介護業界では慢性的な人手不足と高齢化が進む中で、いかにして優秀な人材を確保し、定着させていくかが経営者にとって重要な課題となっています。
そこで注目したいのが、人事制度の見直しと適正化です。本コラムでは、介護施設における人事制度の重要性と、効果的な制度の構築・運用方法について解説します。
【無料オンラインセミナーに申込む】
”賃上げ圧力時代”を乗り切る!今こそ知りたい人事制度
介護業界における慢性的な人材不足と離職率の高さは、もはや一事業者だけの問題ではありません。現場で働く職員の年齢構成は上昇し続け、若年層の確保も難しくなる中で、いま働いている職員にとっても、これから入職する職員にとっても、魅力ある職場づくりが喫緊の課題となっています。
そうしたなか、注目したいのが人事制度の見直しと活用です。
人事制度というと、単なる給与査定のための仕組みと捉えられがちですが、本来の目的はそれだけではありません。職員の成長を支援し、納得感のある処遇やキャリア形成を可能にする等、魅力ある職場づくりの基盤としての役割が求められているのです。
日々目の前の業務に追われることで、評価方法やキャリアパスが不透明になり、「自分の働きがどう評価されるのか」「将来どんな成長ができるのか」といった不安を抱える職員も少なくありません。
人事制度を通じてスキルの習得状況やチームへの貢献が可視化されると、職員は自分の現在地と目指すべき方向性を把握しやすくなります。今の努力が将来につながっているという実感は、職場への定着を促す大きな要素となります。
介護の現場では、「頑張っても誰にも評価されない」と感じる職員の声がしばしば聞かれます。こうした不満を解消するためには、日々の積み重ねや成果を正当に評価し、フィードバックする仕組みが必要です。
評価が昇給や役職登用と連動していれば、「自分の頑張りがきちんと認識されている」と実感でき、さらなる成長への意欲が高まります。モチベーションの維持が結果として、離職の抑制にもつながっていきます。
人事制度は、単に処遇を決定するための仕組みではなく、上司と部下の対話の場をつくる機会でもあります。面談やフィードバックを通じて、職員の強みや課題を共有し、今後の成長を一緒に考えることができます。
「見てもらえている」「期待されている」という感覚は、心理的な安心感につながり、離職理由として多い“人間関係の悩み”の改善にも寄与します。信頼関係が築かれた職場は、自然と定着率も上がるはずです。
すでに人事制度を導入している法人は多いと思いますが、制度としての「形」はあっても、現場の実態や時代の変化に対応しきれていないケースも少なくありません。ありがちな「うまく機能していない人事制度」の例をご紹介します。
導入当時は有効だった制度も、介護業界の変化や職員の価値観の多様化に対応できないまま放置されているケースがあります。例えば、業務内容が高度化・専門化しているのに評価項目が古いままで、現場の努力や成果が正しく反映されない状況が生まれています。制度が名ばかりのものになると、モチベーションの低下や優秀な人材の離職にもつながりかねません。
国が提供する雛形やテンプレートを参考にすることは決して悪いことではありません。ただ、そのまま使ってしまうと、現場の実情にそぐわないケースも見られます。
たとえば、施設ごとに業務の重点や職種ごとの役割分担は異なるにもかかわらず、画一的な評価基準を適用してしまうと、現場職員が「自分の頑張りが正当に評価されていない」と感じてしまう恐れがあります。
経営者の感覚や主観的な「ものさし」で評価が行われている場合、現場職員にとっては評価基準が不透明で、不信感や不満につながります。「なぜあの人が昇格したのか分からない」「あの人より給与が低いのは納得できない」といった声が上がることも少なくありません。人事制度が不透明な状態では、組織への信頼を得られません。
年数を重ねることで業務に慣れる面はありますが、それだけで賃金が上がり続ける制度は、経営面において持続可能な制度とは言えません。成果や役割、スキルに応じた処遇がなされないと、意欲がある若手職員のモチベーションを損ない離職する原因になります。また、売り上げが右肩上がりに伸びているわけではない状況で年功序列を続けると、人件費が膨らみ、経営を圧迫するリスクもあります。
職員一人ひとりの一次評価を行う直属の管理職が必ずしも評価者としての適切なスキルや知識を持っているとは限りません。特に管理職としての経験が浅い場合や、マネジメントの専門的な教育を受けていない場合、評価が正しく行われないケースが散見されます。
例えば、評価者が部下の業務状況や成長を十分に把握していないことや、個人的な感情や好き嫌いで判断してしまうことがあります。また、評価そのものの重要性や目的を理解していないため、形式的に評価を行い、フィードバックや面談が伴わないことも少なくありません。これにより、評価される側の納得感が得られず、不信感やモチベーション低下を招く原因となっています。
このような問題を解消するためには、評価の視点を多角化し、一人の評価者だけに依存しない仕組みをつくることが重要です。さらに、評価者に対する教育・研修を実施し、評価基準の理解を深めさせ、客観的かつ公正な評価ができるようにサポートすることが必要です。
人事制度を構築する際は、まず自施設のビジョンや経営方針、現在抱えている課題を明確にすることが重要です。たとえば「離職率の改善」や「利用者満足度の向上」など、具体的な目標を設定することで、人事制度の方向性が定まりやすくなります。また、職種ごとの業務内容や求められるスキルを整理し、現場の実態に即した評価項目の土台を作ることが効果的です。
評価結果が昇進や昇格と直結する仕組みを作ることで、職員は自分の将来の方向性や成長目標を具体的にイメージしやすくなります。これにより、長期的なモチベーションが高まり、職場への定着率向上にもつながります。また、キャリアパスの透明化は、職員間の公平感を高める効果もあります。
評価基準は、職務内容や役割に応じて明確に設定する必要があります。「業務スキル」「コミュニケーション力」「チームワーク」など、多角的な視点から評価項目を設けることで、職員一人ひとりを正当に評価できる仕組みとなります。また、スタッフの意見や現場の声を反映させることで、納得感のある制度を構築できます。
介護業界を取り巻く環境は日々変化しているため、人事制度も定期的に見直し、現場の実情や時代のニーズに合わせて柔軟に運用することが大切です。制度導入後も現場スタッフからのフィードバックを受け、必要に応じて評価項目や基準の修正を行うことで、より実効性の高い人事制度を維持できます。
人事制度の運用は一度きりで終わるものではなく、継続することが大切です。定期的な面談やフィードバックを通じて、職員の成果や課題を共有し、目標の進捗を確認する機会を持つことが求められます。
フィードバック面談は、評価結果を伝えるだけの場ではありません。職員の成長をサポートするための大切なコミュニケーションの場です。伝える際は、感情ではなく、具体的な行動や事実に基づいたフィードバックを意識しましょう。また、改善点については、一方的に指摘するのではなく、職員と一緒に解決策を考える姿勢が大切です。このようなやり取りを通じて、信頼関係が深まり、前向きな行動につながりやすくなります。
さらに、面談の頻度や実施時期などをルール化し、継続的に行うことも重要です。こうした取り組みによって、評価への納得感が高まり、職員のモチベーション維持にもつながります。
制度構築や運用においては、専門家やコンサルタントの意見を積極的に取り入れることも有効です。専門家は最新の人事制度トレンドや法令、事例に基づいたアドバイスを提供できるため、制度の質を高めることができます。また、第三者視点での問題点の発見や改善提案は、現場の偏った視点からは気づきにくい課題解決にもつながります。定期的な見直しの際に専門家のサポートを得ることで、常に現場にフィットした制度運用が可能になります。
人事制度を効果的に運用し、成功させている企業にはいくつかの共通点があります。
まず、運用スケジュールが明確に設定されていることが挙げられます。たとえば、期初面談で誰が目標を設定し、いつまでに達成すべきかをはっきりさせるなど、ルールが守られている職場はスムーズに制度が機能しています。
また、評価だけを行い、その後の面談やフィードバックがないケースは失敗に陥りやすいです。目標は半期ごとに見直し、進捗に応じて微調整を行うことが重要です。さらに、現場にリーダーシップを発揮し、チームを統率できる人材がいることも成功の鍵となります。
評価後のフィードバックを通じて、職員が自分の目標や成果について納得し、次の目標に向けて意欲的に取り組める環境を整えることが、長期的な定着と成長に繋がっています。
愛知県・名古屋市の株式会社エナジィー様では、3法人それぞれバラバラだった評価・給与制度を統一されました。その結果、職員の安心感ややりがいが大きく向上しています。新人事制度の導入に至るまでのリアルな苦労や工夫、そして今後の展望について、詳しくインタビューさせていただきました。
>>>全文読む|職員のやりがいや安心、さらには法人全体の発展にも繋がる新人事制度
埼玉県・狭山市の医療法人狭山ヶ丘病院では、2022年4月より、新しい人事制度の運用がスタートしました。これまでは部門ごとの部分最適を重視していましたが、全体で同じ方向を向き、協力し合う体制へと大きくシフトチェンジされました。
「豊かな心で自己実現を図り、患者満足度を高め、社会に貢献する」という基本理念を軸にした制度は、職員の目標管理や役割期待を明確にし、病院全体の働きやすさや連携強化に貢献しています。制度導入の背景や苦労、今後の展望についてお話を伺いました。人事制度改革を検討されている医療機関の皆さまにとって、参考になる内容です。
大阪府・東大阪市の医療法人徳洲会 東大阪徳洲会病院では、新型コロナウイルス感染症の拡大を契機に、2022年4月より人事評価シートの導入に踏み切りました。
「従業員一人ひとりの人生の幸せが、患者様の満足につながる」——そんな思いのもと、新たな人事制度の構築に取り組んでこられた病院の皆様に、導入の背景や苦労、そして今後のビジョンについてお話を伺いました。
>>>全文読む|新人事制度の運用により従業員の人生、さらには患者様・従業員のご家族の人生を豊かに
介護業界の人材不足が深刻化する中、人事制度の整備は避けて通れない課題です。人事制度を通じて職員の成長と定着を支援することが、全体の質の向上につながります。人事制度の導入・見直しを検討されている介護事業者の皆さまにとって、本コラムが一助となれば幸いです。
CBグループでは、医療・介護・福祉業界に特化をした人事制度構築のご支援を行っております。他社の事例が知りたい、自社に合った制度がどのようなものか相談したい等、様々なお声に応じてまずは個別面談の機会をご提供させていただいております。個別面談は無料となりますので、ご興味のある方はぜひ下記のお問い合わせフォームをご記入ください。
2019年にCBグループへ入社。現部署配属後、薬局・病院にて人事制度構築や教育研修に関わる。これまでに人事支援に携わった法人は20名〜800名規模とさまざま。各法人の特徴や今後の経営方針に合わせて制度導入の支援を行っている。