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クリニック・病院のM&A・事業承継の流れや相場とは?

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クリニック承継

はじめに

M&Aにおける病院やクリニックの事業承継の相場は、多くの要因に左右されます。地域や設備の評価、医療スタッフの経験、患者数などが影響します。本コラムでは、事業承継の流れや相場の基本を解説します。

クリニック・病院の最新動向

医師の高齢化と後継者不在

医療業界ではM&Aによる事業承継のニーズは高まっていますが、背景としては医師の高齢化と後継者不足があります。厚生労働省の調査によると病院の開設者または法人の代表者の平均年齢が64.9歳、クリニックや診療所では平均年齢が62.5歳となっており、全国の社長平均年齢である60.5歳と比べても医療業界では高齢化が進んでいることが分かります。また日本医師会の「医業承継実態調査」によると「現時点で後継者はいない」「後継者はいるが意思確認していない」をあわせると後継者不在率が75.9%となっており、こちらも全業種の後継者不在率52.1%を大きく上回る数字となっています。

出典:帝国データバンク 全国「後継者不在率」動向調査(2024年) 全国「社長年齢」分析調査(2023年)

医療機関の倒産が過去最多ペースに

帝国データバンクの医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)によると、2024年の医療機関(病院、診療所、歯科医院)の倒産件数が64件、休廃業・解散は722件となりそれぞれの過去最多を更新しました。倒産、休廃業・解散とともに診療所と歯科医院で急増し、経営者の高齢化が主な要因となりました。

その他要因として、予防意識や医療機関の選別意識の高まりなどでコロナ禍に減少した患者が戻らないことや、経営者の高齢化や後継者不足があげられました。

また、コロナ関連補助金の削減、資材価格高騰に伴う材料費(医薬品や検査キットなど)や設備機器費の増大、人材確保・雇用維持のための賃上げや、コロナ関連融資の返済開始などの負担も増え、収入減少と支出増加が同時に進行したことで、資金繰りに苦戦し事業継続を断念する事業者が増加したとみられています。

出典:帝国データバンク|医療機関の倒産・休廃業解散動向調査(2024年)

クリニック・病院の事業承継やM&Aについて

クリニック・病院のM&Aや事業承継は、後継者不足に対する解決策や組織の発展・競争力強化の手段として注目されています。適切な戦略を持ち、スムーズな移行を図ることが重要です。

◇そもそも事業承継とは?

事業承継とは、現在の経営者やオーナーが、保有する経営権や資産、経営理念を次の世代へ引き継ぐプロセスを指します。医療機関における事業承継は、単なる引き継ぎにとどまらず、医療サービスの継続や地域医療の維持にも大きく関わる重要なテーマです。

承継の方法には、主に以下の3つがあります。

●親族内承継

経営者の子どもなど親族に事業を引き継ぐ方法です。経営ビジョンの共有や信頼関係が築きやすい一方で、相続や贈与に関する税務対策、親族内の調整が課題となることもあります。早期からの準備と丁寧な引き継ぎ計画が成功のポイントです。

●院内承継

親族以外の勤務医や事務長など、院内の信頼できる人材に承継する方法です。すでに施設の運営方針や患者層を理解しているケースが多く、スムーズな承継が期待できますが、適切な人材の見極めや、継承後の経営体制の構築が重要です。

●第三者承継(M&A)

他の医療法人や個人医師に事業を譲渡・売却する方法で、いわゆるM&A型の承継です。後継者不在のケースでは特に有効で、地域医療の継続や従業員の雇用維持にもつながります。買手選定や条件交渉、契約手続きなど専門的な対応が必要となります。


◇クリニックと病院で異なる事業承継のポイントとは?

医療機関の事業承継とひと口に言っても、「クリニック(診療所)」と「病院」ではその構造や手続き、承継時のポイントが大きく異なります。

クリニックは個人事業として運営されている場合と、医療法人化されている場合があります。一方で、病院の多くは医療法人によって運営されており、法人格を前提とした経営体制になっているのが一般的です。法人格の有無は、事業承継のスキームに大きな影響を与えます。

たとえば、個人事業の場合は「事業譲渡」が中心となり、医療法人の場合は「持分譲渡」や「理事の変更」など法人内部の手続きが必要になります。このように、運営形態の違いが、承継方法の選択肢や手続きの複雑さに直結するのです。M&Aを検討するうえで、これらの違いを正しく理解しておくことが重要です。

■承継対象の規模と構造

  • クリニックの場合
    医師個人が開設・経営しているケースが多く、従業員数や設備、収入の規模も比較的コンパクトです。そのため、スキームは「個人開業医の廃止と新規開設」または「事業譲渡」が主流で、スムーズな移行が可能です。
  • 病院の場合
    医療法人による運営が一般的で、複数の診療科や医師、看護師が在籍する中規模~大規模な体制をとっています。承継の際は、法人の持分譲渡や役員変更などの法人組織としての手続きが必要となるため、法的・財務的な検討事項も多岐にわたります。

■デューデリジェンス(調査)の範囲と深さ

  • クリニックの場合
    売上・収益構造や患者数の動向、医師一人あたりの診療体制など、個人のスキルや人脈に依存する要素が多く、調査は比較的シンプルです。
  • 病院の場合
    法人財務や複数スタッフの人件費構造、施設設備の維持管理状況、医師の雇用契約など、多角的で専門性の高い調査が必要となり、承継までに時間を要する傾向があります。

■承継後の経営引継ぎ

  • クリニックの場合
    承継後すぐに新院長の裁量で経営が可能な場合が多く、前院長との引継ぎ期間も短期間で済むことが一般的です。
  • 病院の場合
    法人としての中長期戦略やスタッフとの合意形成が重要であり、前任経営陣と段階的な引継ぎを行うケースも少なくありません。特に、看護部門や他診療科の医師との関係構築には、時間と丁寧な対応が求められます。

クリニック・病院の売却で用いられる主な手法

M&Aによる売却は一定の取引手法(スキーム)に沿って行われます。

医療事業の承継方法は、大きく分けると以下の2つに分かれます。

  • 事業譲渡
  • 法人譲渡(社員・理事の交代)

また事業譲渡と法人譲渡で大きく異なる点は、「開設者変更にかかる諸々の手続き」と「対価の支払方法や受領者」が挙げられます。

  • 事業譲渡
    事業譲渡は医療機関が運営している事業全体またはその一部を他の法人や個人に譲渡することを指します。開設者が変更になるため、該当地区の保健所・厚生局・都道府県への届け出、賃貸借契約、雇用契約、リース契約等すべての契約を結び直し又は名義変更が必要となります。また、対価は、事業譲渡を行った法人で受領することになりますので事業譲渡益として、損益通算を行い法人税が課されます。そのため、役員の退職慰労金支給も、同時期に行うことも多くあります。

 

  • 法人譲渡
    法人譲渡(社員・理事の変更)=医療法人と事業をそのまま承継する形式となります。 事業譲渡とは違い、社員・理事を変更するだけで承継が完了するスキームです。理事長及び理事を変更するケースがほとんどですので 行政への届け出や契約書上の代表者変更は行う必要はありますが、 新規での開設許可や保険指定等とは手続きが異なり、比較的簡便です。対価は出資持分の買取や退職慰労金等、複数の支払いスキームを複合的に使い支払うことが多いですが、法人様ごとの状態や背景によって、取りうる方法が異なるため、早めにアドバイザーや税理士に相談することを推奨いたします。

クリニック・病院の事業承継やM&Aについて知っておくべきこと

〇M&Aのメリット

  • 通院患者やスタッフの雇用を守ることができる
    医業承継におけるM&Aのメリットの一つは、地域医療を存続することができることから通院患者を維持することができるという点があります。また、条件によってはスタッフの雇用を継続することもできます。
  • 退職金+創業者利益を受け取ることができる
    M&Aを通じて第三者承継を行うことで、通常の退職金だけでなく、譲渡に対する対価を受け取ることも可能です。また退職後は常勤や非常勤など自分のペースで勤務することもできます。また、条件によっては金融機関への借入金、賃貸借契約、リース契約などの連帯保証による個人保証についても承継することができます。

×M&Aのデメリット

  • 承継実行までに時間がかかる場合がある
    マッチング先がなかなか見つからない場合や、見つかったとしても双方での条件のすり合わせに時間がかかってしまう場合があります。また、承継実行に向けては多くの資料が必要となり、それがストレスに感じる可能性もあります。
  • 理念や運営方針が変わってしまう可能性がある
    M&Aによる医業承継では、売手と買手で方針のズレが起ってしまう可能性があります。円滑な移行を図るためには、契約締結前から十分なコミュニケーションを取ること重要です。

 

医療法人の場合は「持分の有無」にも注意

医療法人における「持分の有無」は、M&Aや事業承継の進め方に大きな影響を与える重要なポイントです。

持分あり医療法人(出資持分がある医療法人)の場合、承継時に持分の譲渡や出資額に応じた評価が必要となります。これにより、譲渡対価としてまとまった金額を得られる可能性がある一方で、出資金の評価額が高額になり、買手にとってハードルが上がるという側面もあります。

一方、持分なし医療法人(持分が放棄された、あるいは移行した医療法人)は、法人そのものを譲渡することができないため、理事の交代や運営権の引き継ぎを通じたスキームが必要となります。この場合は出資の払戻し義務がない分、資金的な負担が軽減され、比較的スムーズに承継できることもあります。

このように、「持分のあり・なし」は、譲渡スキームや評価、交渉の進め方に大きな違いをもたらすため、事前の制度確認と専門家によるアドバイスが欠かせません。

クリニック・病院の事業承継の流れ

クリニックや病院のM&Aは、一般企業と比べて法規制や許認可、診療報酬制度などの専門知識が必要とされます。さらに、患者やスタッフへの配慮、医師法・医療法に基づく名義変更や届出手続きなど、医療特有の慎重な対応が求められる分野です。

こうした理由から、医療・介護分野に精通した専門の税理士事務所やM&A仲介会社の支援を受けることが、スムーズかつ安心な事業承継への近道となります。

では実際の承継プロセスについて、一般的な流れを見ていきましょう。

1.M&A専門家を選定し、契約する

M&A仲介会社は、売手・買手のマッチングや手続きのサポートを行う専門機関です。一口に「仲介会社」と言っても得意分野は様々で、医療・介護業界に精通しているかどうかは重要な選定基準となります。規模や知名度だけで判断せず、「医療機関のM&A実績があるか」「自院の規模や地域に合っているか」などを比較検討し、信頼できる仲介会社と契約を締結しましょう。

また、M&A仲介会社だけではなく、税理士や弁護士、会計士、事業承継の専門家とも連携することが重要です。医療機関の特性を理解した専門家にアドバイスを受けることで、法的な問題や税務、資産評価に関するリスクを回避しながら、スムーズな承継が可能になります。信頼できる専門家チームを選定し、必要なサポートをしっかりと受けましょう。

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2.承継先を決めて契約を締結する

仲介会社の支援を受けながら、譲渡条件に合う承継先(買手候補)を選定します。候補者との面談を重ね、条件のすり合わせが進めば、「基本合意書(LOI)」を締結します。この時点では法的拘束力は限定的ですが、譲渡価格の目安やスケジュール、守秘義務などの取り決めを明文化します。

3.デューデリジェンス(買収監査)の実施

基本合意後、買手側による「デューデリジェンス(買収監査)」が行われます。これは、財務状況や法的リスク、人事や契約関係などについて事前に正確な情報を精査するプロセスです。想定外の債務や契約リスクが発覚する場合もあるため、売手側も資料準備や開示にしっかり対応する必要があります。

4.最終契約書の締結

デューデリジェンスの結果を踏まえて最終的な条件調整が行われ、双方が合意に至れば「最終契約書(譲渡契約書)」を締結します。この段階で譲渡金額・引継時期・スタッフの処遇・不動産や設備の取り扱いなど具体的な内容が法的に確定されます。

5.関係者への告知や調整を行う

契約後は、地域医療関係者や取引先への告知、スタッフへの説明会などを実施し、必要に応じて関係各所と調整を行います。スムーズな引継ぎを実現するためにも、患者対応やスタッフのケアは特に丁寧に進めることが重要です。その後、正式な譲渡実行(クロージング)を迎えます。

クリニック・病院の事業承継やM&Aの際にかかる税金は?

クリニックや病院を譲渡する際にかかる税金は、譲渡方法や金額の配分によって税負担が変わるため、専門家のアドバイスを受けながら、最適な方法を選択することが重要です。また、医療法人の価値評価や低廉譲渡の回避など、税務上の注意点にも留意しなければなりません。

▶個人クリニックの場合

  • 所得税:個人クリニックの売却益は譲渡所得として課税されます。税率は所得金額によって変動します。
  • 住民税:売却により発生した利益に対して、所在地の市区町村の税率に基づいて課税されます。

▶医療法人の場合

□持分ありの譲渡出資持分を譲渡する場合、譲渡所得に対して以下の税金がかかります。

  • 所得税および復興特別所得税:15.315%
  • 住民税:5%
    合計税率は20.315%となります。
  • 役員退職金として受け取る場合:退職所得税:0〜55.945%(累進課税)

□持分なしの譲渡

出資持分はないため、出資持分の譲渡による対価の受け取りはできません。そのため一般的には医療法人から支払われる役員退職金を譲渡対価として受け取ります。
その場合、退職所得として課税されますが、ほかの所得と分離して課税され一定の控除が適用される可能性もあります。

クリニック、病院の事業承継やM&Aにおける注意点と成功のカギ

下記の点に注意を払いながらM&Aを進めることで、クリニック・病院の事業承継や拡大を成功に導くことができます。専門家のサポートを受けながら、慎重かつ戦略的にプロセスを進めることが重要です。

◎資産と財務の整理

資産と財務の整理は、M&Aを成功させる上で非常に重要になります。
不要資産の売却: 例えばゴルフ会員権やリゾートホテル会員権など、事業に直接関係のない資産は売却を検討します。
生命保険の扱い: 貯蓄性の高い生命保険は、医療法人に残すか、退職金の原資とするか検討が必要です。
過剰投資の見直し: 事業関連資産であっても、過剰投資部分は買い手の負担になるため、見直しが必要です。

◎法的手続きと許認可

医療機関のM&Aには、地域の規制や法律に基づいた正確な手続きの実施や、新組織立ち上げに伴う許認可の取得など、医療業界特有の手続きや許認可が必要となるため、事前に自治体へ確認しておくようにしましょう。

◎適切な財務諸表の作成

不適切な資産や経費が財務諸表に計上されていると、経営の実態が把握しづらく、M&Aがスムーズに進まない原因となります。経営において必要な資産を精査し、財務内容の改善を図ることが重要です。

◎従業員への配慮

譲渡についての情報開示が早すぎると、従業員の不信感を招いたり離職につながる恐れがあるため慎重に行う必要があります。M&Aに伴う従業員の不安を軽減し、スムーズな移行を図るためには、医師や看護師の雇用継続に関する十分なサポートや、従業員とのコミュニケーションを取る機会を設けることが重要でしょう。

◎専門家のサポート

クリニック・病院のM&Aには特殊性があるため、専門家の支援が不可欠です。クリニックM&Aの実績がある仲介会社やアドバイザーを選定し、適切な譲渡価額設定については専門家の助言を受けるようにしましょう。

 

関連サイト:医療・ヘルスケア業のM&A事例や譲渡で注意すべき点|譲渡を検討するガイド株式会社M&Aベストパートナーズ

【当社事例】クリニックや病院の譲渡価格について

医院 内科系/譲渡対価8億6,000万円

年間売上:約3億3,700万円
M&A形態:持分譲渡
エリア:北海道・東北エリア
譲渡背景:後継者不在

病院 総合診療科/譲渡対価5億5,000万円

年間売上:約8億7,000万円
M&A形態:事業譲渡
エリア:関西エリア
譲渡背景:後継者不在、不採算整理

外科系/譲渡対価900万円

年間売上:約4,600万円
M&A形態:事業譲渡
エリア:関西地方
譲渡背景:後継者不在

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作成日:2023年11月8日

コラム監修者

マネージャー
H.FUJIMOTO

  • 経歴
    大学卒業後に食品会社で医療機関営業とM&A業務を経験し、在職中に経営大学院でMBAを取得。医療分野は頻繁に制度や報酬が変化し、承継を含めた経営には専門的な知識が不可欠と感じたため、医療・介護・福祉専門のM&A仲介会社であるCBパートナーズに入職。これまでに、内科・皮膚科・外科クリックの事業譲渡や、内科・歯科・透析クリニックの持分譲渡など、複数医療機関の譲渡案件をご支援。