【令和6年トリプル改定】訪問看護の改定内容を理解する

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本コラムでは令和6年度の介護報酬と診療報酬の訪問看護の改定内容・注目点について解説していきます。

訪問看護の介護報酬・診療報酬改定とは

介護報酬は3年に1回、診療報酬は2年に1回改定されます。
そのため、6年に1回、介護報酬・診療報酬ともに改定が行われる令和6年(2024年)は、同時改定にあたる年でした。
また令和6年度の改定は「2025年問題」までに行われる最後の改定になるため、介護・医療の連携強化、質の高い在宅医療の提供をする観点から様々な見直しが行われました。
介護報酬と診療報酬の改定は、国の重要な方針が反映されるため、訪問看護事業を運営されている方はこの同時改定の内容を把握し、今後の対策を検討することは非常に重要です。

令和6年介護報酬及び、診療報酬改定における改定率

・介護報酬の改定率は+1.59%
1.59%の内訳は・介護職員の処遇改善分 +0.98%(令和6年6月施行)
・その他の改定率(※) +0.61%
※この0.61%の中で「看護職員やケアマネジャーなどの処遇改善」対応を行うこととします。

出典:「第239回社会保障審議会介護給付費分科会【参考資料1】」

・診療報酬の改定率は+0.88%
このうち、看護職員、病院薬剤師などの処遇改善分+0.61%となります。
実質の本体は+0.18%です。

出典:厚生労働省「診療報酬改定について pdf」

訪問看護の介護報酬改定内容

訪問看護における介護報酬での新設加算は3つです。

●専門性の高い看護師による訪問看護の評価(介護予防含む)
・専門管理加算(新設)

医療ニーズの高い利用者が増える中、適切かつ質の高い訪問看護を提供する観点から、専門性の高い看護師が計画的な管理を行うことを評価する加算です。

算定要件
都道府県知事に加算の届出を提出した指定訪問看護事業所の緩和ケア、褥瘡ケア、人工肛門および人工膀胱ケアにかかわる専門の研修を受けた看護師または特定行為研修を修了した看護師が、
訪問看護の実施に関する計画的な管理を行った場合には、所定単位数に加算されます。

●情報通信機器を用いた死亡診断の補助に関する評価
・遠隔死亡診断補助加算(新設)

離島等に居住する利用者の死亡診断について、診療報酬における対応との整合性を図る観点から、ターミナルケア加算を算定し、看護師が情報通信機器を用いて医師の死亡診断の補助を行った場合の評価が新たに設けられました。

算定要件
情報通信機器を用いた在宅での看取りに係る研修を受けた看護師が、在宅患者訪問診療料(Ⅰ)の死亡診断加算を算定する利用者(厚生労働大臣が定める地域に居住する利用者に限る)
についてその主治医の指示に基づき、情報通信機器を用いて医師の死亡診断の補助を行った場合に算定が可能です。

●訪問系サービス及び短期入所系サービスにおける口腔管理に係る連携の強化(介護予防含む)
・口腔連携強化加算(新設)

職員による利用者の口腔の状態の確認によって、歯科専門職による適切な口腔管理の実施につなげる観点から、事業所と歯科専門職の連携の下、介護職員等による口腔衛生状態及び口腔機能の評価の実施並びに、利用者の同意の下の歯科医療機関及び介護支援専門員への情報提供を評価する新たな加算が設けられました。

算定要件

  • 事業所の従業者が口腔の健康状態の評価を実施し利用者の同意を得て、歯科医療機関と介護支援専門員に評価の結果を情報提供する
  • 訪問看護ステーションは利用者の口腔の健康状態に係る評価を行うに当たって、
    診療報酬の歯科点数表区分番号C000に掲げる歯科訪問診療料の算定の実績がある歯科医療機関の歯科医師または歯科医師の指示を受けた歯科衛生士がステーションの従業者からの相談等に対応する体制を確保し、その旨を文書等で取り決めていること

●理学療法士等による訪問看護の評価の見直し

理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の訪問回数が看護職員の訪問回数を超えている場合、又は特定の加算を算定していない場合減算されます。
理学療法士等による訪問看護の提供実態を踏まえ、訪問看護に求められる役割に基づくサービスが提供されるようにする観点から、理学療法士等のサービス提供状況及びサービス提供体制等に係る加算の算定状況に応じ、理学療法士等の訪問における基本報酬の減算が新設されました。

以下の基準のいずれかに該当する場合、減算の適用になります。

  • 訪問看護ステーションの前年度の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士による訪問回数が、看護職員による訪問回数を超えていること。
  • 緊急時訪問看護加算、特別管理加算及び看護体制強化加算をいずれも算定していないこと。

●緊急時訪問看護加算の見直し

訪問看護などの介護サービスにおいて、24時間対応可能な体制を設けることを目的に、
緊急時訪問看護加算について新たな区分緊急時訪問看護加算(Ⅰ)(新設)が設けられます。

【緊急時訪問看護加算(Ⅰ)の算定要件】

以下の基準の全てに適合すること。

  • 利用者またはその家族等から電話等により看護に関する意見を求められた場合に常時対応できる体制にある
  • 緊急時訪問における看護業務の負担の軽減に寄与する十分な業務管理等の体制の整備が行われている

●初回加算の新たな区分の創設

訪問看護において、要介護者などの円滑な在宅移行を推進する観点から、看護師が退院・退所当日に初回訪問することを評価する加算区分が新設されます。単位数および算定要件については以下となります。

  • 初回加算(Ⅰ)は新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院、診療所等から退院した日に指定訪問看護事業所の看護師が初回の指定訪問看護を行った場合に所定単位数を加算する。※初回加算(Ⅱ)を算定している場合は算定不可
  • 初回加算(Ⅱ)は、新規に訪問看護計画書を作成した利用者に対して、病院等から退院した日の翌日以降に初回の訪問看護を行った場合に算定が可能です。初回加算(Ⅰ)を算定している場合は、算定できません。

●ターミナルケア加算

介護保険の訪問看護等におけるターミナルケアの内容が医療保険におけるターミナルケアと同様であることから、単位数の見直しが行われました。

算定要件の変更点

  • 現行2,000単位/月⇒改定後2,500単位/月
    これまでと同様に死亡日及び死亡日前14日以内に2日以上ターミナルケアを行った場合に算定が可能

 

●訪問看護における24時間対応のニーズに対する即応体制の確保

訪問看護サービスにおいて、サービス提供体制が確保されていれば、
介護職員以外の職員でも利用者やその家族からの電話連絡を受けられるよう見直しがおこなわれます。
確保しなくてはいけないサービス提供体制要件には以下の6つがあります。

  • (ア)看護師等以外の職員が、利用者や家族等からの電話等による連絡・相談に対応する際のマニュアルが整備されている
  • (イ)緊急の訪問看護の必要性の判断を保健師または看護師が速やかに行える連絡体制と緊急の訪問看護が可能な体制が整備されている
  • (ウ)訪問看護ステーションの管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制及び勤務状況を明らかにする
  • (エ)看護師等以外の職員は、電話等により連絡・相談を受けた際に、保健師または看護師へ報告し、報告を受けた保健師または看護師は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録する
  • (オ)アからエについて、利用者及び家族等に説明し、同意を得る
  • (カ)指定訪問看護事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員に関して都道府県知事に届け出る

●書面掲示事項のウェブサイトへの掲示

事業所の運営規程の概要等の重要事項等について、「書面掲示」に加え、インターネット上で情報の閲覧が完結するよう介護サービス事業者は、重要事項等の情報をウェブサイトに掲載・公表することが原則必須となりました。

経過措置
書面掲示のウェブサイトへの掲載の義務化については、2025年(令和7年)まで経過措置が設けられます。

出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について

訪問看護の診療報酬改定内容

●訪問看護基本療養費の加算の改定「緊急訪問看護加算」

同一月の算定回数に応じて「14日目まで(2,650円)」と「15日目以降(2,000円)」に区分。
緊急訪問看護加算を算定する際には、利用者・家族が求めた内容、主治医の指示内容、緊急の指定訪問看護の実施内容、加算を算定する理由を訪問看護療養費明細書に記録することが算定要件に追加されました。

●訪問看護基本療養費の加算の改定「乳幼児加算」

通常の乳幼児加算は算定料が下がり、新しい区分である「厚生労働大臣が定める者」に当てはまる場合は算定料が上がりました。
また、施設基準については「厚生労働大臣が定める者」に関する条件が以下の通り新設されました。

  • 超重症児又は準超重症児
  • 特掲診療料の施設基準等別表第七に該当する疾病等の小児
  • 特掲診療料の施設基準等別表第八に該当する小児

●「訪問看護管理療養費」の見直し

訪問看護管理療養費については、安全な提供体制が整備されていることが要件ですが、ここに新たな指標にもとづいた区分けが行われました。
機能強化型訪問看護管理療養費Ⅰ(月の初日の訪問の場合) については、これまでの基準に加え、「専門の研修を受けた看護師が配置されていること」が追加され、
訪問看護管理療養費(月の2日目以降の訪問の場合)に新たな区分が新設されました。
以下の条件に該当する場合は、訪問看護管理療養費Ⅰを算定することができます。

  • 訪問看護ステーションの利用者のうち、同一建物居住者の占める割合が7割未満で、次のいずれかに該当する
  • 別表第7、第8に該当する者への訪問看護について相当な実績がある
  • 精神科訪問看護基本療養費を算定する利用者のうち、GAF尺度:40以下の利用者の数が月に5人以上である

また訪問看護管理療養費を算定するには全ての訪問看護ステーションで届出をしなければいけませんでしたが、今回の改定では経過措置が設けられました。2024年(令和6年)3月31日の時点で指定訪問看護事業を行う事業所については、同年9月30日までは訪問看護管理療養費Ⅰの基準に該当するものとみなされます。

●訪問看護管理療養費の加算の改定内容について

・24時間対応体制の確保と働き方改革の推進
現在、訪問看護の診療報酬では「24時間対応体制加算」で24時間対応体制の確保が評価されていますが、今回新たに看護業務の負担軽減の取り組みを行った場合の評価が新設されました。「24時間対応体制における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制が整備されていること」を評価し、具体的には以下の1つまたは2つ以上の取り組みを行っていることを指します。

  • 夜間対応を行った翌日の勤務間隔を確保している
  • 夜間対応に係る勤務の連続回数が2連続(2回)までである
  • 夜間対応後に暦上の休日を確保している
  • 夜間勤務のニーズを踏まえた勤務体制を工夫している
  • ICTやAI、IoT等の活用による業務負担軽減を行っている
  • オンコール当番を担当する者への支援体制を確保している

・24時間対応にかかわる連絡体制の取扱い見直し
これまでは機能強化型訪問看護管理療養費Ⅲの届出を行っている訪問看護ステーションにおいて24時間対応体制に係る連絡相談を行う担当者は、
原則「訪問看護ステーションの保健師または看護師とし、勤務体制等を明確にすること」と示されていました。
しかし今回の改定で24時間対応にかかる連絡相談については、下記の要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能になりました。

  • 1.看護師等以外の職員が利用者又はその家族等からの電話等による連絡体制及び緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること。
  • 2.緊急の訪問看護の必要性の判断を保健師又は看護師が速やかに行える連絡体制及び緊急の訪問看護が可能な体制が整備されていること。
  • 3.当該訪問看護ステーションの管理者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員の勤務体制及び、勤務状況を明らかにすること。
  • 4.看護師等以外の職員は電話等により連絡および相談を受けた際に保健師または、看護師へ報告すること。報告を受けた保健師または看護師は、当該報告内容等を訪問看護記録書に記録すること。
  • 5.1~4について利用者および家族に説明し同意を得ること。
  • 6指定訪問看護事業者は、連絡相談を担当する看護師等以外の職員に関して別氏様式2を用いて地方厚生(支)局長に届け出ること。

 

●質の高い在宅医療・訪問看護の確保

・複数のステーション管理者の兼務が可能に
人員確保が困難な状況下では、訪問看護の質を落とさずに管効率的に運営する必要があります。
訪問看護の管理者について現行では「同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理することは認められない」ことが原則とされていましたが今回の改定では適切な兼務が可能になるよう、管理者にかかる規定が見直されました。
具体的には、上記の「原則不可」の規定を削除した上で、例外規定について以下のように改めています。

  • 同一の指定訪問看護事業者によって設置された他の事業所、施設に従事しており(現行の「同一敷地内」という規定は削除)
    従業者として職務する時間帯も、本体事業所の利用者のサービス提供の場面で生じる事象を適時・適切に把握でき、職員および業務に関して、一元的な管理・指揮命令に支障が生じないことなどが要件とされています。

・医療DXによる新評価「訪問看護医療DX情報活用加算」

指定訪問看護ステーション等において、居宅同意取得型のオンライン資格確認等システムを通じて利用者の診療情報を取得し、当該情報を活用して質の高い医療を提供するため評価が新設されました。

算定要件
厚生労働大臣が定める基準に適合しているものとして届け出た訪問看護ステーションの看護師等が、オンライン資格確認により利用者の診療情報を取得し訪問看護の実施に関する計画的な管理を行う。

施設基準

  • 1オンライン請求を行っている
  • 2オンライン資格確認資格確認を行う体制が整っている
  • 3 2の体制に関する事項と、質の高い訪問看護を実施するための十分な情報を取得・活用して訪問看護を行うことについて、ステーションの見やすい場所に掲示している
  • 3の掲示事項について、原則ウェブサイトに掲載している

2024年(令和6年)3月31日の時点で指定を受けている訪問看護ステーションについては、2025年(令和7年)5月31日までの間に限り、上記施設基準の3に該当するものとみなされます。

●退院支援指導加算の算定要件の見直し

退院日の利用者の状態及び訪問看護の提供状況に応じた評価を充実させる観点から、退院支援指導加算の要件が見直されました。
退院支援指導を要する者が退院日に、看護師等が長時間の訪問を要する療養上の指導を行った場合の条件が以下の通り変更されています。

  • 長時間の訪問を要する者に対して指導を行った場合にあっては、1回の退院支援指導の時間が90分を超えた場合に限る

    長時間の訪問を要する者に対して指導を行った場合にあっては、1回の退院支援指導の時間が90分を超えた場合または複数回の退院支援指導の合計時間が90分を超えた場合に限る

●書面掲示事項のウェブサイトへの掲示

デジタル原則に基づき書面掲示についてインターネットでの閲覧を可能な状態にすることを原則義務づけするよう求められていることを踏まえ、保険医療機関、保険薬局及び指定訪問看護事業者における書面掲示について、原則として、ウェブサイトに掲載することが必須になりました。

人員基準、運営基準の変更点

これに伴い、「指定訪問看護の事業の人員及び運営に関する基準」の第24条は以下のように変更されました。

  • 指定訪問看護ステーションの見やすい場所に、運営規程の概要や看護師等の勤務の体制、その他の利用申込者の指定訪問看護の選択に必要な「重要事項」を掲示しなければならない。
  • (新設)指定訪問看護事業者は、原則として「重要事項」をウェブサイトに掲載しなければならない

経過措置
書面掲示のウェブサイトへの掲載の義務化については、2025年(令和7年)5月31日まで経過措置が設けられます。

●明細書の無料発行を義務付け

「明細書の交付」の項目に以下内容が追加されました。

  • 利用者から利用料の支払を受けるときは、当該費用の計算の基礎となった項目ごとに記載した明細書を無償で交付しなければならない
  • 公費負担医療を担当した場合、費用の請求に係る計算の基礎となった項目ごとに記載した明細書を無償で交付しなければならない

経過措置
明細書発行の義務化については、領収証兼明細書に変更するシステム改修に必要な期間を考慮し、2025年(令和7年)年5月31日までの経過措置期間が設けられます。

●運営規定に「虐待の防止のための措置に関する事項」を定めることを義務付け

身体的拘束等の適正化を推進する観点から、訪問看護の「具体的取扱方針」に身体的拘束等の原則禁止や、やむを得ない場合に身体的拘束等を行う場合の記録義務に関する事項が追加されました。「指定訪問看護の具体的取扱方針」の第15条に以下の事項が追加されています。

  • 訪問看護の提供に当たっては、利用者等の生命・身体を保護するため、緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他利用者の行動を制限することを行ってはならない
  • 身体的拘束等を行う場合にその態様や時間、利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない

経過措置
令和8年5月31日までの間、虐待の防止のための措置に関する事項を定めることについては努力義務

 

~改定による影響と課題~

今回の基本報酬の増加や、専門性の高評価における改定により、大資本や専門看護師による訪問看護業界への参入が予測され、新規参入の増加やエリアの拡大により地域内に競合が増えると思います。、利用者を獲得し続けるための対策として、営業体制を強化する必要があります。他社との差別化でいえば特定の疾患領域に焦点を当てるなど専門性の強化や地域の医療機関・福祉施設との協力体制を構築する必要があります。

出典:厚生労働省令和6年度診療報酬改定の概要 在宅(在宅医療、訪問看護)

改定のポイントを押さえるために知っておくべきこと

改定に伴う業務の変化と対応策

1.業務継続計画未策定事業所に対する減算の導入
診療報酬では令和4年度に義務化となったBCP業務継続計画)について、令和6年介護報酬では感染症や自然災害を想定した業務継続計画(BCP)を策定していない介護施設・事業所に対する基本報酬の減算が導入されます。
適用される要件は以下の通りです。

  • 感染症や非常災害の発生時において業務継続計画(利用者に対するサービスの提供を継続的に実施するための計画の策定や、非常時の体制で早期の業務再開を図るための計画)を策定していない
  • 業務継続計画に従って必要となる措置を講じていない

なお訪問系サービスは令和7年3月31日まで経過措置とされています。

2.高齢者虐待防止及び身体的拘束等の適正化の推進
介護報酬では利用者の人権の擁護、虐待の防止等をより推進する観点から、虐待の発生又はその再発を防止するための措置が講じられていない場合に減算となる「高齢者虐待防止措置未実施減算」が新設されました。
また身体拘束については、診療報酬・介護報酬ともに利用者又は他の利用者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束等を行ってはならないこととされました。またやむを得ず身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の利用者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録することが義務付けられました。

3.24時間対応にかかわる連絡体制
訪問看護における24時間対応について、看護師等に速やかに連絡できる体制など、一定要件を満たせば看護師等以外の職員も利用者又は家族等からの電話連絡を受けられるよう、体制に関する要件の見直しが行われました。

【介護報酬側】
「緊急時訪問看護加算」の「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価を新設
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【診療報酬側】
「24時間対応体制加算」において「看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制」を評価する新区分が設けられました。
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改定による報酬の見直しの要点

介護報酬では4つの視点

  • 地域包括ケアシステムの深化・推進
    介護を必要とする方に質の高いケアマネジメントやサービスを切れ目なく提供できることを目指し、加えて地域の実情に合った柔軟性を持たせ、効率的な取り組みを推進する視点です。
  • 自立支援・重度化防止に向けた対応
    高齢者の自立支援や重症化防止を実現するために、多職種間の連携やデータの活用を推進しています。
  • 良質な介護サービスの確保に向けた働きやすい職場づくり
    処遇改善や働きやすい職場環境づくりなど、介護人材の不足に対処する内容が盛り込まれています。
  • 制度の安定性・持続可能性の確保
    介護保険制度の安定性と持続可能性を確保し、全世代が安心して利用できる制度の構築を目指しています。

出典:厚生労働省|令和6年度介護報酬改定における改定事項について

診療報酬改定でも4つの基本的視点

  • 現下の雇用情勢も踏まえた人材確保、働き方改革の推進
    医療分野では賃上げが他の産業に追いついていない状況にあり、しかも、医療分野における人材確保の状況は悪化しており、長期的にも、生産年齢人口の減少に伴った支え手不足が見込まれています。そこで、「必要な処遇改善等を通じて、医療現場を支えている医療従事者の人材確保のための取組を進めることが急務」としています。また、2024年4月から、医師の時間外労働の上限規制が適用され、「総合的な医療提供体制改革の進展の状況、医療の安全や地域医療の確保、患者や保険者の視点等を踏まえながら、診療報酬の対応がより実効性のあるものとなるよう検討する必要がある」としています。
  • ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進
    いわゆる団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて地域包括ケアシステムの構築などが進められてきましたが、「2025年以降も人口減少・高齢化が進む中、患者の状態等に応じて質の高い医療を適切に受けられるよう、介護サービス等と連携しつつ、切れ目のない提供体制が確保されることが重要である」としています。そのためには、「医療DXを推進し、今般の感染症対応の経験やその影響も踏まえつつ、外来・入院・在宅を含めた地域全体での医療機能の分化・強化、連携を着実に進めることが必要である」としています。
  • 安心・安全で質の高い医療の推進
    現在、食材料費や光熱費など物価が高騰している中で、患者にとって必要な質の高い医療を確保する取組みを進めるためには、「患者の安心・安全を確保しつつ、医療技術の進展や疾病構造の変化等を踏まえ、第三者による評価やアウトカム評価など客観的な評価を進めながら、イノベーションを推進し、新たなニーズにも対応できる医療の実現に資する取組の評価を進める」としています。
  • 効率化、適正化を通じた医療保険制度の安定性、持続可能性の向上
    今後、高齢化や技術進歩等により医療費の増大が見込まれる中、国民皆保険を維持するためには、「制度の安定性・持続可能性を高める不断の取組が必要」としています。施策を着実に進めていくには、医療関係者が協働して、医療サービスの維持・向上を図るとともに、効率化・適正化を図ることが求められるとしています。

出典:厚生労働省|令和6年度診療報酬改定に向けた基本認識

改定の影響と期待される効果

人材確保・働き方改革の推進は介護報酬・診療報酬でも重点課題となり条件の緩和などが行われました。

介護報酬改定の利点

「訪問看護の24時間対応」に関する負担軽減のための見直し
介護報酬では現在「24時間365日、緊急連絡や緊急相談、緊急時の訪問依頼等に対応する体制を構築している」ことを【緊急時訪問看護加算】として評価しています(訪問看護ステーションでは1か月当たり574単位)。
ただし、加算の要件の中に「利用者・家族等から電話等により看護に関する意見を求められた場合に常時対応できる体制」があり、これは「原則として当該事業所の看護師等が直接電話を受ける体制」とされていました。
今回の改定では看護師等に速やかに連絡できる体制など、提供体制が確保されており24時間対応体制に係る連絡相談に支障がない体制であれば、24時間対応体制に係る連絡相談の担当者が当該訪問看護ステーションの看護師等以外の職員でも認められることになりました。


診療報酬改定の利点

「訪問看護の24時間対応」に関する負担軽減のための見直し
診療報酬側でも、24時間対応体制加算において「24時間対応体制における看護業務の負担の軽減に資する十分な業務管理等の体制が整備されていること」を評価する新区分が誕生します。
具体的な体制整備として、「夜間対応した翌日の勤務間隔の確保」や「ICT、AI、IoT等の活用による業務負担の軽減」などの対応が求められます。
介護報酬と同様、24時間対応にかかる連絡相談については、一定要件を満たせば、訪問看護ステーションの看護師・保健師以外でも対応可能になりました。

訪問看護ステーションの管理者にかかる規定の見直し
現行では訪問看護ステーションの管理者について「同時に他の指定訪問看護ステーション等を管理することは認められない」ことが原則となっており、
具体的には、「原則不可」の規定を削除した上で、例外規定について以下のように改めています。

  • 1.同一の指定訪問看護事業者によって設置された他の事業所、施設に従事すること(現行の「同一敷地内」という規定は削除)
  • 2.上記(1)に従事の際も、本体事業所の利用者のサービス提供の場面で生じる事象を適時・適切に把握できること
  • 3.職員および業務に関して、一元的な管理・指揮命令に支障が生じないこと など

賃上げに向けた評価の新設
物価高騰・賃金上昇、経営の状況、人材確保の必要性、患者負担・保険料負担の影響を踏まえた対応として、訪問看護ステーションスタッフの賃上げを目的とする「訪問看護ベースアップ評価料」が新設されました。令和6年度にべースアップ+2.5%、令和7年度に+2.0%の賃金上昇を目指すため、訪問看護ステーションに勤務する看護師やその他の医療関係職種(※)の賃金の改善を実施する場合の評価です。
※訪問看護ステーションにおいてベースアップ評価料を用いた賃金上昇の対象となるのは、看護師、保健師、准看護師、看護補助者、理学療法士、作業療法士、精神保健福祉士、言語聴覚士などの職種です。

改定による地域医療・介護の連携

今後医療・介護連携で必須になってくるのはICT導入です。
今回の介護報酬改定で訪問看護は対象外となりましたが、守り機器・インカム機器・介護記録ソフト・スマホやタブレットなどを導入し、業務改善の取り組みについてのデータ提出を行う場合に算定できる「生産性向上推進体制加算」が新設されました。
ICT導入による介護現場の生産性向上の取り組みを促すのが狙いです。次回の改定でICTに関する評価が訪問看護でも行われるかもしれません。

一方、診療報酬改定では在宅医療・介護の連携に関わる加算、「在宅医療情報連携加算」が新たに創設されました。算定要件は在宅で療養している患者に医師・歯科医師が計画的な医学管理を行う際に、当該患者の医療・ケアに携わる関係職種がICTを用いて記録した診療情報などを活用すると評価されるというものです。このケアに携わる関係職種というのはケアマネ・介護職員も含まれます。

診療報酬・介護報酬ともにICTの活用を評価する加算は今までありませんでしたが、同じベクトルの施策を医療サイドからも拡充することで、情報連携の効率化に向けた取り組みをより浸透・加速させたいという考えでしょう。ケアマネジャー、訪問看護、訪問介護、デイサービスなど全ての介護サービス事業所、医療系サービス事業所が、今後ICTを活用した情報共有に取り組んでいくようになると思われます。

改定への対策と今後の展望

施行までのスケジュール

訪問看護における介護報酬改定は令和6月1日から施行されます。
例年通りの場合、令和6年4月1日の施行となる予定でしたが、今年は2ヵ月後ろ倒しのスケジュールとなりました。スケジュールが後ろ倒しになった背景には、同タイミングでおこなわれる診療報酬改定との兼ね合いがありますが、診療報酬改定についても改定の施行タイミングは令和6年6月1日に後ろ倒しされています。

介護・診療報酬改定に対する業界の動き

今後在宅医療ニーズの増加により業界への新規参入も増えていくと予想されます。
訪問看護事業は今後も安定した需要が見込める一方、運営の効率化のために事業規模の拡大と看護師等のスタッフ確保が課題であります。これら課題に対する解決策の1つとして、M&Aは有効的な手段と考えられます。

訪問看護の買収を検討する理由として下記があげられます。

  • 事業拡大にはM&Aによる人員確保が効率的と考えるため
  • 事業所のドミナント展開、事業所の集約化することで収益性の改善ができるため
  • 新規事業所設立の投資コストよりもM&Aの方が費用対効果に期待ができるため
  • 事業の展開エリアを抑えに行くという考え、事業拡大にはスピード感が必要なため

個々の訪問看護事業所の対策と取り組み

先述の通り、今後訪問看護の利用者増加により働き手不足が深刻化すると予測されます。人材確保のためには以下のような取り組みが求められるでしょう。

1.採用の促進
新しい看護師や介護士を採用するために、求人広告や採用イベントを積極的に行います。
また、社内のネットワークを活用して、口コミや紹介による採用も行われることがあります。

2.労働条件の改善
従業員の満足度を高めるために、給与や福利厚生の改善、勤務時間の柔軟化、労働環境の整備など、労働条件の改善に取り組む必要があります。

3.研修・教育プログラム
新人や経験の浅いスタッフに対する研修プログラムを充実させることで、より多くの人材を育成し、採用の効率を向上させることができます。

4.業務の効率化
事業を拡大する場合、職員の業務負担ももちろん増えます。
ITシステムやデジタルツールの活用によって、業務の効率化を図ることで現場の負担を軽減し、スタッフの業務負担を減らすことができます。

5.コミュニケーションの強化
スタッフとのコミュニケーションを強化し、意見交換やフィードバックの仕組みを整えることで、働きやすい職場環境を作り出し、人材の定着率を向上させることができます。

まとめと今後の課題

改定による訪問看護の将来像

令和6年の報酬改定で訪問看護は、概ねプラス改定となりました。
これにより事業収入が向上し、新規参入の増加が予想されますが、一方で2021年度中の新規および廃止の訪問看護ステーション数は全国訪問看護事業所協会の調査によると、全国で新規事業所数は約1,968件に対し、廃止・休止が約793件です。事業所の安定と効率化を目指すためには、規模を意識した運営も求められてきます。

出典:一般社団法人全国訪問看護事業協会「令和5年度 訪問看護ステーション数 調査結果

このような現状の中で、訪問看護事業の再編についてお考えの経営者の方も多くいらっしゃるかと思います。経営者様が運営されている訪問看護事業所の事業の価値、運営法人の価値が知りたい、訪問看護事業所の買収に興味があるなど、どんな内容でも構いませんので、気になることがありましたらお気軽にお問い合わせください。