本コラムでは、広島県で介護事業を展開されている皆様や、今後事業の拡大・展開を検討されている皆様に向けて、需要・供給・人材の3つの視点から整理し、押さえておくべき市場特性と戦略視点を整理していきます。
広島県の介護市場は、表面的には全国平均と大きな差がないように見えますが、実際には、後期高齢者の増加と地域間格差が同時に進行しており、介護事業を取り巻く環境は確実に変化しています。
すでに広島県内で介護事業を運営されている経営者様にとって、こうした傾向は「肌感覚として分かっている」内容かもしれません。ただ、人口動態や要介護認定構造、人材需給を数字と構造であらためて整理することで、これまでの延長線では判断できない局面に入っていることが見えてきます。
これからの経営判断を考えるための前提整理として、本コラムが一助となれば幸いです。
広島県の介護市場を考えるうえでは、まず人口構造の変化を押さえておく必要があります。広島県では全国と同様に総人口が減少する一方で、後期高齢者(75歳以上)人口は今後も増加が続く見込みです。
広島県の将来推計によれば、団塊の世代が75歳以上に移行する2025年以降から2040年頃まで後期高齢者数は増加傾向にあり、介護ニーズは一段と高まると予測されています。
下記の表は、広島県の総人口と65歳以上人口の推移を示したものです。
2025年以降、総人口は減少する一方で高齢者人口は増加し、高齢化率は30%台前半から2040年には約35%に上昇すると見込まれています。なお、現在公開されている全国平均のデータと比較すると、広島県の高齢化率の進行ペースに大きな差や極端な乖離は見られませんが、この「平均的」に見える数値の裏側には、地域ごとの介護ニーズの差が存在しています。
| 年 | 総人口(人) | 65歳以上人口(人) | 高齢化率(%) |
|---|---|---|---|
| 2025年 | 2,703,897 | 829,336 | 30.7 |
| 2030年 | 2,617,878 | 824,619 | 31.5 |
| 2035年 | 2,525,814 | 828,624 | 32.8 |
| 2040年 | 2,427,975 | 858,115 | 35.3 |
参考:第9期ひろしま高齢者プランの策定について|広島県
広島県では、高齢者数の増加に伴い、要介護(要支援)認定者数も増加傾向にあります。
県全体では2025年時点で第1号被保険者(65歳以上)818,787人に対し認定者総数166,950人(認定率20.1%)となっており、全国平均(約18%)を上回る傾向にあります。都市部と地方部の両方で要介護認定者が増えていることから、県全体として介護需要が分散・重層化しています。
県内において都市型・地方型の介護需要が同時に成立する点は、広島県の介護市場を読み解くうえで重要な特徴であると考えられます。
出典:介護保険制度の実施状況|広島県健康福祉局医療介護保険課
広島県内の市町村・エリアごとの介護ニーズの差についてさらに紐解いていきます。
広島市を中心とする都市部では、下記のような特徴があります。
高齢化率そのものは25~30%前後と、県平均並みか、やや低い水準にとどまりますが、単身高齢世帯や高齢者のみ世帯もいるため、家族介護力が弱い構造になっていることが考えられます。
その結果、
という状況が生まれています。全国的には「都市部=比較的介護度が軽い」と見られがちですが、広島市周辺では都市部でありながら在宅介護ニーズが重くなる点は、広島県でも例外ではないと考えられます。
郊外・中山間地域では、下記のような特徴があります。
その結果、高齢者人口に占める要介護認定率が高く、要介護3以上の中重度者の割合が高くなりやすい傾向にあります。
その背景には、家族が近隣にいない、医療機関・交通アクセスの制約、介護サービスの選択肢の少なさといった要因が考えられ、一人あたりに必要な介護サービス量が多くなるのが特徴です。
広島県は地理的に、
が混在しており、大規模施設一本足では対応しにくい県です。地理的条件を踏まえると、分散型・連携型モデルとの親和性が高いと考えられます。
広島県には2025年4月時点で居宅介護サービス事業所が4,078か所、介護予防サービス事業所が2,025か所など、充実したサービス基盤があります。
しかし全国的な人材不足の潮流は広島県でも、もちろん例外ではなく、介護・看護・リハ職員の確保は喫緊の課題です。広島県内の介護職の有効求人倍率は、常に全国平均を上回る高水準で推移しており、採用難易度は高いと言えます。
就業者の高齢化や離職率の上昇、都市部と地方における人材偏在、慢性的な働き手不足といった複合的な要因により、現行施策の延長線上では介護人材の需給ギャップは今後さらに拡大する可能性が高いと考えられます。そのため、人材育成・定着策の強化に加え、外国人材の活用や副業・短時間就労といった新たな働き方の導入を進めていくことが重要になります。
特にPT・OT・STなどのリハビリ職や訪問看護師は慢性的な人材不足が続いており、適切な報酬体系の整備や労働環境の改善によって、他分野への人材流出を防ぐ取り組みが求められています。医療機関が比較的多い広島県では、病院側に人材が流れることも考えられるため、介護事業所においては、時短勤務やICT活用などの「働きやすさ」に加え、将来を見据えた「明確なキャリアパス」を提示することが、人材確保の鍵となるのではないでしょうか。
出典:介護保険制度の実施状況|広島県健康福祉局医療介護保険課
広島県では、高齢化の進行や生産年齢人口の減少を背景に、地域包括ケアシステムの推進と持続可能な介護提供体制の構築を基本方針とした「第9期ひろしま高齢者プラン」が示されています。
先述の通り県の将来推計では、今後、総人口は減少する一方で、75歳以上人口や要支援・要介護認定者数は増加すると見込まれています。特に要介護3以上の中重度者の増加が想定されるため、サービス量の確保だけでなく、中重度にも対応できる介護・看護・リハビリ機能の充実が重要になります。
また、このプランでは介護人材の確保・育成・定着と生産性向上が明確に位置づけられており、ICT活用や業務効率化を通じた働きやすい職場づくりの必要性が示されています。
さらに、二次保健医療圏と一致した7つの老人福祉圏域ごとに、都市部と中山間地域の特性を踏まえた地域別の介護サービス体制整備が進められる方針です。
こうした計画から、広島県の介護事業者には、地域特性を踏まえたサービス設計、医療・介護連携を意識した専門職の活用、人材定着を見据えた職場環境整備を中長期的に進めていく視点が求められているといえます。
参考:第9期ひろしま高齢者プランの策定について|広島県
高齢者人口の増加により、認知症ケアやリハビリテーションを含む在宅系サービス、介護予防を目的としたサービスの重要性は全国的に高まっています。訪問リハビリや運動訓練を行う通所サービスは、介護保険制度の中でも一定の役割を担い続けている分野です。
広島県においても、住み慣れた地域で生活を継続できる体制づくりが求められており、地域密着型サービスや予防的な訪問サービスは、県の施策とも方向性が合致する分野といえます。あわせて、医療機関と連携した医療的ケアや、看護職・リハビリ専門職の専門性を生かしたサービスは、事業上の差別化につながる可能性があります。
こうした中、県内の地域特性を見ると、都市部と中山間地域で介護ニーズの現れ方に違いがあります。
広島市や福山市などの都市部では、高齢者数の増加に伴い介護ニーズが集中する一方、事業者も多く競争が激しい状況にあります。その中でも、人材不足により訪問サービスや認知症ケアなど、特定分野では需要に供給が十分に追いついていない状況が見られます。
一方、中山間地域では、人口減少と高齢化が同時に進行し、高齢化率が高い地域も多く存在します。75歳以上人口の割合が相対的に高いことから、中重度の要介護者が占める比率も高くなる傾向があり、サービス需要はあるものの、事業所数や人材の確保が難しい構造的課題を抱えています。
こうした地域では、移動距離の長さや医療機関へのアクセス制約、家族介護力の低下などが重なり、1人あたりに必要な支援量が増えやすい状況にあります。「ひろしま高齢者プラン」でも、ICT活用や多職種連携、地域資源の活用といった柔軟な支援体制の必要性が示されており、複数サービスの一体的な運営や効率化を前提とした事業モデルの検討が重要となります。
広島県では若年人口の減少により、介護分野における人材確保は今後さらに難しくなると見込まれます。そのため、賃金水準だけでなく、働きやすい環境整備や教育体制、将来像を描けるキャリアパスの提示が重要になります。
特に若手人材や外国人材など、これまで十分に活用されてこなかった層へのアプローチが、今後の鍵となります。
地域包括ケアシステムの推進により、医療・介護・生活支援の連携は今後さらに重要性を増します。広島県内では市町村ごとに介護保険事業計画や地域ケア会議が整備されており、新規参入や事業拡大においては行政計画との整合性が事業の成否を左右します。
居宅介護支援事業所や地域包括支援センターとの関係構築、地域住民・ボランティアとの連携は、単なる理念ではなく実務上の利用者確保・安定運営の鍵となります。
これまでの介護事業では、
「訪問介護か、通所か」「在宅か、施設か」といったサービスの種類が、事業判断の中心になりがちでした。
一方で、今後は地域包括ケアの考え方が進む中で、地域の中で自社がどの役割を担っているのかを整理しておくことが、より重要になってきます。
退院後の在宅生活を支える受け皿なのか
介護度が重くなる前に関わる“つなぎ役”なのか
中山間地域で、最後まで暮らしを支える存在なのか
「地域から何を期待されているのか」「どこなら無理なく力を発揮できるのか」を考えてみることで、今後の判断を考える第一歩になるでしょう。
人材不足は、多くの事業者にとってすでに日常的な課題です。これからは、「どれだけ採用できるか」だけでなく、
1人あたりの負担が重くなりすぎていないか
無理なく働き続けられる仕組みになっているか
特定の人に仕事が集中していないか
といった運営の中身を見直す視点がより重要になります。ICTの導入も、単なる効率化ではなく、記録や移動、情報共有の負担を減らし、現場が少し楽になるための手段として捉え直すことで、効果を実感しやすくなります。「このやり方で、今の職員が5年後も無理なく働けるだろうか」そんな問いを持ちながら、少しずつ体制を整えていくことが大切になってきます。
介護事業を続けていく中で、「拡大するかどうか」だけでなく、「今の形をどう維持するか」「どこまでを自社で担うか」を考える場面が増えてきます。
特に、中山間地域や人材確保が難しいエリアでは、
といった選択が、結果として事業と職員を守る判断になることもあります。
「やめる」ことが目的ではなく、「無理なく続けるために、どう任せるか・どうまとめるか」という視点で考えることが、これからの経営に求められるのではないでしょうか。
広島県内で介護事業を展開・検討する際は、単純な人口規模ではなく、高齢化率や要介護度構成、人材供給力といった複数の指標を組み合わせて判断することが不可欠です。
特に、
という構造は今後さらに明確になります。
そのため、
といった戦略的視点が求められます。今後の介護経営では、「需要があるか」ではなく「持続可能か」を基準にしたエリア別の戦略設計が、経営判断の中心になります。
先述の通り、介護業界では「いかに採用し、いかに定着してもらうか」が、事業継続を左右する重要なテーマになっています。働きやすい環境づくりやキャリアパスの提示と並んで、賃金設計もまた、避けて通れない要素の一つです。
一方で、「今の賃金水準が地域や業界の中でどの位置にあるのか」「将来を見据えた賃金カーブになっているのか」を客観的に把握できていないまま、長年運営を続けておられる事業所様も少なくありません。
実はこうした課題の背景には、賃金水準や賃金カーブの設計が影響しているケースもあります。
「同じ介護業界・同じ地域であっても、平均年収と比べて低くなっている」「昇給ペースが遅く、将来の見通しが立ちにくい」「若手とベテランの賃金バランスが崩れている」といった点で、知らないうちに採用・定着の面で不利な状況になっていることがあります。
賃金は一度決めると見直す機会が少なく、「開設当初のまま」「何となく続けてきたまま」になりやすい項目です。だからこそ、まずは現状を客観的に整理することが重要です。
当社では、介護事業所様からいただいた賃金データをもとに、無料で賃金分析を実施しています。
「今の形で、無理なく事業を続けていけるのか」その確認の一つとして、賃金分析をご活用いただければ幸いです。
