2025年12月に成立した「医療法等の一部を改正する法律」により、医療提供体制は大きな転換期を迎えています。今回の改正は、医療機関の役割分担、医師配置、医療DXの在り方までを含めた構造的な見直しを目的としています。
本コラムでは、改正医療法の全体像を整理しつつ、医療機関経営にどのような影響が想定されるのかを解説します。
この改正は、制度を部分的に手直しするものではなく、将来の医療提供体制をどのように維持していくかという視点から行われたものです。
背景には、急速な人口減少と高齢化の進行により、地域ごとに医療ニーズの質・量が大きく変化している現状があります。
特に2040年頃には、医療需要がピークを迎える一方で、医師・看護師をはじめとする医療人材の確保が一層困難になることが想定されています。こうした将来予測を踏まえ、限られた医療資源を有効に活用し、地域ごとに持続可能な医療提供体制を構築することが、今回の改正の大きな目的となっています。
今回の改正では、2040年頃の医療提供体制を確保するため、「地域医療構想の見直し」「医師偏在対策」「医療DXの推進」が大きな柱になっています。
改正医療法は、令和12月12日に公布され、施行日は2027年4月1日(令和9年4月1日)を原則としていますが、一部の規定は2026年(令和8年)4月1日・10月1日から施行され段階的に施行されていく予定です。
それぞれの改定内容は以下の通りです。
従来は病床数の調整が議論の中心となってきましたが、今回の改正では、病床に限らず、入院・外来・在宅医療や介護との連携まで含めて、地域全体の医療提供体制を包括的に捉える仕組みへと転換されます。
地域や診療科による医師の偏りを解消するための法的枠組みが強化されます。
デジタル技術を活用し、効率的で質の高い医療提供を目指します。
※公布の日から起算して1~3年を超えない範囲内において政令で定める日に施行
出典:医療法等の一部を改正する法律の成立について(報告)|厚生労働省
「医療法等の一部を改正する法律」の公布及び一部施行について(通知)|厚生労働省
前章では、改正医療法により導入・見直しされる内容について整理しました。
次にこれらの改正を踏まえ、医療機関の経営・運営にどのような影響が生じるのか、そして今後どのような対応が求められるのかを考えていきます。
改正医療法では、地域医療構想の中で医療機関の機能や役割を整理していく方向性が示されています。
これにより今後は、「病床を持っていること」や「長年地域で運営してきたこと」だけでは十分とは言えず、「地域の医療提供体制の中で、どの機能を担っている医療機関なのか」を説明できることが求められます。
病床数の調整や適正化に関する仕組みが整理されましたが、特に重要なのは、経営安定等を理由として病床を削減した場合、その病床数が医療計画上の基準病床数からも減算されるという点です。
現場ではすでに、人手不足で病床をフル稼働できない、稼働率が下がり、維持が負担になってきているといった声も少なくありませんが、改正医療法の下では、こうした状況を踏まえて病床を減らした場合、将来的に病床数を戻しにくくなる可能性が制度上示されています。
そのため今後は、「当面の運営をどうするか」だけでなく、「この病床を中長期的にどう位置付けるか」を考える場面が増えていくと考えられます。
医師偏在対策の強化により、特にクリニックにおいては、
開設エリア
管理者の要件
医療提供体制
が、これまで以上に制度の影響を受けるようになります。
外来医師過多区域では、無床診療所の新規開設に対する事前届出などが必要となり、「開業すれば自由に診療できる」という前提は成り立たなくなりつつあります。既存のクリニックであっても、管理者要件や地域医療との関係性を含めた運営体制の見直しが求められます。
オンライン診療が医療法上明確に位置付けられたことで、今後は「できるかどうか」ではなく、どう運用しているかが問われます。
などについて法令・指針に基づいた運用が求められ、不十分な場合、法令上のリスクが顕在化します。
また、美容医療についても定期報告義務が設けられ、自由診療であっても、一定の管理・監督下に置かれる領域へと変化していきます。
電子カルテ情報の共有や医療情報基盤整備は、今後の医療提供体制の前提条件として位置づけられています。
医療連携の可否や業務効率、人材確保にも影響する要素です。これにより、IT投資が遅れている医療機関ほど、業務効率・人材確保・連携面で不利になる構造が進みつつあります。
今後の医療機関経営では、
といった点を、地域全体の医療提供体制の中でどう位置づけられるかという視点で整理していく必要があります。
特に病床を有する医療機関では、「今の延長線で運営を続けた場合、5年後・10年後も地域から必要とされているか」を一度立ち止まって考えることが、結果的に無理のない経営判断につながります。地域医療構想は“制限”ではなく、将来の選択肢を早めに検討するための地図として捉えることが重要です。
オンライン診療や美容医療を含め、診療の「やり方」そのものに対するガバナンス強化が求められます。
誰がどこまで責任を負うのか(医師・法人・管理体制)
どのような手順で診療を行っているのか(院内ルールの明文化)
記録や説明が適切に残されているか(カルテ・同意・報告体制)
といった点を、問題が起きたときに説明できる状態にしておくことが重要になります。
現場では「これまで大きなトラブルはなかった」というケースも多いと思いますが、今後はトラブルが起きてから対応するのではなく、起きない前提で体制を整えているかが問われる局面が増えていきます。
これは現場の負担を増やすためのものではなく、結果として医療機関と医療従事者を守る仕組みとして位置づけていく視点が必要です。
電子カルテの標準化や情報連携への対応は、単なるIT化や業務効率化にとどまらず、医療機関の将来像そのものに影響するテーマになっています。
医療DXを進めることで、
人材不足の中でも業務を回せる体制づくり
職員間・多職種間の情報共有の質向上
他医療機関・介護事業者との連携のしやすさ
といった点に差が出てきます。
特に今後は、「どれだけ良い医療をしているか」だけでなく、「どれだけ仕組みとして再現性・継続性があるか」が、外部からも見られるようになります。短期的には負担に感じられる取り組みであっても、医療DXは将来の選択肢を狭めないための投資として、段階的に検討していくことが現実的です。
今回の改正医療法は、医療提供体制を将来にわたって維持するための制度改正である一方で、医療機関にとっては負担や制約が増える内容も少なくありません。
病床の扱いや地域での役割の整理、医師偏在対策、DX対応など、現場では「対応しきれるのか」「これ以上の負担は厳しい」と感じる場面も多いと思います。これまで各医療機関が努力や工夫で何とか支えてきた部分について、制度として一定の方向付けや管理が入ってくる点は、決して軽い変化ではありません。
一方で、人口減少と人材不足が進む中、従来と同じ形の医療提供を続けることが難しくなっているのも事実です。今回の改正は、そうした現実を前提に、「どの医療機関が、どの役割を担い、どう連携していくのか」を地域全体で整理していこうとする動きとも言えます。
すぐに答えが出るものではありませんが、改正医療法を現場を縛る制度として捉えるのではなく、将来に向けた選択肢を考えるための枠組みとしてどう活用できるか。自院の状況や地域の実情を踏まえながら、少しずつ向き合っていくことが、結果として無理のない経営判断につながっていくのではないでしょうか。
ディレクター
S.KOMURA
