2025年、介護保険制度開始から四半世紀が経過しました。2000年代初期に建設された多くの介護施設が、今や築20年を超え、設備の老朽化やバリアフリー基準の見直しが必要な時期に差し掛かっています。
しかし、人件費・光熱費など運営コストの高騰の影響により改修工事の資金捻出は容易ではありません。また、物価上昇に伴い改修工事費用・解体工事費用も過去最高水準となっており、単独での建て替えが現実的でない状況です。
本コラムでは、こうした経営環境の中でも施設の持続可能な運営を実現するため、改修工事を実施する際の流れ、改修が困難な場合に「M&A」という選択肢ご紹介いたします。
老朽化施設の更新を諦める前に、ぜひご一読ください。
介護保険制度開始(2000年)から25年を経て、多くの施設が老朽化しており、バリアフリー基準の変更や設備の更新が必要となっています。築20年以上の施設では、設備の劣化や、耐震安全性が課題として浮上しています。
しかし、近年の急激な物価高騰により、ユニット型の特別養護老人ホーム(特養)の建築費では、2023年に平米単価34万円と過去最高を記録し、2008年比で1.5倍に上昇していることが明らかになっています。特養の建築費に関しては、2012年以降上昇し続けており、昨今の物価高の影響が建築費の上昇にさらに拍車をかけているといった状況です。
建築資材高騰の影響
出典:独立行政法人福祉医療機構|2023 年度 福祉・医療施設の建設費について
介護施設の改修を進める場合、大まかに以下の流れで進行します。また改修にあたり様々なポイントを押さえる必要があります。
まずは建築図面や過去の改修記録を確認し、専門家による建物診断を実施します。施設の防水性能や設備機器の劣化状況を把握し、(10年以上経過している場合は保証対象外の可能性もあります)現行の建築基準法・消防法への適合性を検証する必要があります。そして利用者の快適性向上や災害対策(段差解消・自家発電設備等)を含めた基本計画書を作成します。
まずは管轄の自治体窓口で、自施設に適用可能な制度がないか確認しましょう。
東京都では、特別養護老人ホーム、養護老人ホームの大規模修繕に対して以下の条件で、補助金制度を設けています。
・補助対象:総工費の50%(最大7,800万円)
・適用条件:前回改修から10年以上経過していること
・対象工事:防水改修・設備更新・バリアフリー化工事など
特別養護老人ホームの大規模修繕に対しては、都道府県や中核都市で補助制度を設けている場合があるため、補助の対象や内容、補助額を調べてみましょう。
一度に劣化している箇所すべてを改修となると莫大な費用や期間がかかるため、診断結果に基づき優先順位を決定します。複数業者から見積もり取得し、予算超過時は仕様変更や非優先部分の削除で調整します。
改修工事中の入居者への配慮は忘れてはいけない重要なポイントの一つです。特に高齢者施設では、騒音や振動によるストレスが入居者の健康状態に直接影響を及ぼす可能性があります。
工事は午前9時~午後3時などに行うなど、入居者の生活リズムを考慮した時間帯設定にし、昼食時間やお昼寝時間は工事を中断するなどの配慮が必要です。また防音シートや振動緩衝材の使用や工事区域と居住区域を物理的に分離するなど、騒音対策も必須です。
施工業者から交付される保証書の重要項目確認しておくようにしましょう。特に注意すべきは「隠れた不具合」です。施工不良は保証書に基づき再工事を請求することができます。定期点検の実施が大きなトラブルを防ぐ鍵となります。
前項では補助金について触れましたが、補助金の対象外となる有料老人ホームやサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)のうち、築20年以上の木造施設や、近年の豪雨災害や地震などによる被害が確認されている場合は、修繕費が大きくなる可能性があります。安全性や今後の運営を見据えて、建て替えを含む抜本的な対策を検討する必要があるかもしれません。
部分改修で費用を抑えることやファクタリングでの資金調達といった手段も考えられますが、今回は、M&Aという選択肢についてお話しします。
M&Aを通じて、以下のメリットが考えられます。
資金力のある事業者と統合することで、改修費用の負担軽減
M&Aを通じて資金力のある企業と統合することで、改修に必要な資金を確保しやすくなります。特に、改修には多額の費用がかかるため、資金的な支援を受けることが大きなメリットといえるでしょう。また資金力のある企業は、改修工事のための資金を提供するだけでなく、経営の安定性をもたらし、長期的な視点での投資が可能になります。
グループ企業の標準仕様を取り入れ、効率的な改修を実現
M&Aによって統合された企業は、グループ全体での標準仕様を導入することができます。複数の施設で同時に改修プロジェクトが進行すれば、コスト削減や工期短縮が期待できるかもしれません。グループ間で標準化されたプロセスや仕様を採用することで、施工業者との連携もスムーズになり、品質の向上も図れるため、利用者にとっても快適な環境が提供されることにもつながります。
事業承継問題と改修課題を同時解決
後継者不足や経営の安定性が大きな課題となっている今、M&Aを通じて、事業承継問題を解決しながら改修課題にも取り組むことが可能です。特に、経営基盤が安定した企業に統合されることで、事業の継続性が確保され、改修に必要なリソースを効率的に活用できます。
M&Aはあくまで選択肢の一つに過ぎませんが、建築費高騰が続く今、単独での改修が困難な施設にとっては真剣に検討する価値があります。
じつは改修工事費用だけでなく、解体工事費用も高騰しています。
解体工事を請け負う業者は、コロナ禍以降の物価高や人手不足の影響により倒産が増加しており、2024年度では過去最多の倒産件数を更新しました。
特にRC造(鉄筋コンクリート)の場合、坪単価5~8万円が解体費用の相場となっており、300坪規模の施設では1,500万円~2,400万円もの解体費用が発生します。これに加え、アスベスト処理費や産業廃棄物処理費など、追加費用がかかるケースも少なくありません。
介護施設の解体を検討する理由として以下があげられます。
介護業界は、経営が厳しい状況に直面していることが多く、特に小規模な施設では赤字が続くことが一般的です。人材不足や介護報酬の改定、運営コストの増加などが影響し、経営が成り立たなくなるケースが増えています。
介護保険制度の変化や、地域社会のニーズに応じた政策の見直しが行われることがあります。これにより、施設の運営が難しくなり、解体を余儀なくされる場合があります。特に、地域移行政策が進む中で、施設から地域での生活への移行が求められることが多くなっています。
多くの介護施設は、建物や設備が老朽化していることが多く、これに伴う修繕費用が経営を圧迫することがあります。老朽化した施設を維持することが困難になった場合、解体を選択することが考えられます。
赤字経営の施設でも、立地条件、施設の規模、施設種別、そして経営改善の可能性によっては、買手がつく場合もあります。特に、需要が高い地域や特定のニーズに応じた施設は、買手の関心を引く要因となります。
~買い手がつきやすい施設の特徴~
立地条件:都市部や郊外の駅近(徒歩10分圏内)
施設規模:30~50床程度の中規模施設
施設種別:特別養護老人ホームなど新規認可取得が困難な種別
解体ではなくM&Aを選択するメリット
解体費用を売却収入に転換可能
M&Aを通じて施設を売却することで、解体に伴うコストを回避し、譲渡利益を得ることができます。通常、売却価格は営業利益の数年分に相当することが多く、これにより新たな事業への投資や老後の資金として活用することが可能です。
従業員の雇用継続
M&Aによって従業員の雇用を維持することができます。特に、譲受側が既存のスタッフを引き継ぐ場合、雇用契約がそのまま継続されるため、従業員にとっても安心感があります。これにより、施設の運営がスムーズに行われ、サービスの質も維持されます。
地域の介護サービスを継続できる
施設を解体することは、地域社会に対して大きな影響を与えます。M&Aを選択することで、事業を継続し地域の高齢者やその家族に対するサービスを維持することができるため、地域社会への貢献も果たせます。
介護施設の運営は、経営環境の変化や施設の老朽化といった多くの課題に直面しており、建築資材費用の高騰により施設の改修工事の実施は容易ではありません。
改修工事の実施には、補助金制度の活用や部分改修など手段もありますが、M&Aという選択肢を活用することで、持続可能な運営を実現する道が開けます。M&Aは、資金力のある事業者との統合を通じて、経営の安定性を確保し、改修に必要なリソースを効率的に活用する手段としても注目されています。
修繕費用は会社の経営を大きく圧迫する額になることもあるため、難しい判断を迫られる問題ですが、今後の利用者様や従業員の安全・安心を守るためにも、早めの対応が重要です。改修や建て替えが難しい場合は、M&Aによる承継という選択肢も視野に入れてみてはいかがでしょうか。
当社では、介護施設のM&Aに関する無料相談を承っております。まずはお話しを聞くだけでも構いません。お気軽にお問い合わせください。
マネージャー
T.FUNAMOTO
