介護・医療・保育の分野では、慢性的な人材不足が続く中で、人材紹介会社を活用して採用を行っている事業者も多いのではないでしょうか?即戦力となる人材を確保できる一方で、紹介料の高さや入職後の定着・ミスマッチといった課題も見過ごせない状況です。
そこで2021年度に医療・介護・保育分野における「適正な有料職業紹介事業者認定制度」が設けられました。本制度は、紹介事業者の透明性や適正な運営を示す指標として機能し、事業者が安心して紹介サービスを活用できる環境づくりをサポートします。
本コラムでは、認定制度の意義やメリット、そして紹介サービスを最大限活用するための自社環境整備のポイントを整理します。
医療・介護・保育の現場では、求人広告だけでは応募が集まらず、人材紹介会社の活用が一般的になっています。
しかし、人材紹介の利用が進むにつれ、さまざまな課題が浮き彫りになりました。
厚生労働省の調査によると、紹介手数料が経営上の負担になっていると答えた事業者は69.2%にのぼり、約7割の施設が費用負担を強く感じていることがわかります。
これらトラブルは、施設側・求職者双方に不信感を生み、「人材紹介」そのものの健全な発展を妨げる要因となっていました。
このような状況を受け、厚生労働省と関係団体(日本医師会、日本看護協会、日本介護福祉士会、日本保育協会など)は協議を重ね、2021年(令和3年度)より「医療・介護・保育分野における適正な有料職業紹介事業者認定制度」を創設しました。
制度運営は、厚生労働省の委託を受けた 一般社団法人 日本人材紹介事業協会(JESRA) が担当しています。
制度の目的は、単に「悪質な紹介業者を排除する」ことではありません。むしろ、信頼できる紹介事業者を可視化し、安心して利用できる仕組みをつくることにあります。
特に医療・介護・保育は「人と人」が支え合う公共性の高い分野です。そのため、事業者は単なる仲介業ではなく、「求職者の人生」「事業者の経営」「地域の福祉」をつなぐ存在としての責任が求められます。
認定制度が生まれた背景には、実際のトラブル事例が数多く存在します。
こうした課題を是正し、健全な職業紹介サービスを定着させるため、制度では以下のような基準が設けられています。
認定制度は、厚生労働省の「職業紹介事業の運営適正化方針」に基づき、医療・介護・保育分野に特化した「必須基準」と「基本基準」で構成されています。
これらの基準を満たすことで、初めて「適正認定事業者」として登録されます。
JESRAの公式サイトでは、認定事業者一覧を公開しており、それぞれの事業者が取り扱う職種・地域・返戻金制度の有無などを確認できます。この情報は、採用担当者にとって「信頼できる紹介会社を選ぶための指針」として非常に有用です。
参考:「医療・介護・保育分野における適正な職業紹介事業者の認定制度」等に係るセミナー|厚生労働省
制度が始まった2021年から約4年が経過し、現在(2025年11月時点)では全国で53社の有料職業紹介事業者が「適正な有料職業紹介事業者」として認定を受けています。
令和7年度の第1回認定審査で事業者8社が認定を受けました。
この制度の最大の意義は、紹介事業者の「見える化」 にあります。つまり、どの会社が法令を守り、どのような基準で紹介を行っているのかが明確になることで、医療機関・介護施設・保育事業者が安心して利用できるようになります。
認定事業者の中には、医療・介護・保育分野に特化した紹介会社も多く、地域密着型の中小事業者から全国展開する大手まで幅広く登録されています。これは、制度が単なる「形式的な認定」ではなく、実際に現場ニーズに即した紹介の質を高める機能を果たしていることを示しています。
JESRA(日本人材紹介事業協会)は、定期的に認定事業者の審査・更新を行っており、今後も認定企業数の拡大が見込まれています。JESRA公式サイト上では、認定事業者の一覧が公開されており、事業者が信頼できる紹介会社を選ぶ際の“公的な目安”として活用できます。
認定事業者の存在により、事業者は安心して紹介サービスを利用できる環境が整いつつあります。しかし、実際に紹介サービスを活用する際には、紹介料や契約条件、定着支援など具体的なポイントを押さえることが重要です。
ここからは、医療・介護・保育事業者が認定制度を活用することで得られる具体的なメリットを整理してみましょう。
認定事業者は、手数料率や支払い条件を明確にし、法令基準に基づいた適正料金を設定しています。これにより、「採用してすぐ辞めたのに紹介料が返ってこない」といった不当な取引リスクを回避できます。経営資源が限られる医療・介護・保育事業所にとって、費用対効果を明確化した採用活動が可能になります。
認定事業者は、単なる“紹介”で終わらず、求職者の志向や適性、職場環境の理解を重視しています。また、採用後のフォローアップ体制も評価項目に含まれるため、紹介後の定着率が高い傾向にあります。これにより、「紹介してもすぐ辞める」悪循環から脱却しやすくなります。
JESRAの公式サイトでは、認定を受けた紹介会社の一覧が公開されており、事業者はこれを参考に紹介会社を選ぶことができます。透明性の高い情報公開により、悪質な業者を避けやすく、安心してパートナーを選定できます。
「認定事業者を選べば安心」というのは不十分です。施設・事業者(求人者)としては、以下のポイントを押さえて活用を図ることが重要です。
認定事業者であることはひとつの指標ですが、すべてを保障するわけではありません。例えば、「認定を受けているが自社とのマッチング実績が少ない」「紹介後フォローがしっかりしていない」といったケースもあり得ます。ですから、認定有無+紹介実績・定着率・職種対応・紹介先施設の相性なども併せて確認しましょう。
施設が紹介事業者と契約を締結する際、以下を確認することがおすすめです。
適正認定制度自身も毎年見直しが入っており、令和6年度からは「就職後6か月以内の離職に対する返戻金制度設置」が必須基準に加わりました。また、認定事業者はまだ一部(医療・介護・保育関連の紹介事業者全体から見ると数%)という報告もあります。
そのため、「認定事業者を使っておけば安心」という発想だけでなく、自社の採用・定着戦略の中で紹介事業者選定を“差別化要因”にする視点も重要です。
人材獲得のために紹介サービスを利用すること自体は重要ですが、それだけで安心とは言えません。紹介サービスはあくまで“採用のサポートツール”です。
自社の環境と合わせて取り組むことで、採用した人材が安心して活躍できる職場づくりにつながります。採用した人材が長く働き続け、力を発揮できる職場環境を整えてこそ、紹介サービスへの投資が意味を持つと思います。
具体的には、以下のような視点で自社の採用・定着戦略を整理してみます。
紹介で採用した人材が定着するためには、自社の制度や仕組みも重要です。
こうした環境を整えておくと、紹介サービスを活用した採用の効果がより高まります。すべてを一気に変えることは難しいため、少しずつ改善していくことが大切です。
採用後に定着してもらうためには、職場の雰囲気や働きやすさも欠かせません。
介護職の離職防止と定着率アップの鍵は「人事制度の見直し」にあり!
介護現場で人が育つ・辞めない「人事制度」とは?
人材紹介サービスは、採用だけで完結するものではありません。採用後の定着や活躍を見据え、自社の環境整備と組み合わせることで、採用投資の効果を最大化できます。
さらに、人材紹介会社を選ぶ際には「認定事業者制度」が、信頼できる紹介事業者を見極める目安として役立ちます。紹介サービスと自社の環境づくりを両輪で進めることで、職員が安心して働ける職場づくりにつながるでしょう。
