介護事業の事業承継・M&Aは、経営者様にとって人生でも数少ない、そして極めて重要な意思決定の一つです。
しかし、初めてのM&Aでは「これで本当に大丈夫だろうか」「この条件で決めてしまっていいのか」といった不安や疑問を感じる方も少なくありません。
そんなときに役立つのが、「セカンドオピニオン」です。セカンドオピニオンとは、現在進めている条件や手続きを第三者の専門家に確認・評価してもらうことを指し、より客観的で安心できる判断材料を得るための仕組みです。
医療の現場と同じように、M&Aでも“別の専門家”から意見を聞くことで、自分では気づきにくいリスクや判断の偏りを補い、納得のいく意思決定につなげることができます。
本コラムでは、M&Aのセカンドオピニオンを検討する際に知っておきたい基本的な考え方や、実際の相談ポイント、よくある質問までを詳しく解説します。
「あとで後悔したくない」とお考えの経営者様に、ぜひお読みいただきたい内容です。
M&Aは売手にとって相手(=買手)ペースで話が進むケースが少なくないのが実情です。特に中小規模の介護事業経営者は初めてのM&Aとなることも多く、いつの間にか自分の希望や想いが置き去りになってしまうことがあります。
「この条件で本当に良いのだろうか」
「納得しきれないけど、これが一般的な水準なのだろうか」
「よく理解しきれないまま、契約書にサインをしてしまった」
M&Aはその特性上、周囲の親密な人物にも相談ができないことがあるため、一般的な水準が分からない、客観的視点を持てないことで、不安を抱えたまま話を進めてしまったというケースは少なくありません。
介護事業のM&Aでは譲渡価格だけではなく、数値では表しにくい様々な要素が関わってきます。
こうした数値では表しにくい大切な要素が軽視されたり、譲渡価額が適正かどうか分からないまま話が進んだりすると、譲渡後に「こんなはずではなかった」と後悔する結果にもなりかねません。
M&Aの契約書には、専門用語や複雑な条件が多く含まれており、気づかぬうちに不利な条項が盛り込まれているケースも少なくありません。
実際に、「説明もなく、よくわからないまま署名してしまった」という声や、納得できない内容があっても“第三者に相談してはいけない”という思い込みから、不安を抱えたまま契約に至ってしまったというケースもあります。こうしたリスクを避けるためには、最終合意の前に第三者の視点で契約内容を確認し、客観的なアドバイスを受ける“セカンドオピニオン”が有効な選択肢となります。
M&Aにおいて「本当にこのまま進めてよいのか?」という迷いが生じたとき、当事者だけで判断するのではなく、第三者の視点=セカンドオピニオンが力になります。
ここでは、特にセカンドオピニオンの活用が効果的なシチュエーションをご紹介します。
M&Aの契約書は、専門用語や複雑な条項が多く、初めての方にとっては内容を正確に理解するのが難しい場合があります。「しっかりとした説明がなく署名を急かされた」「不利な条件が入っているのではないか」といった違和感を覚えた場合、そのまま進めず、第三者に相談することで、リスクを見える化し、納得した上で判断ができるようになります。
「なぜこの買手なのか」「なぜこの条件なのか」といった仲介会社からの説明に疑問があるときも、セカンドオピニオンが有効です。
特定の買手ありきで話が進んでいたり、施設の価値が過小評価されているように感じたりする場合は、他の専門家に意見を求めることで視野が広がり、より納得感のある判断ができるようになります。
提示された価格や譲渡条件が、果たして本当に適正かどうか判断できないまま進んでしまうケースも少なくありません。
特に介護事業のM&Aでは、多くの人が関わるため価格だけではなく、定量的・定性的な多くの条件を交渉していく必要があります。専門知識を持った第三者に査定内容や条件を見てもらうことで、不安を払拭できる可能性があります。
売手側がひとりで交渉を進めてしまうと、準備不足や情報の非対称性によって不利になるケースも少なくありません。
「どこまで主張してよいのか」「言いにくいことをどう伝えるべきか」などの不安を抱えている方にとって、交渉経験が豊富な第三者の支援は心強い味方になります。感情的になりがちな場面でも、冷静で客観的な立場からアドバイスを受けられることは、大きな安心につながります。
経済産業省・中小企業庁が定めた「中小M&Aガイドライン」でも、M&Aを行う際には、第三者の専門家の助言を得ることが望ましいとされています。
特にM&Aに不慣れな中小企業や個人事業主にとっては、セカンドオピニオンの活用が重要とされています。第三者に相談をすることは、決して後ろ向きな行為ではなく、より良い意思決定のための賢明な判断だと言えるでしょう。
※中小M&Aガイドラインはこちらからご覧いただけます。
知人や取引先から紹介された仲介会社に依頼するケースは少なくありません。
しかし、「紹介者への配慮から断りづらい」という心理が働き、冷静な判断がしづらくなることもあります。たとえ信頼できる紹介であっても、実際には専門性や対応力に課題があるケースも珍しくありません。
こうした場合にこそ、第三者の専門家によるセカンドオピニオンが有効になるでしょう。進行中の内容や条件を客観的な視点で見直すことで、後悔のない意思決定につながります。
M&Aが進み始めると、多くの重要な決断を短期間で行う必要があります。そのため、適切なタイミングで第三者の専門家の意見を取り入れることが、成功につながる重要なポイントです。ここでは、セカンドオピニオンを活用する最適なタイミングと、そのメリットについてご紹介します。
まずはM&A仲介会社との契約時に確認しておきたいポイントから解説します。
介護M&Aを円滑に安心して進めるために、M&Aアドバイザーと締結するアドバイザリー契約書は非常に重要な書類です。契約締結前にしっかりと内容を理解し、納得した上で進めることがトラブル防止につながります。
以下のポイントは、契約書を確認する際に特に注意したい事項です。中小企業庁が定める「M&A支援機関」の認定を受けているM&A仲介会社では、アドバイザリー契約に関する重要事項説明が「義務化」されています。説明もなく契約の締結を迫る仲介会社には注意が必要です。
契約書には、アドバイザーが提供するサービス内容が具体的に記載されているかを確認しましょう。たとえば、売却先の紹介、価格交渉支援、法務や許認可対応のアドバイスなど、どこまでのサポートが含まれているのかが明確であることが重要です。業務範囲が曖昧だと、後々「想定していた支援が受けられなかった」といった不満につながることがあります。
契約の内容によっては、専任(専属的)に委任を行う契約内容となっているケースもあります。もちろんメリットデメリットはありますが、専任(専属)条項の有無とそのメリットデメリットの説明を受けた上で、判断されることをおすすめいたします。
報酬の金額や支払い方法、タイミングをしっかり確認しましょう。
成功報酬の対象となる対価の定義や固定報酬、着手金の有無、報酬の計算方法などが明示されていることが望ましいです。特に、追加費用の発生条件やキャンセル時の取り扱いも把握しておくことで、予期せぬ費用トラブルを避けられます。
契約の有効期間が明示されているか、また途中解約が可能かどうかも重要なポイントです。解約時のペナルティや通知期間についても確認し、万が一のときに柔軟に対応できるか把握しておきましょう。
M&Aでは、事業内容や財務情報などの機密情報を扱うため、アドバイザーの守秘義務の範囲や情報管理の方法が契約書に記載されているか確認が必要です。情報漏えいリスクを抑え、安全に情報共有できる体制が求められます。
「基本合意前」=初期交渉段階での活用が最も効果的です。基本合意は、売手と買手が条件や意向をすり合わせ、今後の取引の土台を固める重要なプロセスです。この段階でセカンドオピニオンを取り入れることで、条件の妥当性や将来リスクを第三者の視点で検証でき、必要に応じて交渉の方向性を調整する余地があります。
もちろん、交渉が進んでからでも活用は可能ですが、早いタイミングで動くほど、選択肢は広がり、納得度の高い合意形成につながります。もしセカンドオピニオンを活用する場合は、アドバイザリー契約や秘密保持契約に基づいた情報管理に注意し、開示範囲を適切に設定することが不可欠です。
提示された条件や価格が妥当かを第三者目線で確認できる
将来の運営方針や人材への影響など、数値では見えない課題について助言が得られる
交渉の軌道修正が必要かを冷静に判断できる
譲渡後に起こり得るトラブルを未然に防ぐことも重要なポイントです。セカンドオピニオンは、過去の事例や業界の動向を踏まえ、トラブルのリスクを洗い出し、具体的な対応策をアドバイスします。
セカンドオピニオンは単なる「確認作業」ではなく、M&Aを成功に導くための重要な工程です。迷いや不安がある際には、ぜひ積極的に第三者の視点を取り入れてください。
介護事業のM&Aは、一般企業のM&Aとは異なる特有の視点や実務知識が求められます。
たとえば、介護報酬改定の変遷を含めたトレンドや事業特性、地域特性、行政手続きなど、業界特有のルールや慣習を正しく理解していなければ、誤った助言につながる可能性もあります。M&A仲介会社が行政との調整を十分に支援しなかったために、売手・買手の双方が後追いで行政対応を迫られるケースや、重要な論点で食い違いが終盤で明らかになり、それまでの時間が無駄になってしまったという事例もあります。専門家を選ぶ際は「業界に特化しているか」「この業界のM&Aでどれだけの実績があるか」をしっかり確認することが大切です。
実績の有無だけでなく、「どのような介護事業を、どのようにサポートしてきたのか」まで具体的に聞いてみましょう。地域密着型の小規模施設と大手法人との譲渡事例、家族経営からの承継事例など、自施設と似た立場での成功事例があれば、信頼性は高まります。また、1法人1名のみで担当をするのか、複数のチームやユニットで支援をしてくれるのかも確認しましょう。
M&Aでは、アドバイザーが「売手または買手の都合に偏った対応」と感じられてしまうケースもお聞きします。特に、メリットばかりを強調し、不都合な点やリスクについての説明が不十分な場合や理由もなく判断を急かされる場合は、注意が必要です。
もし説明に偏りがあると感じたり、判断に迷いが生じたりした場合は、「セカンドオピニオン」の活用も有効です。異なる立場・視点から客観的な意見を得ることで、自身の状況を冷静に見直すことができ、より納得感のある意思決定につながります。
セカンドオピニオンを求める場面では、以下のような観点で具体的な質問をしてみることが有効です。
M&Aにおけるスケジュールや進め方は、決まった形がほぼありません。そのため、仲介会社は行政などに匿名で確認しながら、顧客の意向に沿ったスケジュールを策定します。もし、そのスケジュールに違和感を覚えたり、質問しても納得できる回答が得られない場合は、第三者の意見を求めることを検討しましょう。
M&Aにおける条件(譲渡価格、クロージングまでの期間、従業員の処遇など)は、交渉によって異なることがあります。そのため、提示されている条件が業界水準と比べて妥当かどうか、第三者の視点から確認することが重要です。
譲渡価格が高すぎる・低すぎると、のちに後悔やトラブルの原因になることもあります。セカンドオピニオンでは、財務状況や業績見通し、資産・負債の状況などをもとに、価格の妥当性を確認してもらいましょう。
M&A後の従業員の雇用継続や、施設の運営体制は、利用者様・職員にとって非常に大きな関心事です。表面的な説明だけでなく、具体的な方針や計画を確認することで、安心材料になります。
現在の条件や交渉の進め方には、気づかない落とし穴が潜んでいる場合もあります。将来的なトラブルや後悔を防ぐためにも、第三者にリスクの洗い出しを依頼することは非常に有効です。
セカンドオピニオンの必要性は感じつつも、「こんなこと聞いてもいいのかな?」「今さら聞くのは恥ずかしい」と感じてしまう方もいらっしゃいます。
実際に多く寄せられるご質問をもとに、Q&A形式で不安を解消していきます。
基本合意をされる前でしたら、現状の交渉状況や契約の進行度合いにかかわらず、「提案されている譲渡価格が妥当か?」「この買い手で本当にいいのか?」「進め方に違和感がある」といった不安や疑問も遠慮なくご相談ください。必要に応じて資料の確認や、買い手候補の評価なども行います。(秘密保持契約を締結のうえで対応可能)。
※M&A支援機関登録制度に登録していない仲介会社が仲介に入っている場合はセカンドオピニオンの対応ができない場合があります。あらかじめご了承ください。
M&Aでは、専門用語が多く、読み解くのが難しいものです。セカンドオピニオンでは、経験豊富なM&Aアドバイザーが「リスクになりやすい論点」や「トラブルが起きやすいケース」などを具体的に解説し、疑問にもお答えします。
セカンドオピニオンはあくまで「売手側の立場を守るための情報収集の一環」です。医師が別の専門医に意見を求めるのと同様、ごく自然なこととして対応されるべきです。ただし契約内容(特に独占的な媒介契約など)によっては特別な規定がある場合もあるため、契約書の内容はご確認ください。万が一、契約に違反する特別条項がある場合は、その範囲内での対応となります。
無料でセカンドオピニオンを提供しています。
不動産や医療現場でも「一人の意見だけで即決しない」ことが当然視されるように、M&Aでもセカンドオピニオンは広く行われています。重要なのは、納得のいく判断を下すこと。そのために複数の意見を比較するのは、ご自身の経営責任を果たす正当なプロセスと言えます。一方で、複数の専門家に相談することで、専門家の意見が分かれることにより、意思決定に時間がかかる、かえって迷いが生じる可能性があります。M&Aはタイミングも非常に重要であるため、複数の専門家に相談をする際は、専門家においても意見が異なる前提で相談をし、自分の判断軸やスケジュールを明確にしておくことが大事です。
基本合意は、ある一定の方向性を買手企業と合意をしており、途中で条件を変えることはリスクや労力がかかるだけではなく、信頼関係に影響を及ぼす可能性があります。基本合意後や譲渡後に“もっと早く相談していればよかった”と後悔されるケースも少なくありません。
迷いや疑問を感じたら、「まだ早すぎるかも」と思う段階でも、まずは専門家に相談してみることをおすすめします。「話を聞いてみただけで安心できた」「相談したことで本質的問題に気づけた」という方も多くいらっしゃいます。
M&Aは、単なる事業の売買ではなく、経営者ご自身のこれまでの歩みと、従業員や利用者の未来に関わる大きな決断です。
だからこそ、「このまま進めて本当に後悔しないか」と一度立ち止まって考えることが、結果としてご自身を守ることにもつながります。
セカンドオピニオンは、「疑う」ことではなく、「納得して決断するための確認作業」です。医療の現場と同じように、M&Aにも別の視点からの冷静な助言が、将来の安心につながります。
少しでも不安や疑問を感じているなら、ひとりで抱え込まず、専門家に相談することをおすすめします。納得のいく選択のために、セカンドオピニオンという選択肢を、ぜひご活用ください。
