中では、
こうした思いを胸の内に抱えておられるケースも少なくありません。統合やM&Aは、「手放す」というよりも「守り方を変える」という考え方に近いものです。経営機能や投資負担を分担し、組織としての基盤を強くする。そのうえで、先生方は診療により集中する形を選ぶことも可能です。
これからの時代、今の形を守ることと、理念や地域への責任を守ることが、必ずしも同じ意味を持たない場面も出てくるかもしれません。だからこそ、統合やM&Aは、追い込まれてから考えるものではなく、将来を見据えた経営の選択肢の一つとして、視野に入れておく価値があるのではないかと思います。
令和8年度(2026年)診療報酬改定は、医療DXへの対応がこれまで以上に重要になることを示す内容となりました。とはいえ、日々の診療や人材確保、物価高への対応に追われる中で、ICT投資や体制整備まで十分に手が回らないという経営者の方も少なくないのではないでしょうか。
DXは決して「やらなければならない宿題」というだけのものではありません。本来は、業務効率化や人材負担の軽減、経営の安定化につながる取り組みです。ただし、その進め方は医療機関ごとに異なりますから、自院で段階的に整備を進める道もあれば、連携やグループ化によって基盤を共有するという選択肢もあります。大切なのは、焦って対応することではなく、自院にとって無理のない形を見極めることです。
もし将来的な投資や人材確保に不安がある場合には、事業承継や資本提携を含めた“経営の選択肢”を、早い段階から情報収集しておくことも一つの備えです。
マネージャー
H.FUJIMOTO
