コロナ禍で一気に普及したオンライン診療ですが、医師の働き方改革や患者ニーズの多様化により、オンライン診療を導入する医療機関は徐々に増加しています。オンライン診療は利便性の向上にとどまらず、診療の質や安全性を確保しつつ、地域医療を支える新たな診療形態として位置付けられつつあります。
本コラムでは、オンライン診療の現状や課題、国の取り組み、そして今後の展望について整理し、クリニック経営への影響を考察します。
日本におけるオンライン診療は、2018年に「オンライン診療の適切な実施に関する指針」が策定され、診療報酬において「オンライン診療料」が新設され、制度として整備が進んできました。
その後、2020年の新型コロナウイルス感染拡大を契機に一気に注目を集め、多くのクリニックが導入に踏み切った背景があります。感染拡大防止の観点から、厚生労働省は初診からのオンライン診療を認め、その後も制度整備を進めています。
厚生労働省への届出医療機関数は年々増加しており、制度上も「補完的な診療手段」として定着しつつあります。しかし日常的に活用されている施設はまだ一部に限られ、普及が進んでいるとは言い難い状況です。
令和6年度の診療報酬改定では、ポスト2025を見据え、医療DXによる医療情報の有効活用や遠隔医療の推進を目的に、オンライン診療・ICT活用医療に関する新たな評価や見直しが行われました。具体的には、以下のような施策が中心です。
参考:厚生労働省|オンライン診療等の診療報酬上の評価見直しについて
海外に目を向けると、アメリカや中国ではオンライン診療が幅広く普及しており、初診からの診療や処方が一般的に行われています。特にアメリカでは「遠隔医療」が医療アクセスの格差是正にも貢献し、巨大なプラットフォーム企業が次々と参入しています。これに比べると日本は法規制や診療報酬制度が壁となり、普及が限定的な段階にとどまっています。
都市部では、共働き世帯や若年層を中心にオンライン診療へのニーズが高まっています。一方、地方や中小規模の診療所では、システム導入やスタッフ教育の負担から普及が遅れているのが実情です。ただし、交通手段が乏しい過疎地域ではむしろオンライン診療が有効な手段となる可能性もあり、今後の政策次第で普及が進む余地は大きいといえます。
オンライン診療は地域医療格差を埋めるツールとして期待される一方で、地域特性に応じた活用モデルの確立が求められています。
厚生労働省は、オンライン診療の普及と適正な運用を促進するため指針を策定し、以下の原則を明示しています。
厚生労働省は、医療機関が安全にオンライン診療を行えるよう、基本方針や具体的な運用基準をまとめた指針を策定しています。指針には以下のような事項が含まれます。
これにより、医療の安全性や質を担保しながらオンライン診療を拡大する土台が整えられています。
オンライン診療を提供する医療機関は厚生労働省に届出を行う必要があります。届出制度により、行政は全国の実施状況を把握でき、必要に応じた指導・支援や政策改善が可能になります。
厚生労働省は、オンライン診療に必要なシステムやツールの基準策定、医療従事者向けの教育・研修資料の提供を通じて、医療機関の導入支援を行っています。これにより、導入時の技術的課題や運用上の混乱を最小化し、全国的な普及を促進しています。
出典:厚生労働省|オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針(令和5年6月厚生労働省)
オンライン診療の適切な実施に関する指針(平成30年3月)(令和5年3月一部改訂)
厚生労働省が令和5年6月に策定した「オンライン診療その他の遠隔医療の推進に向けた基本方針」では、オンライン診療に期待される役割・目的として以下の点が挙げられています。
遠隔診療により、通院が困難な患者でも診療を受けやすくなります。慢性疾患や難病患者など、長期にわたる定期的な診療が必要なケースでは、対面診療の一部をオンライン診療に代替することで、患者の通院負担を軽減するとともに、服薬管理や継続治療の実現に寄与します。
在宅患者の診療において、医師が患者宅まで移動する時間や負担を減らすことが可能です。
専門性の高い医師へのアクセスが難しい地域や救急医療の現場では、遠隔地の専門医から助言を受けることが可能となり、限られた医療資源で効率的に医療提供が行えます。また、災害時には医療需要が局所的に高まる中、遠隔で専門的な支援を行うことも期待されます。
自宅など患者の慣れた環境で診療を受けることで、通院時の心理的負担を軽減し、医師とより率直なコミュニケーションが可能となります。医療機関での緊張や、知人との偶然の出会いを避けたい患者への対応にも有効です。
新型コロナウイルス感染症の流行時に見られたように、オンライン診療を活用することで医療従事者・患者双方の感染リスクを低減できます。自宅療養中の患者に対しても安全に診療を提供する手段として活用されています。
オンライン診療では、通信環境の安定性やアプリの操作性が大きな課題となっています。患者が高齢の場合、アプリのインストールや操作に苦労することが少なくありません。医療機関側も、カメラ・マイク・通信設備の整備が求められます。解決策としては、操作が簡単なプラットフォームの選定や、スタッフによる患者向けの事前サポートが不可欠です。
オンライン診療では、対面診療に比べて患者の表情や仕草を把握しにくく、医師と患者の信頼関係構築が難しいとされています。とくに初診の場合、「画面越しで本当に大丈夫か」という不安が生じやすいため、適切な説明や診療ルールの明確化が重要になります。
診療データや個人情報がオンラインでやり取りされるため、セキュリティ対策は必須です。情報漏洩が起こればクリニックの信用失墜につながるため、厚労省の指針を満たした安全なシステムを選ぶ必要があります。
令和6年度の診療報酬改定を契機に、オンライン診療は単なる一時的な対応策から、医療の質やアクセス向上を支える重要な手段へと進化しています。これに伴い、今後の展望として以下のポイントが挙げられます。
日本医師会は、日本郵便と連携し、オンライン診療の普及や地域医療の支援を強化する方向で検討しています。具体的には、郵便局のネットワークを活用し、患者への情報提供や医療機器の配送、さらにはオンライン診療のサポート体制の構築が期待されています。
この連携により、特に地方や高齢者の多い地域において、オンライン診療の導入が進み、医療アクセスの向上が図られると見込まれています。
AIやIoT技術の進展により、オンライン診療はより高度な診断支援や患者モニタリングが可能となり、診療の質が向上します。これにより、遠隔地でも専門的な医療サービスの提供が現実のものとなりつつあります。
オンライン診療の普及には、医療機関のICT環境の整備やスタッフの教育、患者への情報提供が不可欠です。これらを総合的に支援するシステムの構築が今後ますます進められるでしょう。
オンライン診療の普及には、医師と患者双方の理解と協力が必要です。そのため、利用促進のための教育やサポート体制の強化が求められています。
オンライン診療は、地域医療の質向上や医療資源の効率的な活用に寄与する可能性があります。そのため、地域の医療機関や行政、企業などのステークホルダー間での連携が重要となります。
オンライン診療は、患者の利便性向上や地域医療のアクセス改善に大きく寄与する一方で、技術的・制度的な課題も抱えています。令和6年度の診療報酬改定や国の施策により、オンライン診療の導入環境は整いつつありますが、医療現場で求められるのはオンライン診療だけではありません。電子カルテや遠隔モニタリングなど、医療DXの波はクリニックのさまざまな業務に影響を及ぼしています。
今後は、オンライン診療を含む医療DX全体に柔軟に対応できる体制を整えることが、経営の安定や医療サービスの質を維持するためにますます重要となるのではないでしょうか。
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マネージャー
H.FUJIMOTO
