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【どうなる介護現場】人員配置基準の緩和とICT導入の効果とは?

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介護施設でストレッチをする利用者とリハビリスタッフ

はじめに

日本の高齢化はますます進み、介護サービスの需要は年々増加しています。

その中でも、特に介護施設における人員配置基準は、利用者の安全とサービスの質を守るための重要な基盤となっています。しかしながら、介護職員の深刻な人材不足や人件費の高騰により、現行の厳格な人員配置基準を維持することが難しくなってきているのが現状です。

こうした課題に対応するため、人員配置基準の見直しについて「3:1」から「4:1」への規制緩和が検討されています。

令和6年度の介護報酬改定でも、特定施設でICTや介護ロボットを活用し生産性向上に取り組む場合に、人員配置基準を一部緩和する制度が導入されました。これは全面的な見直しではありませんが、今後の方向性を示す重要な一歩といえます。

本コラムでは、この人員配置基準の歴史や背景、緩和の意義と影響、そしてICTなどの最新技術活用による業務効率化の可能性について解説します。

介護施設における人員配置基準の基本

◆介護保険法と人員配置基準の関係

介護施設の人員配置基準は、「介護保険法」に基づいて定められており、介護サービスの質と利用者の安全を確保するための最低条件です。

介護保険制度は2000年にスタートしましたが、この制度の根幹には「要介護者が安心して介護サービスを受けられる環境を整える」という目的があります。

そのため、介護施設は国の基準を満たさない限り、介護報酬を受け取ることができません。

この基準は、職員1人あたりが対応できる入所者数を制限することで、過度な負担を防ぎ、利用者へのケアが適切に行き届くことを保証する仕組みになっています。

◆基準の歴史的変遷とその背景

介護施設の人員配置基準は、制度開始当初より施設系サービスにおいて「利用者3人に対して介護職員1人以上(3:1)」を基本として定められてきました。この基準は、利用者が安全かつ安心して生活できる環境を維持するための最低限の人員配置水準として今日まで考えられています。

しかし近年、介護現場は大きな変化に直面しています。

高齢化で要介護者が増加する一方、2040年度には約57万人の介護職員不足が予測され、人材確保は深刻な課題です。さらに、人件費負担で小規模事業者の経営は厳しく、基準を維持できず閉鎖や倒産に至るケースも増えています。こうした状況を受け、国は従来の「3:1」から「4:1」への人員配置基準緩和を検討し始めています。

◆令和6年介護報酬改定での人員配置基準の見直し

令和6年度の介護報酬改定では、特定施設入居者生活介護(介護付き有料老人ホーム)において、従来の「入所者3人に対して介護職員1人(3:1)」という配置基準について、常勤換算で1人 → 0.9人への緩和が認められる特例が新設されました。

ただし、この緩和はすべての施設に適用されるわけではなく、対象となるのは、以下の条件を満たす、生産性向上に先進的に取り組む特定施設です。

適用条件

  • 見守り機器等の複数のテクノロジーを活用

  • 職員間の適切な役割分担の取組を実施

  • 安全性とケアの質を確保するための評価体制を整備

  • 上記取組により介護サービスの質の確保及び職員の負担軽減が行われていることがデータにより確認されること

これにより、職員1人あたりの担当入所者数を増やしつつ、ICTや業務効率化策を導入することで、質の高いケアと職員負担軽減の両立を図る狙いがあります。


ポイント

  • この緩和は特定施設のみが対象

  • 特養や老健などの施設系サービスには適用されない

  • ICTや見守り機器の導入は必須、しかも複数導入が条件

  • ICT導入コスト・教育体制の整備が必要なため、小規模施設にはハードルが高い

今後、こうした緩和の流れが他の施設系サービスに広がる可能性はありますが、現段階では特定施設に限定されています。経営戦略としては、ICT導入を進めるか、別の方法で生産性を確保するかを検討することが重要です。

参考:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について

 

◆介護施設別の人員配置基準(施設系サービス)

介護施設の種類によって、必要な職種や人員配置基準は大きく異なります。

ここでは、主に施設系サービスに該当する、特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、認知症対応型共同生活介護(グループホーム)、有料老人ホームの配置基準について整理します。

各施設はそれぞれの役割や利用者のニーズに応じた人員体制を整えることが求められており、法律や通知で具体的な基準が定められています。これらの基準は、利用者の安全とサービスの質を確保するとともに、施設運営の安定化にもつながっています。

以下に、各施設の主な人員配置基準の概要を示します。


■特別養護老人ホーム(特養)

職種人員配置基準
管理者1人以上(常勤)
医師

非常勤での配置義務あり

介護職員・看護職員3:1以上
生活相談員1人以上(専従)
機能訓練指導員

1人以上(兼務可)

介護支援専門員 1人以上(常勤)
管理栄養士または栄養士

1人以上

参考:厚生労働省|介護老人福祉施設・地域密着型介護老人福祉施設入所者生活介護

ポイント

  • 医師は常勤ではなく、月に数回訪問を実施しているケースが多い
  • ユニット型特養の場合は、ユニットごとに常勤のユニットリーダーを配置しなければならない

■介護老人保健施設(老健)

職種人員配置基準
医師常勤1人以上、100:1以上
管理者1人以上(常勤)
介護職員+看護職員3:1以上、うち看護は2/7程度
薬剤師

実情に応じた適当数(300対1を標準とする)

栄養士

入所定員100名以上の場合、1人以上

機能訓練指導員1人以上(専従)
支援相談員

1人以上、100:1以上

理学療法士、作業療法士、又は言語聴覚士

100:1以上

参考:厚生労働省|介護老人保健施設

ポイント

  • 医療機能を持つ介護施設のため、医師と看護師の配置が必須
  • 医療ニーズが高い利用者の増加で、基準を上回る配置を余儀なくされることも
  • リハビリ職(PT・OT・ST)の専従配置義務があるため人材確保のハードルが高い

■認知症対応型共同生活介護(グループホーム)

職種人員配置基準
管理者3年以上認知症の介護従事経験があり、厚生労働大臣が定める研修を修了した者が常勤専従
介護従事者日中:利用者3人に1人(常勤換算)
夜間:ユニットごとに1人
計画作成担当者事業所ごとに1人(最低1名はケアマネ)
※介護支援専門員かつ認知症介護実践者研修修了者

参考:厚生労働省|認知症対応型共同生活介護(認知症グループホーム)

ポイント

  • 1ユニット9人以下、小規模・家庭的なケアが特徴

  • 夜勤は各ユニットごとに1名必須のため、夜勤要員確保が難しい
    (※3ユニット設置の場合は条件をすべて満たせば、2名の夜勤職員での対応が認められている)


■有料老人ホーム

「住宅型」や「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」は訪問介護サービスを外部提供するため、施設自体には人員基準はありません。ここでは介護付有料老人ホームを対象とします。

職種人員配置基準

管理者

1人(兼務でも可)
生活相談員要介護者等:生活相談員=100:1
看護・介護職員①要支援者:看護・介護職員=10:1
②要介護者:看護・介護職員=3:1
※ ただし看護職員は要介護者等が30人までは1人、30人を超える場合は、50人ごとに1人
※ 夜間帯の職員は1人以上
機能訓練指導員1人以上(兼務可)
計画作成担当者介護支援専門員1人以上(兼務可)

参考:厚生労働省|特定施設入居者生活介護

ポイント

  • 特養と同様に3:1基準。ただし、民間経営が多いため、人件費抑制と採用難のバランスが課題

  • 利用者が要支援・要介護かによって、看護・介護職員の配置基準が異なる


ちなみに人員基準を満たしているかどうかは、「常勤換算」で計算します。

常勤換算とは、常勤職員を1.0として、非常勤やパート職員の勤務時間を加えて計算し、合計人数を常勤換算で表す方法です。

例えば、週40時間勤務を1.0とし、それより勤務時間が少ない職員を割合で換算します。

例:介護職員の勤務体制

  • フルタイムの勤務時間(常勤)= 160時間/月(※週40時間 × 4週)

  • Aさん(常勤):160時間勤務 → 160 ÷ 160 = 1.0

  • Bさん(パート):80時間勤務 → 80 ÷ 160 = 0.5

  • Cさん(パート):120時間勤務 → 120 ÷ 160 = 0.75

合計:1.0 + 0.5 + 0.75 = 2.25人(常勤換算)

◆計算の基本式|

常勤換算人数=「1か月間の稼働時間数÷常勤の1か月間の勤務時間数」

人員配置基準緩和の方針と影響

◆3:1から4:1への緩和の検討

厚生労働省は、深刻化する介護人材不足に対応するため、特定施設を中心に人員配置基準「入所者3人に対して介護職員1人(3:1)」を条件付きで「4:1」へ緩和する方向で検討を進めています。介護ロボットやICTの活用を前提に実証事業を進めながら、段階的な緩和を模索しています。

背景には、2040年度に約57万人の介護人材が不足すると予測される人手不足の深刻化と、人員確保が困難な施設で新規受け入れ停止や閉鎖が進むことを防ぎ、サービス提供を維持するという目的があります。

 

◆人員配置基準の緩和案が介護現場に及ぼす影響

「3:1から4:1へ」―この基準緩和は、施設にとって人材確保のハードルを下げる一方で、現場スタッフの負担を増やす可能性があります。

介護は、人と人との関わりが中心です。人員が減れば、そのしわ寄せは現場の介護職員に直撃します。

ここでは、現場の実態を踏まえたメリットとデメリットを整理し、何に注意すべきかを考えます。

【メリット】

  • 施設運営の継続性確保
    人手不足により人員配置基準を維持できず、受け入れ停止や閉鎖に追い込まれる施設を救済できる可能性があります。

  • 新規利用者受け入れの余地拡大
    4:1基準の導入により、同じ職員数でより多くの入所者を受け入れることが可能となり、利用者の待機問題の解消につながります。

  • 経営負担の軽減
    人件費割合の高い介護施設にとって、基準緩和は固定費削減につながり、経営破綻の回避や事業継続の安定化に寄与します。

  • ICT活用の推進
    国はICTや介護ロボット導入を条件に緩和を認めており、結果として現場の業務効率化やデータ活用が進む可能性があります。

  • 採用難の緩和
    「もう1人採れないから受け入れを止める」という状況を回避できるため、施設運営の継続性が高まります。

  • シフトの柔軟性が向上
    現行基準ではシフト組みが厳しく、急な欠勤に対応できないケースも。基準緩和でシフト調整の幅が広がります。


【デメリット】

  • 職員一人あたりの負担増加
    利用者数が増えることで、日常ケアや緊急対応の負荷が高まり、現場からは「これ以上増やすのは不安」という声が多く聞かれます。

  • 離職リスクの高まり
    長時間労働や精神的ストレスの増大により、離職やメンタル不調が増加し、結果的に人材不足を悪化させる可能性があります。

  • 介護の質低下への懸念
    見守りが手薄になり、転倒事故やクレームの発生リスクが高まります。また、利用者や家族の満足度低下につながる恐れもあります。

  • 現場ICT導入の負担
    小規模事業者ではICT導入コストや教育体制整備が難しく、かえって運営負担が増大する可能性があります。

  • 新人・外国人スタッフのフォロー不足
    教育やフォローに割ける時間が減り、育成が追いつかないリスクがあります。

 

◆今後の動向と予測

令和6年度介護報酬改定では、3:1から4:1への全面的な緩和は見送られた一方、特定施設に限って一部緩和が認められ、段階的緩和の第一歩となりました。

今後、仮に人員配置基準が変わるとしても、「3:1を一律で4:1に変更」する形ではなく、今回の改定と同様に、ICTや介護ロボットを活用し、生産性向上に積極的に取り組む施設に限定して、条件付きで段階的な緩和を認める方向で進むと考えられます。

一方で、ICTや業務効率化を前提とした基準緩和は、今後も確実に進む可能性が高いといえます。完全な「4:1」基準の導入は時期未定ですが、実証事業や地域モデルを踏まえ、次期改定以降に本格化するシナリオが有力です。

  • ICT導入が条件となる可能性
    国は、見守りセンサーや記録システムの導入、AIによる排泄予測など、テクノロジー活用を前提に配置基準を緩和する方向性を示しています。

  • 処遇改善や業務効率化の同時推進
    人員を減らすだけでなく職員の負担を軽減するための業務改善や報酬加算が併せて実施されると予測されます。

  • 生き残りの鍵は「人材×テクノロジー」
    人員配置緩和に適応できる施設は、ICT投資+職員の教育体制を整えられる事業者といえるでしょう。

ICT活用による業務効率化と人員配置

ICTは決して“魔法の解決策”ではありませんが、適切に活用すれば人員配置基準の緩和による負担増を緩和し、介護の質を守るための有力な手段となります。

国も人員配置基準の見直しと並行して、介護現場へのICT・ロボット導入を推進しており、補助金や制度支援も整備されてきています。

ここでは、現場で実際に導入が進む具体的なICTツールと、業務効率化に役立つ施策を紹介します。

1. 見守りセンサーの導入

  • 機能例
    └ベッドセンサーで離床・転倒・呼吸状態を自動検知
    └転倒予防や夜間の見回り回数削減に効果的
    └一部製品はナースコールやスマホ通知と連携可能
  • 導入メリット
    └夜勤職員の巡回負担軽減
    └転倒事故リスクの低減
    └記録自動化と連動すれば業務時間の短縮

2. 介護記録システムの自動化

  • 課題:紙ベースでの記録は1人あたり1日30分以上を占めるケースも。
  • ICT解決策
    └タブレットや音声入力で記録を簡略化
    └バイタル・排泄・食事記録をリアルタイムで共有
    └データをAI解析してケアプランに反映
  • 導入効果
    └記録業務を30〜50%削減されたという事例もあり
    └ケアマネジャーや看護師との情報連携がスムーズに

3. 排泄予測AI

  • 機能
    └センサーとAIが排泄タイミングを予測し通知
    └トイレ誘導のタイミングが最適化され、失禁や皮膚トラブル防止に有効
  • 導入効果
    └オムツ交換の効率化
    └夜間介助回数の削減
    └入所者のQOL(生活の質)向上

4. 自動配膳・見守りロボット

  • 事例
    └配膳ロボット:食事運搬を自動化
    └見守りロボット:廊下巡回、顔認証で安否確認
    └会話ロボット:認知症予防・レクリエーション支援
  • 効果
    └職員の移動・力仕事を軽減
    └夜間の人手不足を補完

5. ICT+業務改善の複合策

  • 夜勤体制の最適化:見守りセンサー+オンコールで夜間配置人数を調整
  • 訪問診療・看護の連携強化:オンライン診療・モニタリングで医療対応を効率化
  • シフト管理システム:AIで勤務希望・労働時間を自動調整し、シフト作成時間を削減

 

★現場に合った導入のポイント

  1. 現場の課題を明確にする
    まずは現場スタッフや管理者が日々感じている負担や業務の「ここが大変」を洗い出しましょう。
    ICTは万能ではないため、解決したい課題に合ったツールを選ぶことが重要です。

  2. シンプルで使いやすいツールを選ぶ
    操作が複雑な機器は現場の負担を増やす原因になります。
    ベテラン職員でも使いやすい、直感的な操作ができるICT製品を優先的に検討しましょう。

  3. 職員への丁寧な研修とフォローアップを行う
    導入時だけでなく、定期的な操作説明会やトラブル対応の窓口を設けて、職員が安心して使い続けられる環境を作りましょう。

  4. 段階的な導入を検討する
    すべてを一度に導入するのではなく、効果が見込みやすい業務から少しずつ取り入れることで、現場の混乱を防ぎやすくなります。

  5. 利用者・家族への説明と理解促進を忘れない
    ICT導入が利用者やご家族の不安につながらないよう、目的や効果を丁寧に説明し、安心感を提供することが大切です。

  6. 補助金や助成金を積極的に活用する
    国や自治体の支援制度を活用し、初期費用や運用コストの負担を軽減しましょう。

  7. 定期的に効果検証と改善を行う
    導入後も現場の声を聞きながら、ICT活用の成果を検証し、必要に応じて運用方法を見直しましょう。

ICTを導入するだけでは現場の負担は減らない

先述の通り、ICTは介護業務をサポートする強力なツールですが、すべてを自動化できるわけではありません。

最終的な判断や対応は人が行う必要があり、ICTはあくまで補助的役割にとどまる点を理解することが重要です。さらに、誤報や操作の手間、コスト負担など、新たな課題が発生するケースも少なくありません。

ここでは、ICT導入が抱える現場目線の課題を整理し、気を付けるべき点を解説します。

■ICTの役割は「補助」であり、人の判断は不可欠

ICTは介護現場における業務効率化の大きな助けになりますが、完全自動化は不可能です。

見守りセンサーが転倒の兆候を検知しても、最終的に駆けつけるのは職員であり、異常の真偽を確認し対応するのも人間です。排泄予測AIやバイタルモニターも同様で、あくまで意思決定のサポートツールであることを理解しておく必要があります。つまり、ICT導入によって「負担ゼロ」にはならず、人員削減を前提にした過度な期待は危険です。


■ICT導入による新たな課題(誤報・操作負担・コスト)

ICT導入は便利な反面、新しい課題を生むリスクもあります。

  • 誤報やアラート過多
    センサーの感度調整が不十分だと、転倒でもない動作でアラートが鳴ることがあります。結果、職員は駆けつけ対応に追われ、逆に負担増になるケースも。

  • 操作や管理の手間
    製品ごとに操作方法が異なり、複数のICT機器を使うと現場の混乱やミスが起きやすい。

  • コスト問題
    初期導入費用だけでなく、月額利用料・メンテナンス費用・通信費などランニングコストも重荷です。特に小規模事業者では、ICT導入が経営を圧迫するリスクもあります。


■職員のITスキルや教育不足

ICTを効果的に活用するには、職員のITリテラシーが不可欠です。

しかし現場では、

  • ベテラン職員が操作に不慣れ

  • 導入時の研修時間を確保できない
    といった課題が目立ちます。結果として、「結局紙の記録に戻った」という事例も少なくありません。操作性のシンプルさと継続的な教育体制は、ICT活用の成否を分ける重要ポイントです。


■利用者・家族の理解不足

ICT活用に対して、利用者や家族の間に「機械任せで人が見ていないのでは?」という不安があります。

とくに高齢者ご本人は「機械に監視されている」という心理的抵抗を持つ場合もあります。導入前にICTの目的や安全性を丁寧に説明し、「機械+人のダブルチェックで安心感を高める」というメッセージを伝えることが大切です。


■効率化とコミュニケーションのバランス問題

ICT導入で業務が効率化される一方、入所者とのコミュニケーションが減る懸念があります。

たとえば、記録業務が自動化されることで観察や声かけの時間も削減される可能性がありますが、これは利用者の安心感やQOL低下につながりかねません。

効率化によって生まれた時間を、「人にしかできないケア」や「傾聴」に回す工夫が求められます。

今、求められる介護施設の経営戦略

人員配置基準の緩和が進んでも、介護業界が抱える根本的な人手不足の課題は変わりません。

施設が持続可能な経営を続けるためには、「人材の確保・育成」「ICT・業務効率化」「地域連携」「働きやすさの追求」など、多様な視点からの経営戦略が必要です。

ここでは、限られた人材で質の高い介護サービスを提供し、職員の定着と働きやすさを実現するための経営のあり方について考えます。

●効果的な人材確保と定着のための取り組み

まずは、職員の採用から離職防止までを一貫して見直すことが求められます。

採用時にはミスマッチを防ぐために、職場環境や業務内容を正確に伝えることが重要です。また、入職後は丁寧な研修やフォローアップを行い、職員一人ひとりの成長を支援する環境づくりが必要です。評価制度やキャリアパスを明確にし、職員のモチベーションを高めることも大切です。

●ICTと業務改善の積極的な活用

人手不足を補うため、ICTツールや業務の効率化は不可欠です。ただし、ICT導入はあくまで「補助」であり、人のケアを補完するものであることを理解しましょう。導入前に現場のニーズを十分に把握し、操作性や教育体制を整えることで、職員の負担軽減と介護の質維持を両立できます。

●柔軟な働き方の推進と職場環境の改善

人材の確保には、働きやすい環境整備も欠かせません。勤務シフトの柔軟化やテレワークの活用、休暇制度の充実など、職員のワークライフバランスを考慮した制度設計を進めましょう。心理的な安全性を確保するための職場風土づくりも重要です。

●地域連携と多様な事業展開

地域の医療機関や福祉サービス事業者と連携し、包括的なケア体制を築くことはますます重要になっています。また、訪問介護や通所サービスなど多様な事業形態を組み合わせることで、施設の収益基盤を強化し、経営の安定化を図ることが可能です。

さらに、経営環境が厳しい中で成長や安定化を目指すために、M&A(合併・買収)の活用も一つの有効な選択肢です。地域の事業者同士が連携・統合することで、経営資源の効率化やサービスの質向上、人材確保の強化につながります。M&Aは単なる事業譲渡にとどまらず、地域包括ケアシステムの構築や事業拡大、後継者問題の解決など、幅広いメリットをもたらす可能性があります。

こうした多角的な取り組みを進めながら、施設経営者は今後の変化に柔軟に対応し、持続可能な経営基盤を築いていく必要があります。

さいごに

介護現場における人員配置基準の見直しは、今後も避けられないテーマです。

しかし、「基準緩和=現場がラクになる」という単純な話ではありません。むしろ、職員の負担増やケア品質の低下など、懸念点も多く残ります。

一方で、今回の改定に見られるように、国はICTや介護ロボットの活用を前提とした運営を強く後押ししています。

これは「人を減らす」ためではなく、限られた人材で安全・効率的なケアを実現する仕組みづくりに舵を切ったことを意味します。

そのため、施設経営者に求められるのは以下の両輪です。

  • ICT・業務改善による生産性向上

  • 経営基盤の強化(M&Aや法人連携も含む)

小規模事業者や人材確保に悩む施設にとっては、経営資源を補完しながら持続可能な体制をつくることが今後のカギです。

次期改定に備え、今のうちから情報収集と戦略的な準備を進めましょう。

介護施設の経営(ご譲渡・ご譲受)についてご相談・ご質問がございましたら、無料相談を承っております。

どうぞお気軽にお問い合わせください。介護業界に特化したプロのアドバイザーが、丁寧にサポートいたします。

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コラム監修者

マネージャー
T.FUNAMOTO

  • 経歴
    九州の国立大学を卒業後、CBグループに新卒入社。病院・薬局・介護施設を対象としたコンサルティング業務を経て、2020年度よりM&A業務に従事。介護分野を中心に、これまで累計30件以上の成約支援に携わる。