訪問介護は、高齢者や障がいのある方の自宅を訪問し、日常生活を支援する介護保険サービスです。団塊の世代が後期高齢者となる2025年を目前に、訪問介護の需要はさらに高まっています。
一方で、人手不足や小規模事業者の経営難から、業界ではM&A(事業譲渡・買収)による再編も進んでいます。
本コラムでは、訪問介護の基礎知識からサービス内容、利用の流れ、そして最新の業界動向までをわかりやすく解説します。
2025年現在、事業者の経営環境は一段と厳しさを増し、人手不足や報酬改定の影響が顕著に現れています。
2024年度の介護報酬改定では、生活援助中心型をはじめ一部区分で基本報酬が引き下げられました。
その一方で、特定事業所加算の見直しや処遇改善加算の一本化・強化、そして業務継続計画(BCP)未策定事業所への減算創設など、“報酬を取る/リスクを回避する”ための構造も一段と複雑化しています。このため、単に“サービスを提供すればよい”という時代は終わり、訪問介護事業者にとっては「単価・加算・体制・人材」の4つをいかに組み合わせて収益構造を強化するかが、今後の成否を左右する鍵となっています。
東京商工リサーチの調査によれば、2024年度の訪問介護事業者の倒産件数は過去最多を更新しました。要因としては、人手不足に加え、物価高騰や処遇改善加算への依存体質による収益悪化が挙げられます。特に小規模事業所では、採用難と報酬減の二重苦から、事業継続を断念するケースも増加しています。
訪問介護員(ホームヘルパー)の高齢化が進み、60歳以上が全体の3割超を占める地域もあります。若年層の新規参入は依然として低迷し、慢性的な担い手不足が続いています。
こうした中で2025年4月に、訪問系サービスでも特定技能外国人の受け入れが解禁となりました。これにより、訪問系サービスでも外国人ヘルパーが働ける道が開かれましたが、利用者宅への単独訪問は慎重な運用が求められており、現状では同行支援や法人内研修を通じて段階的に現場に入るケースが中心です。それでも、深刻な人手不足を補う新たな選択肢として注目が高まっています。
厚生労働省は「介護DX推進計画(工程表)」に基づき、2025年度末までに介護記録の電子化や請求業務のオンライン化を進めています。訪問スケジュール管理アプリや音声入力システムなど、ICTを活用した効率的な運営体制づくりが進展しています。
こうした制度改正や人材難の中で、経営の持続性を確保するために、事業譲渡や提携といったM&Aを検討する事業者も増えています。
訪問介護は訪問介護職員(ホームヘルパー)が利用者の自宅を訪問し、日常生活の様々な支援を行うサービスです。
訪問介護とは、介護保険サービスの一つで、ホームヘルパーが利用者の自宅を訪問し、日常生活を支援するサービスです。介護職員初任者研修を修了した職員が、利用者の身体介護や生活援助を行います。
身体介護は利用者の肌に直接触れる介護となります。
具体的には排泄介助、食事介助、入浴介助、衣類の脱着、通院・外出介助、自立支援のための見守り援助(利用者と一緒に手助けしながら行う支援、厚生労働省による「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」(老計第10号)において規定)などのサービスが該当します。
生活援助は日常の家事全般を指します。
具体的には掃除、洗濯、買い物、調理、薬の受取などのサービスが該当します。
訪問介護を利用する際は、下記のプロセスを経ることになります。
市区町村に要介護認定を申請
要介護・要支援度の通知を受け取る
ケアマネージャー(介護支援専門員)を選ぶ
ケアマネージャーがケアプランを作成
訪問介護事業者と契約し、サービス開始
それぞれの項目について、詳しく解説していきます。
介護保険サービスを利用するためには、居住する市区町村の窓口で要介護認定の申請を行う必要があります。申請後は自治体の担当者の聞き取り調査(認定調査)と主治医意見書を基に、コンピューターによる要介護度の判定が行われます(一次判定)。
次に二次判定として、一次判定の結果と主治医意見書に基づき、介護認定審査会が審査を行い、要介護度を判定します。
自治体は介護認定審査会の判定結果に基づき要介護認定を行い、申請から30日以内に結果を通知します。
なお、認定は要支援1・2から要介護1~5までの7段階及び非該当に分かれています。
介護保険の認定が下りた後、自治体の窓口(介護保険課)や地域包括支援センターで、居宅介護事業者リストや「ハートページ」(冊子)から、ケアマネージャーを探す必要があります。
ケアマネージャーとは介護保険制度上「介護支援専門員」と呼ばれており、介護サービスの利用計画書である「ケアプラン」作成など、自治体と介護事業者との調整を行い、利用者の介護サービスをマネジメントします。介護サービスを受ける上で、必要不可欠な存在です。
ケアプランとは居宅サービス計画書、介護サービス計画書とも呼ばれ、介護の目的・内容・方法・回数・時間などをまとめたものです。介護サービスはケアプランをもとに提供されます。
なお、被介護者の身体状況の変化があれば作り直すこともできます。ケアプランは民間事業者である居宅介護支援事業所に所属する、ケアマネージャーが作成します。ケアマネージャーは利用者の自宅を訪問した上で状態を把握して、必要な介護サービスなどをまとめケアプラン原案を作成します。
ただしケアマネージャーは提案する立場であり、決定権はありません。最終的には利用者本人及び家族が、サービス利用の決定権限を有します。
ケアプラン及び利用サービスが決まった後、ケアマネージャーはサービスの提供事業者や費用について説明を行います。事業者の決定権限もケアプランと同様、利用者や家族が有しています。そして最終的に介護サービス事業者との契約を行った後、ケアプランに沿った介護サービスが提供されます。
訪問介護サービスは、利用者やその家族が「安心して任せられるかどうか」を基準に選ぶケースがほとんどです。実際、こうした“選ばれる理由”には、事業所の運営力や職員体制など、経営にも関わるポイントが多く含まれています。ここでは、利用者が訪問介護サービスを選ぶときに重視している点を整理してみましょう。
日中のみの対応か、夜間や休日も対応しているかによって、安心感が大きく変わります。急な体調変化や介護者の都合に対応できる体制が整っているか、24時間連絡が取れる窓口があるかを確認しましょう。
介護福祉業界は慢性的な人手不足の状態にあります。実際のサービスを提供する介護福祉士も例外ではありません。介護福祉士等の所属が少ない事業者の場合、希望の時間帯に希望するサービス提供が受けられない可能性があります。
ただし非常勤職員を多く確保することで、柔軟なサービス提供を行っている事業者もあります。職員には常勤と非常勤があるため、一概に人数だけでサービスの内容を把握できないケースもあります。人的リソースの充実度は、サービス事業者を選ぶ際の重要なポイントとなります。
急用等の発生で、訪問日の変更やキャンセルを依頼せざるを得ないケースはどうしても発生します。その際に日程の再設定が柔軟にできるか、また追加費用が必要となるか等についても、事前に確認の必要があります。
持病のある方や医療的ケアが必要な方の場合、訪問介護と医療機関との連携は特に重要です。かかりつけ医や訪問看護ステーションと情報共有を行い、緊急時には迅速に対応できる体制が整っているかを確認しましょう。
近年の訪問介護業界では、小規模事業所を中心にM&A(事業譲渡・統合)の動きが加速しています。
その背景には、深刻化する人材不足と収益構造の厳しさがあります。2024年度の介護報酬改定では、基本報酬の引き下げや処遇改善加算の一本化が行われ、経営環境は一段とシビアになりました。このため、単独運営を続けるよりも、大手法人やグループへの参加を選ぶ事業所が増えています。
M&Aの動向としては、次のような傾向が見られます。
訪問介護の多くは職員10名以下の小規模事業所です。後継者不在や人材確保の難しさから、地域の中で複数拠点を持つ法人による統合・集約が進んでいます。買収側にとっては「利用者・職員が一定数維持されている安定拠点」を獲得する機会となっています。
訪問看護やデイサービスを運営する医療法人・社会福祉法人が、在宅支援体制の強化を目的に訪問介護を取り込むケースも増加しています。同一エリアでの連携によって、サービス提供効率を高める狙いがあります。
特定技能制度を活用した外国人介護職の採用が拡大しており、今後は「外国人材を雇用・教育できる体制を持つ法人」にM&A需要が集中すると見られます。労働力確保の観点からも、多様な人材活用を前提とした経営体制が評価される傾向です。
代表者の高齢化や家族経営の限界を背景に、後継者不在を解消するためのM&Aも増えています。売却側は職員と利用者の雇用・サービス継続を重視し、買収側は地域基盤のある事業所を引き継ぐことで、信頼を得やすいという双方の利点があります。
訪問介護のM&Aは、単なる撤退ではなく、地域の介護サービスを持続可能にするための“事業継続の手段”として注目されています。
今後は、報酬制度や人材確保の方向性を見据えながら、早期に承継・提携の選択肢を検討する動きが一層広がると見込まれます。
訪問介護業界では、需要の高まりと人材不足を背景に、M&A(事業譲渡・買収)が活発化しています。M&Aは事業の撤退ではなく、「サービスを次世代につなぐ経営戦略」として位置づけられる時代になりました。
今後も報酬制度や人材確保の動向を見据えながら、早めに事業の方向性を検討することが重要です。CBパートナーズでは、介護業界に精通した専門チームが、M&Aの戦略立案から成約までトータルでサポートしています。
大阪府東大阪市出身。関西の大学を卒業後、ホームページの訪問販売会社に3年間従事。その後CBグループに入社し、医療・介護福祉事業を中心としたM&Aに携わっている。これまでに手がけた案件は、住宅型有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護、訪問看護、など多岐にわたり、事業承継の支援に幅広く取り組んでいる。
