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訪問介護のM&A・事業承継が増加中|売却メリット・注意点・成功のポイントを解説

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訪問介護で問診と検温をしているようす

はじめに

訪問介護を経営されている経営様へ——こんなお悩みございませんか?

  • ご自身の引退を考えられているが、後継者がいない
  • 体調上の問題で経営継続が不安だが引き継げる人がいない
  • 事業が好調のうちに、早期リタイアしたい
  • 従業員のために待遇・雇用を安定させたい

在宅介護の現場でも、これらの課題はM&A(事業譲渡・株式売買・業務提携など)により解決できる場合が多くあります。

本コラムでは、訪問介護ならではの留意点を押さえつつ、最新の市場動向とM&Aのメリット・注意点を分かりやすく整理します。

訪問介護業界の現状

◆市場規模と構造 

介護市場は、公的な介護給付費(介護保険からの支出)が年々増加しており、介護サービス全体の支出は数兆円規模で推移しています。公的給付に加えて、民間の自費サービスも拡大しており、市場としての厚みは年々増しています。

一方で、介護事業者は全国に多数存在し、小規模事業者が大半を占める構造は依然として変わっていません。介護保険制度のもとでは参入障壁が比較的低いため、異業種からの新規参入や個人事業からの立ち上げも相次ぎ、全国的に事業者が乱立する状況となっています。

とりわけ、訪問介護、通所介護(デイサービス)、短期入所介護(ショートステイ)といった在宅系サービスでは小規模事業者の割合が高く、営業力・資金力に限界があることから、競争激化の中で経営難に直面する事業者も少なくありません。

訪問介護とは?M&Aの前に知りたい基礎知識

◆人材問題・事業環境

訪問介護は特に有資格者の確保が難しい領域です。事業所側の実態調査でも訪問介護職員は「不足感」が強く、離職率・採用動向ともに現場の課題は続いています。人材確保の難しさ、大手との競争、地域差による運営コスト差などが、中小事業者の経営を圧迫しています。

◆訪問介護業界のM&Aの動向

新規参入者が相次ぎ、次第に競争が激しくなっている介護業界ですが、今後の高齢化による高齢者の増加を考えると、潜在的な市場は非常に大きく、既存事業者による新規開設や合併、異業種からの新規参入が活発です。

一方で、慢性的な介護人材(資格)不足、競争激化による施設の利用者減、介護報酬制度等の将来的な不安、業績が堅調なうちに他社(特に大手)への売却を決断する経営者様も増えてきています。現在、ある程度の売上規模の訪問介護事業については、比較的買い手が多く存在する状況にあり、売却を考えている経営者にとってはよい売り時になっているといえます。

訪問介護業界M&Aのメリット(売り手・買い手別)

◆売り手のメリット

・従業員の雇用維持・待遇向上が期待できる

介護業界では、慢性的な人材不足や経営の不安定さから、職員のモチベーションが下がり、離職につながるケースも少なくありません。M&Aを通じて大手企業のグループに加わることで、経営の安定化や福利厚生の充実、教育体制の整備など、従業員が安心して働ける環境を整えることができます。結果的に、離職防止や定着率向上にもつながります。

・後継者問題の解消

訪問介護事業の経営者自身が高齢化しており、「身内に継ぐ意思がない」「従業員に引き継ぐのは難しい」「身内に継がせたくない」と悩まれているケースが増えています。M&Aによる譲渡は、従業員や利用者に迷惑をかけることなく事業を存続させる現実的な選択肢です。特に、地域密着型の事業では「利用者や職員の生活を守るための承継」として評価される傾向にあります。

・大手グループ傘下で経営が安定する

買収側の多くは、資金力や運営ノウハウを持つ中堅~大手企業です。傘下入りにより、経営の独立性はある程度失われますが、資金繰りの安定や設備投資の実現、人事制度の整備など、組織としての基盤を強化できます。

・創業者利益(キャピタルゲイン)の獲得

M&Aによる事業売却は、オーナーにとって保有株式を現金化できる数少ない機会です。企業価値が一定水準を保っていれば、キャピタルゲイン(株式売却益)を得ることが可能です。これは単なる経済的利益だけでなく、「長年の経営努力への報酬」や「引退後の生活資金確保」としての意義もあります。

・借入金の個人保証・担保責任からの解放

介護事業では、車両・設備・人件費などの運転資金を金融機関から借り入れているケースが多く、経営者が個人保証や担保提供をしていることも一般的です。M&Aによって事業を譲渡すれば、新オーナーが借入を引き継ぐ形となり、経営者個人の保証・担保責任が解消される場合があります。これにより、経営プレッシャーからの心理的・金銭的な解放を得られる点も大きなメリットです。


◆買い手のメリット

・有資格者を一括で確保できる

介護業界全体が深刻な人材不足に直面しており、特に介護福祉士などの有資格者採用は容易ではありません。M&Aで既存の訪問介護事業所を引き継ぐことで、経験豊富なスタッフや利用者との関係をそのまま承継できるため、採用リスクを大幅に軽減できます。これは「時間とコストをかけずに人材を確保する」手段として非常に有効です。

・スピーディーな事業拡大が可能

新規拠点を立ち上げるには、立地選定や行政手続き、人材採用など、多大な時間とコストがかかります。一方でM&Aは、既に運営実績・利用者・スタッフを持つ拠点を引き継ぐことができるため、短期間で事業を拡大できます。特に成長戦略を描く中堅・大手事業者にとっては、「お金で時間を買う」効率的な拡大手段として活用されています。

訪問介護業界のM&Aメリットとデメリットをもっと詳しく

訪問介護業界のM&Aでおさえておくべきポイント

一般の民間事業と異なり、介護保険料からの収入が多くを占める介護保険業界においては、M&A時に独自の押さえるべきポイントがあります。そのポイントを4点ピックアップしました。

●行政手続き・届け出の確認

介護事業は指定・届け出が前提です。法人形態や事業譲渡のスキームによっては、行政への再届出や許認可の取り扱いが変わり、手続きが煩雑になることがあります。必ず事前に所轄の市区町村と折衝を行う必要があります。

●指定基準(人員配置・運営基準)の適合確認

介護保険事業を行うには、指摘基準(人員、施設、運営等)の条件を満たす必要があります。指定基準未達のまま事業を行った場合は、介護報酬の不正請求となり、報酬返還や事業者指定の取り消しなどの処分がなされます。

M&A後の事業展開において人員再配置や設備投資を行う際は、該当する市区町村の指定基準に合致しているかの確認が必要不可欠です。特に多数の地域で事業展開を行う場合は、地域によって指定基準が異なる場合があるので注意を要します。

●最適なスキームの検討

スキームによって税務、労務、行政手続きが変わります。介護業は一般企業より行政対応が重要となるため、単純に“企業M&Aの型”を当てはめると非効率・不利になるケースがあります。

●人材(有資格者)の定着施策

M&A後に有資格者が離職してしまうと、買収効果が大きく損なわれます。待遇、異動・役割設計、研修や組織文化の整備など“人が辞めない仕組み”が不可欠です。

●売却理由を明確にする

売却の理由を明確にせずに、譲渡のお話を進めていってしまうと、譲受候補企業から条件を提示されても、「どれがいいのか」という基準がなく、交渉や検討期間が長引き、難航してしまうこともあります。お問い合わせを頂く際には、完全に明確になっている必要はございませんが、譲受企業様にアドバイザーが話を持っていく際には、ある程度固まっている必要があります。

訪問介護M&Aを行う際に押さえておくべきポイントについて

さいごに

訪問介護をはじめとする在宅介護事業は、地域に密着しながら高齢者の生活を支える、社会的意義の高い分野です。しかし現実には、人材不足や報酬制度の限界、後継者問題など、単独では乗り越えにくい課題も少なくありません。

その中で、M&Aは「撤退の手段」ではなく「事業を未来につなぐ選択肢」として注目されています。信頼できる買い手企業とつながることで、利用者へのサービス提供を継続しつつ、従業員の雇用や待遇を守り、経営者自身の将来設計にも安心をもたらすことができます。今後ますます介護ニーズが高まる中で、事業の持続可能性を見据えた戦略的なM&Aの検討は、経営者にとって重要な経営判断のひとつといえるでしょう。

もし、「今後の経営をどう続けていくか悩んでいる」「事業の引き継ぎ先を探している」といったお悩みをお持ちでしたら、ぜひ一度弊社までへご相談ください。

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コラム監修者

ディレクター
Y.SUGIYAMA

大阪府東大阪市出身。関西の大学を卒業後、ホームページの訪問販売会社に3年間従事。その後CBグループに入社し、医療・介護福祉事業を中心としたM&Aに携わっている。これまでに手がけた案件は、住宅型有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護、訪問看護、など多岐にわたり、事業承継の支援に幅広く取り組んでいる。