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訪問介護の廃業・失敗を防ぐには?人材不足・報酬減から事業を守る方法

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訪問介護をしている介護士と車いすに乗る男性高齢者

はじめに

「訪問介護を始めたものの人が集まらない」「赤字が続き、経営を続けるべきか悩んでいる」こうした声が、今、訪問介護業界で増加しています。

訪問介護を取り巻く環境は年々厳しさを増しており、人材確保の困難、介護報酬の引き下げ、制度変更への対応など、特に小規模事業者にとっては経営の持続が難しい状況が続いています。

このような中、近年では「M&A(事業承継・売却)」という選択肢が注目を集めています。単なる“廃業の回避策”ではなく、事業とスタッフ、そして利用者の生活を守るための前向きな戦略としてM&Aを選ぶ経営者が増えています。

本コラムでは、訪問介護事業における経営課題の実情や、政府の支援策、そしてM&Aのメリットや気を付けたい点について、解説していきます。

訪問介護業界が直面する経営課題とは?

報酬引き下げで深刻化する経営難

訪問介護事業は小規模で運営されることが多く、介護報酬の改定や地域ニーズの変化が経営に直接影響を与えます。2024年度の介護報酬改定では、訪問介護がマイナス改定の対象となり、特に生活援助中心のサービスを提供する事業所に大きな影響を与えました。報酬減により、同じ業務量でも収益が下がる構造となり、人手不足や稼働率の低下と重なって赤字経営に陥るケースが増加しています。

<令和6年度介護報酬改定 訪問介護の基本報酬>

身体介護<改定前> <改定後>増減
・20分未満167単位163単位 ▲2.40%
・20分以上30分未満 250単位244単位▲2.40%
・30分以上1時間未満396単位387単位▲2.27%
・1時間以上1時間30分未満579単位567単位▲2.07%
・以降30分を増すごとに84単位82単位▲2.38%

 

生活援助<改定前> <改定後>増減
20分以上45分未満183単位179単位▲2.19%
45分以上225単位220単位 ▲2.22%
身体介護に引き続き生活援助を行う場合67単位65単位▲2.99%

 

 

 通院等乗降介助 

<改定前> <改定後>増減
99単位97単位▲2.02%

新報酬ではおおむね2%強の引き下げとなりました。厚生労働省から引き下げの理由として、介護事業経営実態調査で比較的高い収支差率だったこと、一本化される介護職員等処遇改善加算では、高い加算率に設定していることを強調し、全体でプラスになるような経営努力が求められました。

しかし実際、2024年の訪問介護の倒産件数は過去最多の86件と報告されており、従来の運営モデルのままでは立て直しが困難になりつつあります。

出典:株式会社東京商工リサーチ|2024年「老人福祉・介護事業」の倒産調査

出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について

競争激化による利用者獲得難

在宅介護ニーズの高まりを背景に、訪問介護市場には新規参入が相次ぎ、地域内の競争が激化しています。特に都市部では同一エリアに複数の事業所が存在し、既存利用者の囲い込みや新規獲得が難航するケースが増加しています。また、差別化要素が乏しいと、紹介機関やケアマネジャーからの送客も鈍り、稼働率の低下→収益悪化につながっています。

厚生労働省による支援策

深刻化する訪問介護業界の人材不足と経営の不安定化を受け、厚生労働省は事業者支援に乗り出しています。2024年12月17日には、「訪問介護等サービス提供体制確保支援事業」が公表され、訪問介護事業所の体制強化を目的とした補助制度が設けられました。

本事業では、以下の2点を柱とした支援策が示されています。

1.人材確保体制構築支援

~支援内容の例~

  • 事業所における研修体系の構築や環境づくりの支援により、安心して働ける職場環境を整備
    :1事業所あたり10万円

  • 中山間・離島等地域における採用活動の経費を支援し、地域外の求職者に対する採用機会を拡大
    :1事業所あたり30万円

  • 経験年数が短いヘルパーへの同行支援に係る取組を支援し、ベテランヘルパーの技術を継承 

    └中山間地域等・離島等地域の同行支援:30分未満3,500円、30分以上5,000円(1人につき30回まで)
    └その他地域の動向支援:30分未満2,500円、30分以上4,000円(1人につき30回まで)

2.経営改善支援

~支援内容の例~

  • 臨時的な事務員の雇用やコンサル活用による支援を通じて、加算制度の活用等を促進
    →実施主体が契約:1事業所あたり30万円
    →事業所が個別事業を実施:1事業所あたり40万円
  • 登録ヘルパーが常勤職員としての雇用を希望する場合、必要な経費を支援し、常勤化を促進
    →常勤化する登録ヘルパー等1人につき 1 月あたり10万円(3か月まで)
  • 協働化・大規模化の取組を支援し、地域の状況や事業規模を踏まえた事業者間の連携を促進
    ・対象法人を含む場合:1事業者グループあたり 200 万円
    ・対象法人を含まない場合:1事業者グループあたり 150 万円
    ・介護人材・利用者確保のための広報活動に関する支援:1事業所あたり 30 万円
    ・その他経営改善に必要な支援:1事業所あたり 実施主体が必要と認める額

《実施主体および補助率》

  • 実施主体:都道府県(市町村でも可)
  • 補助率:国→2/3、自治体→1/4
    (※)中山間・離島等地域においては、事業規模や地域特有のコスト増を踏まえ、一部取組の補助率のかさ上げ⇒ 国3/4、自治体1/4

出典:厚生労働省|訪問介護等サービス提供体制確保支援事業実施要綱


中山間地の事業所や小規模法人に対しては、さらなる支援策

2025年4月14日に行われた介護給付費分科会では、訪問介護事業者に対してさらなる支援策が打ち出されました。

これは訪問介護事業者に関する事業所調査(アンケート)によって見えてきた訪問介護業界の現状と課題を受けて取られる支援策になります。以下が事業所調査で明るみになった地域特性や課題です。

  • 訪問介護事業所の収入は報酬改定により微増したものの、訪問回数が減少し、特に小規模事業所で収入減が顕著

  • 中山間地域等では高齢者人口の伸びが鈍化・減少、都市部では利用者が事業者間で分散するなど、地域ごとに異なる要因で訪問回数が減少

  • 人材不足が深刻で、特に経験年数の短いヘルパーの定着や新規採用が課題

  • 小規模事業所の経営安定化や人材確保が急務

調査の結果を踏まえ、特に厳しい経営環境である、中山間地域等の小規模事業所に対して、経営の安定化を図るべく、以下の対応策が講じられます。

対象加算現行の取得要件・補助要件今回の弾力化等の措置
中山間地域等にかかる加算◆中山間地域等における小規模事業所加算
厚生労働大臣が定める地域(※1)に所在する小規模な訪問介護事業所(※2)が、サービス提供を行った場合に、所定単位数の10%を加算

※1:地域区分が「その他」であって、次の①~⑤のうち特別地域加算の対象ではない地域
①豪雪地帯及び特別豪雪地帯、②辺地、③半島振興対策実施地域、
④特定農山村、⑤過疎地域

※2:前年度の1月当たり平均延べ訪問回数が200回以下

算定要件について、当分の間、以下のとおり弾力化を行う。
・ 地域区分が「その他」という要件について、適用を猶予し、「その他」地域以外も算定可とする。
・ 「前年度の1月当たり平均延べ訪問回数が200回以下」という要件について、平均の訪問回数ではなく、「前年度のいずれかの月における延べ訪問回数が概ね200回以下(※)」である場合とする。

※ 400回程度を想定しており、例えば、前年度の平均訪問回数600回以下の事業所も対象となり得る。

対象加算現行の取得要件・補助要件今回の弾力化等の措置
研修体制の構築支援◆研修体制の構築の支援
訪問介護業所が行う研修計画の作成など研修体制の構築のための取組を支援
【対象経費の例】
・ 効果的な研修カリキュラムの作成・見直しに要する費用
・ 介護職員のスキルアップのための研修等の受講に要する費用
・ 職員の資質向上に必要な取組の経費として実施主体が認めるもの
【補助基準額】
・ 1事業所あたり 10万円
対象経費を可能な限り広く解釈するとともに、申請時点において、研修計画の作成や具体的な研修の受講計画等がない場合であっても、当該年度内に職員の資質向上に必要な取組を行うという誓約があれば、速やかに概算払いで交付決定を行うよう都道府県に依頼。
対象加算現行の取得要件・補助要件今回の弾力化等の措置
協働化・大規模化の取り組み支援◆小規模法人等の協働化・大規模化の取組の支援
小規模な法人を中心とした複数の法人により構成される事業者グループが、法人間の連携を促進し、相互に協力して行う人材育成や経営改善に向けた取組を支援
【対象法人の要件】
事業者グループには、次の(ア)から(エ)のいずれかに該当する法人を1以上含むこと
(ア) 1法人あたり1の訪問介護等事業所を運営する法人
(イ) 運営する訪問介護等事業所の月の延べ訪問回数が平均200回以下である法人
(ウ) 運営する訪問介護等事業所の職員数が常勤換算方法で平均5人以下の法人
(エ) 運営する訪問介護等事業所が全て中山間地域等又は離島等地域に所在する法人
【補助基準額】
(エ)に該当する法人を含む場合 1事業者グループあたり 200万円
(エ)に該当する法人を含まない場合 1事業者グループあたり 150万円

「運営する訪問介護等事業所の月の延べ訪問回数が平均200回以下である法人」という要件について、平均の訪問回数ではなく「前年度のいずれかの月における延べ訪問回数が概ね200回以下
(※)」である場合とする。

※ 400回程度を想定しており、例えば、前年度の平均訪問回数600回以下の事業所も対象となる

上記以外でも、地域の特性・事業者規模ごとの課題も踏まえた対応として、以下についても言及されました。

  • 処遇改善加算の更なる取得促進に向けた要件の弾力化

  • 令和6年度補正予算等を通じ、経験年数が短いヘルパーへの同行支援の強化やヘルパーの常勤化への支援

  •  重点支援地方交付金による燃料代等の支援などの支援

出展:厚生労働省|訪問介護事業所に対する更なる支援策について(報告)

訪問介護の赤字の原因とは?

・事業所規模

「訪問介護事業者に関する事業所調査」でも明らかになったとおり、近年の介護報酬改定により、小規模な訪問介護事業者では収入の減少が顕著になっており、経営の安定化と人材確保が急務となっています。

そもそも訪問介護事業は初期投資が比較的少なく、個人や小規模法人でも開業しやすい点が特徴です。そのため、全国的にも小規模事業者の割合が非常に高く、1事業所あたりの従業員数が5人未満というケースも珍しくありません。小規模運営で経営に影響が出やすいのは、主に「人員の確保」と「収益の安定性」です。

まず、人手不足が常態化している介護業界において、少人数での運営は非常に不安定です。スタッフが1人でも欠ければ、サービス提供に大きな支障が生じ、シフトが組めない、利用者への対応が遅れるといった問題が発生します。加えて、訪問介護では管理者やサービス提供責任者の配置が義務付けられているため、急な離職が発生すると、事業継続そのものが危ぶまれる場合もあります。

また、利用者数が少ない場合、売上が数名の利用に大きく依存することになります。1人でも契約終了や入院などで離脱すれば、月間収益に大きく影響します。固定費はある程度かかるため、少人数運営ではこうした変動に耐えられず、赤字に転落するリスクが高まります。小規模事業所は参入しやすい反面、経営を持続させるには高いマネジメント力と将来的な事業計画が不可欠です。

・人件費の構造的問題

訪問介護は、1回のサービスごとにスタッフが直接利用者宅を訪問し、1対1で対応する業態です。そのため、収益構造の中で人件費が占める割合が非常に高くなります。また、介護職員の採用は困難を極めており、限られた人材を確保するために、時給や待遇を上げざるを得ないケースも増えています。特に都市部では、他業種との人材獲得競争も激しく、給与の引き上げが収益を圧迫する要因となっています。

・報酬単価の低さと非効率な業務

介護報酬制度では、訪問介護のサービス提供時間によって基本報酬が決まりますが、短時間のサービス(身体介護20分未満や生活援助45分未満)は単価が低く、十分な利益が見込めません。それに加えて、短時間サービスが続くと、スタッフの移動回数も多くなり、1日あたりの稼働効率が大きく下がります。結果として「スタッフは動いているのに利益が出ない」という悪循環に陥る事業所も少なくありません。

・移動時間の問題

訪問介護の特徴として、利用者宅までの移動時間には報酬が発生しない点があります。これは多くの事業者にとって、見過ごせないコストとなります。特に利用者が広範囲に点在している場合、1件ごとの訪問にかかる移動時間が長くなり、サービス提供時間と比較して生産性が著しく下がります。加えて、急なキャンセルやスケジュール変更が発生すると、その時間がまるごと無駄になってしまうこともあり、収益計画が非常に立てにくいという課題もあります。

赤字経営から抜け出すために

訪問介護事業の赤字経営は、業界全体の構造的な課題に起因する部分も多く、短期間での劇的な改善は難しいのが現実です。しかし、事業所の運営方法や視点を少し変えるだけで、コストの見直しや収益性の改善につながるヒントは少なくありません。

・サービス提供の効率化で稼働率を最大化する

赤字経営の訪問介護事業所にとって最も重要なのが、「限られた時間でどれだけ多くのサービスを提供できるか」という稼働率の向上です。特にスタッフ1人あたりの訪問件数を無理なく増やし、1日の稼働効率を高めることが重要です。

その中でも注目されているのが、ICTを活用したスケジュール最適化です。近年では、利用者の住所・サービス内容・希望時間・スタッフのシフト情報をもとに、自動で訪問ルートや時間割を組んでくれる介護DXツールが登場しています。代表的なサービスには「カイポケ」や「Care-wing」「ほのぼのNEXT」などがあり、移動距離を減らし、効率の良いシフトを自動生成できる仕組みが整っています。

これにより、従来手作業で行っていた煩雑な業務が大幅に軽減され、スタッフの稼働率向上やストレス軽減、ひいては離職防止にもつながると評価されています。

ただし、こうしたICTツールの導入には一定のコストや業務フローの見直しが必要となるため、小規模な事業所にとってはハードルが高い場合もあります。初期費用や月額利用料に加え、パソコンやタブレットなどの環境整備、スタッフへの操作研修などが必要になるため、慎重な検討が求められます。

一方で、ICT導入に対する補助金や支援制度を活用できる自治体も増えており、導入の負担を軽減する手段は整いつつあります。まずは無料トライアルのあるサービスから試してみる、地域の介護支援センターに相談するなど、無理のない範囲で始めるのも有効な選択肢です。

・人材の定着と業務負担の分散を図る

人手不足によってサービス提供が不安定になると、利用者数が伸びず売上も増えません。人材の定着率を高めることは、赤字経営の改善に直結する重要なポイントです。

そのためには、単に給与を上げるだけでなく、働きやすい職場環境づくりが不可欠です。シフトの柔軟性、業務負担の分散、OJTや研修の充実など、職員が長く働ける体制を整えることが必要です。事務作業や記録業務を効率化するためにICT(介護ソフトやアプリ)を活用することも、業務負担の軽減につながります。

また、事業所の管理者やサービス提供責任者の業務が集中している場合は、補佐役や事務スタッフの配置を検討することで、運営全体の安定性が高まります。

・加算の取得と制度活用で収入源を広げる

訪問介護には、基本報酬以外に「特定事業所加算」「処遇改善加算」「ベースアップ加算」など、さまざまな加算制度が用意されています。これらを適切に取得・運用することで、収入を安定的に増やすことが可能です。

たとえば、特定事業所加算は職員配置や研修体制、サービス提供体制など一定の基準を満たすことで取得でき、単価が上乗せされます。取得には準備や書類整備が必要ですが、赤字経営からの脱却を目指すなら避けては通れない対策です。

加えて、各自治体が実施している補助金や経営支援制度の活用も検討すべきです。ICT導入支援や職員研修への助成金など、事業所の負担を軽減する制度は意外と多く存在します。常に最新の情報を把握し、活用できる制度を逃さないことが、長期的な経営改善につながります。

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>>>介護事業におけるICT導入の現状とメリット

生き残るための選択肢“M&A”

◎訪問介護のM&Aが増加中

人材不足と介護報酬の見直しにより、訪問介護業界では小規模事業者を中心に経営が厳しさを増しています。こうした中で、事業の維持・拡大を目的にM&Aを選択する動きが加速しています。特に以下M&Aが活発化しています。

  • 地域密着型の中堅法人による買収・吸収合併
    地域内でのサービス拡大を狙い、近隣の小規模事業所を取り込むケース。人材と利用者を同時に確保できるメリットがあります。

  • 他業種から介護分野へ参入する法人による買収
    医療法人や調剤薬局、福祉系NPOなどが、訪問介護を新たな事業領域として取り込むために既存事業所を買収することで事業の多角化や地域密着型サービスの強化を図っています。

  • 経営者の高齢化に伴う「後継者不在型M&A」
    地域に根付いた実績のある事業所を、後継者がいないために第三者へ承継。雇用やサービスを守ることが優先されます。

M&Aは廃業を回避するための手段ではなく、事業継続やエリア拡大、人員確保といった戦略的M&Aとして行われており、買い手・売り手双方にとってメリットのある形で進行しています。

~ 訪問介護のM&Aのメリット ~

訪問介護事業のM&Aは、「苦しい経営を手放す」という消極的な判断だけでなく、事業と想いを次世代につなぐ前向きな選択肢でもあります。売手側にとっての主なメリットは、以下のとおりです。

1. 廃業を避け、スタッフと利用者の生活を守れる

経営が厳しくなった場合、廃業という決断を選ぶと、従業員の雇用や利用者のサービス提供にも大きな影響が及びます。M&Aによって事業を引き継いでもらうことで、大切にしてきた現場や人材、利用者との関係性を守ることが可能になります。

2. これまでの努力や実績を「資産」として評価してもらえる

たとえ赤字であっても、長年積み重ねてきた事業運営のノウハウ、地域との信頼関係、スタッフの育成体制などは、買手にとって価値ある「資産」です。M&Aではこうした目に見えにくい価値も含めて評価される可能性があります。

3. 精神的・時間的な負担の軽減

人手不足や制度改定対応など、日々の運営に追われる中で、将来の経営ビジョンを描くことが難しくなっている事業者も少なくありません。M&Aを選択することで、経営者自身の負担を軽減し、新たな人生設計に踏み出すことができます。

4. 廃業よりも経済的リターンがある

設備や契約を整理して廃業する場合に比べ、M&Aでは事業価値が対価として得られるため、一定の経済的メリットがあります。特に人材確保や地域での事業基盤を重視する買手にとって、既存の訪問介護事業所は魅力的な存在です。


◆M&Aを検討するために必要な準備◆

M&Aは突然成立するものではありません。準備には半年〜1年以上かかるケースも多く、事前の情報整理と方向性の明確化が不可欠です。

まずは次のような準備が必要になります。

  • 財務状況・契約書類・人員体制などの「見える化」

  • 売却後にどうしたいかというビジョンの整理

  • M&A仲介会社や専門家への早めの相談

  • スタッフや利用者に影響が出ないような引き継ぎ体制の設計

「うまくいかなくなったら売る」のではなく、「今後も地域でサービスを継続するために、第三者と力を合わせる」という前向きな戦略として、M&Aを選択肢の一つとして捉えてみてはいかがでしょうか。

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◆M&Aで気を付けたいポイント◆

・悪質な買い手によるM&A

一部の買い手が、債務超過の事業所を格安で買収し、その後、資金を不正に流用するなどの事例も報告されています。これにより、従業員の給与未払いなどの問題が発生する可能性があります。こうしたリスクを避けるためには、単に高く売れる相手ではなく、“想いや理念が近い”相手を選ぶことが重要です。

・評価が難しい「無形資産」の価値

訪問介護事業の価値は、「従業員の経験」や「利用者との信頼関係」「地域での評判」など、数字に表れにくい“無形資産”に支えられているケースが多くあります。こうした要素は買い手にとっても重要な判断材料ですが、目に見える形で伝えなければ正しく評価してもらうことはできません。そのため、事前に「利用者数」「稼働率」「従業員の定着率(離職率)」「地域特性・競合状況」などを可能な限り可視化・数値化しておくことが、M&Aの成功につながる鍵となります。

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さいごに

訪問介護業界は今、需要の増加と制度改革の狭間で、かつてないほどの経営判断が求められています。利用者にとって欠かせないサービスである一方、経営者にとっては人材確保や報酬体系の変化など、多くの課題が立ちはだかります。

「これからも地域の介護を支えたいけれど、現状のままでは限界を感じている」「事業の将来に不安がある」「引退を視野に入れ始めた」という方も多いのではないでしょうか。

そうした中でM&Aという選択肢は、経営者ご自身の想いを尊重しつつ、事業と従業員、そして利用者の生活を守る一つの有力な手段です。事業を「終わらせる」のではなく、M&Aによって未来につなげていくことができます。

訪問介護事業のM&Aに関するご相談は、経験豊富な当社までお気軽にお問い合わせください。

秘密厳守で、現状のヒアリングから譲渡・譲受のサポートまで丁寧に対応いたします。

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コラム監修者

マネージャー
T.FUNAMOTO

  • 経歴
    九州の国立大学を卒業後、CBグループに新卒入社。病院・薬局・介護施設を対象としたコンサルティング業務を経て、2020年度よりM&A業務に従事。介護分野を中心に、これまで累計30件以上の成約支援に携わる。