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訪問介護事業所の倒産、M&Aで利用者・従業員の承継を検討する

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はじめに

訪問介護事業所は小規模で運営されているケースが多く、介護報酬改定や地域ニーズの変化などが経営に大きな影響を与えます。東京商工リサーチによると、2024年の訪問介護事業の倒産件数は81件に達し、過去最多を更新しました。

本コラムではなぜ閉鎖ではなく第三者承継なのか、第三者承継の具体的なメリットや手順、ポイントに焦点を当てて解説いたします。

訪問介護の倒産が急増中

訪問介護の倒産件数、2024年に過去最多

東京商工リサーチの2024年「老人福祉・介護事業」の倒産調査では、介護事業者の倒産件数が過去最多の172件を更新し、前年比で40.9%増となりました。

倒産件数が最も多かったのが訪問介護の86件で、過去最多を記録しました。倒産の原因は様々ですが、要因の一つとしてヘルパーの高齢化による人員不足や基本報酬のマイナス改定があげられています。倒産した事業者の内訳をみると小規模の事業者が大半ですが、中規模事業者の倒産も増えてきています。

出典:株式会社東京商工リサーチ|2024年「老人福祉・介護事業」の倒産調査

訪問介護運営における課題点

1. 人手不足

訪問介護業界では介護職員の慢性的な不足が深刻です。人手不足が続くと、現場の職員に過度な負担がかかり、業務の質が低下するだけでなく、スタッフの離職率も高くなりがちです。これが経営に直接的な影響を与え、倒産に繋がることがあります。

処遇改善加算で介護職員の賃金も増加する見込みとなっていますが、それだけでは人員不足の解消は難しいのが現状です。2025年は団塊の世代が75歳以上になり、ますます生産人口の増加が必要となることが明らかで、人員不足からの脱却は困難を極めています。

2. 介護報酬

後ほど触れますが、2024年度の介護報酬改定では、訪問介護の基本報酬が2~12単位(約2%)引き下げられ、事業所の収益が減少しました。特に地方の小規模事業所は収支が厳しく、経営実態調査では訪問介護事業所の4割弱が赤字という結果もでています。報酬が低いために従業員の待遇が改善されず、職員の定着率にも影響を与えてしまいます。

3.コスト増加と資金繰りの悪化

近年の物価高や人件費の高騰により、運営コストが増加し、事業所の経営を圧迫しています。さらに、コロナ禍での「ゼロゼロ融資」の返済期が到来し、資金繰りが悪化している事業所も増加しています。

4. 競争の激化

介護業界は需要が高い一方で、多くの事業者が新規参入しており、競争が激化しています。特に地域によっては過剰供給状態となり、サービスの価格競争が生じることで、結果として価格を下げざるを得ず、収益性が悪化することがあります。

5. 利用者の多様化と対応の難しさ

訪問介護の利用者層は高齢化が進む中で多様化しています。特に認知症や重度の障害を持つ利用者への対応が求められ、専門的な知識や技術が必要です。しかし、介護スタッフのスキルや知識が十分でない場合、サービスの質が低下し、利用者からのクレームやトラブルが発生することがあります。

令和6年度介護報酬改定ではマイナス改定

令和6年度の介護報酬改定では全体が1.59%のプラスとなり、ほかの介護サービスも全体的に引き上げとなる中で、訪問介護、定期巡回サービス、夜間対応型訪問介護では基本報酬が引き下げられました。

<令和6年度介護報酬改定 訪問介護の基本報酬>

身体介護<改定前> <改定後>増減
・20分未満167単位163単位 ▲2.40%
・20分以上30分未満 250単位244単位▲2.40%
・30分以上1時間未満396単位387単位▲2.27%
・1時間以上1時間30分未満579単位567単位▲2.07%
・以降30分を増すごとに84単位82単位▲2.38%

 

生活援助<改定前> <改定後>増減
20分以上45分未満183単位179単位▲2.19%
45分以上225単位220単位 ▲2.22%
身体介護に引き続き生活援助を行う場合67単位65単位▲2.99%

 

 

 通院等乗降介助 

<改定前> <改定後>増減
99単位97単位▲2.02%

新報酬ではおおむね2%強の引き下げとなっています。引き下げの理由として、厚生労働省は介護事業経営実態調査で比較的高い収支差率だったこと、一本化される介護職員等処遇改善加算では、高い加算率に設定していることを強調し、全体でプラスになるような経営努力が求められました。

しかし、訪問介護業界ではもともとホームヘルパーの人手不足が深刻で、2024年の訪問介護の倒産件数は過去最高を更新しています。近年の物価高や同業者との競争の激化により経営が厳しい事業所が多いなかでの減算は、介護業界全体に大きな影響を与えています。新設・拡充された加算を取得するにしても、余力のない事業所は今後さらに経営に行き詰まるのではないでしょうか。

出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について

訪問介護事業所が倒産する前にM&Aという選択肢

会社の倒産という最悪の事態を想定した場合、利用者様については従業員やケアマネジャーの協力のもと、全利用者様の受け入れ先を探します。従業員については生活に多大な影響を受けるため、事業者は誠意ある対応が求められます。

また、優先債権である従業員の未払い給与、退職金のための資金の用意や従業員の転職先斡旋など、事業者がとるべき対応は多岐に渡り、容易ではありません。訪問介護事業所を続けるか、閉鎖するか、会社倒産の危機に悩んでいる方は、第三者への承継(M&A)も視野に入れましょう。

従業員の雇用を継続できることや、利用者様へのサービス提供を継続できるといったメリットがあります。

第三者承継(M&A)のメリット・デメリット

第三者承継にはメリットとデメリットがあります。

○メリット

  • 代表者が継続して働くか、完全に辞めるかを選ぶことができる
  • 譲渡後の利用者様や従業員の契約についてのトラブルを、廃業よりも減らすことができる
  • 従業員・利用者様を引継ぐことができる
  • 承継の時期が明確なので、手続きや関係者への最後のご挨拶に時間を割くことができる
  • 譲渡対価が支払われる
  • 金融機関からの融資など、代表者の個人保証の解除ができる

×デメリット

  • 譲渡先を自分で見つけることが困難
  • 必ずしも希望条件にあった譲渡先を見つけられるとは限らない
  • M&A仲介会社に依頼する場合は、仲介手数料がかかる
  • 譲受先の経営方針に従うことになるため、社内システムや企業文化の統合に時間がかかる
  • 代表やオーナーが変わることで、取引先から取引の停止や条件の変更を求められることがある

第三者承継の流れ(M&A仲介会社に依頼した場合)

第三者承継はご相談から承継完了まで、概ね4~8カ月ほどを要します。1年以上の長期になるケースも少なくありません。

承継までの流れを簡単にご説明いたします。

  1. 現状のヒアリング
    まずは経営者様の想いや将来的なビジョン、現在の経営状況、承継の目的などを詳しくヒアリングします。譲渡の背景やご希望の条件(譲渡時期、譲受先の希望条件など)を把握することで、その後の方針やマッチング戦略が明確になります。
  2. 財務資料等の情報開示
    過去数年分の決算書、税務申告書、顧客リスト、契約書など、会社の実態を把握するための資料をご用意いただきます。これにより、企業の財務状況や事業の特性、リスクの有無などを分析します。
  3. 会社・事業の価値診断実施
    開示された情報をもとに、事業価値や株式価値の算出(バリュエーション)を行います。業界動向や市場環境も加味しながら、妥当な譲渡価格の目安を提示します。この評価は譲受希望先との交渉材料にもなります。
  4. 譲受候補先への打診
    秘密保持契約(NDA)を締結した上で、譲渡企業の概要情報(ノンネームシート)をもとに、買収の可能性がある企業に対して打診を行います。匿名の段階で興味を持った候補先とは、具体的な情報のやり取りを進めていきます。
  5. 譲受候補先との面談
    候補先と実際に面談(TOP面談)を行い、お互いの経営方針や企業文化、譲渡条件などをすり合わせます。単に価格面だけでなく、従業員の処遇や事業の継続性など、信頼関係の構築が非常に重要です。
  6. 譲受候補先の買収監査(デューデリジェンス)
    譲受側が、法務・税務・財務・労務などの観点から詳細な調査を行います。これにより、将来的なリスクの有無や、買収後の統合に向けた課題が明らかになります。監査結果を踏まえて、最終的な条件交渉が行われます。
  7. 最終合意契約締結
    価格や譲渡条件など、全ての交渉事項に合意が得られたら、最終契約(譲渡契約書)を締結します。ここでは、譲渡対象の範囲や代金の支払い方法、譲渡後の役員・従業員の対応など、重要事項が明文化されます。
  8. 譲渡実行
    契約に基づいて譲渡が実行され、株式や事業が正式に譲受側へ移転されます。同時に、対価の支払いも行われ、M&Aは完了となります。その後、必要に応じて経営移行期間を設けることもあります。

~ スムーズな承継のために ~

M&A仲介会社の選定を行う場合は、自分が心から信頼できる仲介会社を選ぶことが重要です。

近年、M&Aをめぐるトラブルが増加傾向にあります。契約内容の不備や情報開示の不十分さ、不適切な価格設定などにより、売り手・買い手双方が不利益を被るケースも少なくありません。こうしたトラブルを未然に防ぐためにも、仲介会社の実績や専門性、対応の丁寧さなどをしっかりと見極めることが不可欠です。仲介会社選定後は、希望条件等を相談し細かく打合せを行うことで、最良の第三者承継(M&A)の実現が近づきます。

さいごに まずは客観的な事業価値を知ることから

前述のとおり介護業界の倒産件数が年々増加する中、令和6年度の介護報酬改定で訪問介護はマイナス改定となりました。訪問介護事業者の経営状態は厳しく、利用者様や従業員、地域のためにも事業承継を考えなくてはならない状況になってきています。

もし譲渡を検討される場合は、まずは自身の介護法人の価値を正しく把握することが大切です。また他にも介護事業を行っている場合は、訪問介護事業だけを切り離して譲渡することも可能ですので、ぜひ一度当社までご相談いただければと思います。

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作成日:2024年2月13日

コラム監修者

ディレクター
R.OKURA

  • 経歴
    大学卒業後、商社で購買物流や事業開発、M&A業務に携わり、宿泊事業のコンサルを経てCBパートナーズに入社。地域密着型デイサービス、訪問介護、居宅介護支援事業所、就労移行支援事業所などの介護分野から、社会福祉法人までをご支援。株式譲渡・事業譲渡・持分譲渡など多様なM&Aを手がける。