M&Aにおける病院やクリニックの事業承継の相場は、多くの要因に左右されます。地域や設備の評価、医療スタッフの経験、患者数などが影響し、一般的には売上高の一部が譲渡対価に反映され、法的な手続きや契約条件も重要です。本コラムでは、事業承継の流れや相場の基本を解説します。
クリニック・病院の事業承継やM&Aは、組織の発展や競争力強化の手段として注目されています。適切な戦略を持ち、スムーズな移行を図ることが重要です。
事業承継とは、経営者やオーナーが所有する事業を後継者に引き継ぐプロセスを指します。事業承継にはいくつかの方法があります。
医療業界ではM&Aによる事業承継のニーズは高まっていますが、背景としては医師の高齢化と後継者不足があります。厚生労働省の調査によると病院の開設者または法人の代表者の平均年齢が64.9歳、クリニックや診療所では平均年齢が62.5歳となっており、全国の社長平均年齢である60.5歳と比べても医療業界では高齢化が進んでいることが分かります。また日本医師会の「医業承継実態調査」によると「現時点で後継者はいない」「後継者はいるが意思確認していない」をあわせると後継者不在率が75.9%となっており、こちらも全業種の後継者不在率53.9%を大きく上回る数字となっています。
出典:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2023 年) 全国「社長年齢」分析調査(2023年)
2023年度には医療機関の休廃業・解散件数が一年で709件となり過去最多になりました。この結果は10年前と比較すると2.3倍に増えています。特に診療所の件数は著しく、前年より159件増え580件となりました。こちらも背景としては後継者不在問題があげられます。
出典:帝国データバンク 医療機関の「休廃業・解散」 動向調査(2023年度)
医業承継におけるM&Aのメリットの一つは、地域医療を存続することができることから通院患者を守ることができるという点があります。
また、条件によっては長年働いてくれているスタッフの雇用を継続することもできます。
M&Aを通じて第三者承継を行うことで、通常の退職金だけでなく、譲渡に対する対価を受け取ることも可能です。また退職後は常勤や非常勤など自分のペースで臨床に出ることもできます。また、金融機関への借入金、賃貸借契約、リース契約などの連帯保証による個人保証についても承継することができます。
マッチング先がなかなか見つからない場合や、見つかったとしても双方での条件のすり合わせに時間がかかってしまう場合があります。また、承継実行に向けては複数の資料が必要となり、少々お手間に感じる可能性もあります。
M&Aによる医業承継では、方針のズレが起ってしまう可能性があります。運営方針や医療のスタイルの違いが原因で、摩擦が生じることがあるため、円滑な移行を図るためには、契約締結前から十分なコミュニケーションを取ること重要です。
M&Aによる売却は一定の取引手法(スキーム)に沿って行われます。クリニック・病院の場合、医療法に従った手続きが求められます。
医療事業の承継方法は、大きく分けると以下の2つに分かれます。
・事業譲渡
・法人譲渡(社員・理事の交代)
また事業譲渡と法人譲渡で大きく異なる点は、
「開設者変更にかかる諸々の手続き」と「対価の支払方法や受領者」
が挙げられます。
医療業界は他の業界とは異なり、報酬改定や特異的な習慣をもった業界であるため、仲介業者の選定は非常に重要です。
ここでは医院承継の流れや仲介業者の選び方について紹介します。
M&A仲介会社は、M&A実行までの買手や売手探しをメインとして、様々な手続きをサポートする会社です。
M&A仲介会社と一括りにしても、専門分野や得意分野は分かれていて、“大手だから”という理由で安易に選んでしまうと後悔してしまうこともあります。
仲介会社を選ぶポイントは、事業に合った企業を取り扱っているかどうかが非常に重要です。ホームページなどを参考にして仲介会社を決定し、契約を締結しましょう。
面談を経て双方が合意をし、承継することになると、条件をすり合わせて基本合意書を締結します。
基本合意書を締結後、承継先の財務内容等の正確性を確認する「買収監査(デューデリジェンス)」を実施します。
買収監査(デューデリジェンス)の結果に問題がなければ、最終契約書を締結させます。何か問題があった場合は、締結前に承継条件の見直しを行います。
関係者へ告知を行います。また残留するスタッフ等に説明会などを実施します。その後クロージングとなります。
年間売上:約3億3,700万円
M&A形態:持分譲渡
エリア:北海道・東北エリア
譲渡背景:後継者不在
年間売上:約8億7,000万円
M&A形態:事業譲渡
エリア:関西エリア
譲渡背景:後継者不在、不採算整理
年間売上:約4,600万円
M&A形態:事業譲渡
エリア:関西地方
譲渡背景:後継者不在
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作成日:2023年11月8日