訪問介護事業のM&A(事業承継・譲渡)は、介護保険制度に基づく行政手続きや人員基準など、一般企業とは異なる注意点が多く存在します。また、近年は人材確保や事業継続のためにM&Aを検討する中小事業者が増えており、買い手・売り手双方にとって「適正な手続きと準備」が成功の鍵となります。
本コラムでは、訪問介護事業のM&Aを行う際に押さえておくべきポイントを、売却側・買収側それぞれの視点から整理して解説します。
訪問介護は介護保険法に基づく「指定事業」です。そのため、M&A後も介護報酬を受け続けるためには、事業指定の継続が欠かせません。
行政(都道府県・市町村)への事前相談を怠ると、「譲渡後に指定が失効する」「報酬請求ができない」などのリスクが生じるため、基本合意後すぐに協議を行うことが必須です。
こうした背景から訪問介護業界では近年、中小事業者の売却案件が増加しています。
買収側が重視するポイントは主に次の2点です。
M&Aでは、「過去3期分の決算書」が基本資料となります。この段階で財務内容が整理されていないと、信頼性を損ねるだけでなく、評価額が下がる原因にもなります。決算書だけでなく、サービス提供体制や人員配置、加算取得状況もあわせて整理しておくことが重要です。
事業承継、体調不良、業界環境の変化など、売却にはさまざまな背景があります。買収側は「なぜ売るのか」を重視しており、ここが不明確だと取引リスクを懸念されやすくなります。あらかじめ以下のように優先順位を明確化しておきましょう。
目的を整理することで、交渉の方向性が明確になり、買収側とのミスマッチを防げます。
訪問介護の最大の資産は「人材」です。人手確保を目的にM&Aを行う買収側も多く、「雇用継続」「処遇改善」を条件に交渉することで、双方にとってメリットがあります。
また、譲渡後に離職が相次ぐとサービス提供に支障をきたすため、
といったコミュニケーションが極めて重要です。
赤字が続いた後や、利用者数が減少してからでは、企業価値が大きく下がります。早めに専門家へ相談し、「今後3年間でどのように価値を高めるか」を戦略的に整えることがポイントです。
たとえば、
といった施策を実行することで、買収希望者から見た魅力度を高められます。
M&Aは価格だけでなく、「譲渡時期」や「支払方法」も交渉要素になります。
無理な価格設定を避け、「納得感のある条件で譲渡する」ことが成功への第一歩です。
訪問介護事業のM&Aでは、介護保険指定の継続可否が最重要事項です。事業譲渡の形を誤ると、指定が失効する恐れがあります。契約形態(株式譲渡/事業譲渡)による影響を把握し、行政との協議を怠らないようにしましょう。また、譲渡時には運営指導や加算状況の確認も必須です。
現場の人員体制やシフト管理、稼働率を精査することで、買収後の経営改善余地を把握できます。たとえば、常勤換算の不足や残業過多などの課題があれば、買収後の労務リスクにつながる可能性もあります。スタッフの資格構成や勤続年数もあわせて確認しましょう。
訪問介護の需要は地域によって偏りがあります。競合状況や報酬改定の影響を分析し、過大な売上計画を立てないことが重要です。特に、処遇改善加算や特定加算の取得状況が収益性に直結するため、譲渡事業の加算構成を必ず確認しましょう。
短期的な収益だけでなく、
など、中長期的なシナジー効果を見据えた判断が必要です。「どの水準まで投資できるか」を冷静に見極めましょう。
介護事業のM&Aは、行政との調整や加算継続、雇用契約の扱いなど、一般企業とは異なる要素が多数あります。そのため、介護事業に特化したM&Aアドバイザーへ早めに相談することが、結果的にコスト削減・スムーズな手続きにつながります。
業界を熟知した適切なアドバイスを受けた上での、M&Aをおすすめいたします。
大阪府東大阪市出身。関西の大学を卒業後、ホームページの訪問販売会社に3年間従事。その後CBグループに入社し、医療・介護福祉事業を中心としたM&Aに携わっている。これまでに手がけた案件は、住宅型有料老人ホーム、介護付き有料老人ホーム、グループホーム、デイサービス、訪問介護、訪問看護、など多岐にわたり、事業承継の支援に幅広く取り組んでいる。
