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開業医の「跡継ぎがいない問題」と第三者承継という選択肢

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はじめに|今、開業医が直面する深刻な「跡継ぎ不在」問題

日本の医療を支えてきた開業医の多くが、いま「後継者不在」という課題に直面しています。

帝国データバンクの調査では、約6割のクリニック・病院が後継者不在という深刻な状況です。さらに、病院では約5人に1人、クリニックでは約2人に1人が60歳以上という現実も明らかになっており、引退を考える年齢層に達しているにも関わらず、次世代へのバトンタッチが進んでいないのが現状です。

「子どもが継がない」「継がせたくない」「後継候補が見つからない」そんな悩みを抱えながらも、「閉院するしかないのだろうか」とお考えの先生も多いのではないでしょうか。

開業医の後継者不足が深刻化する中、クリニックの第三者承継(M&A)という選択肢に注目が集まっています。本コラムでは、後継者不在の背景や現状、第三者承継(M&A)の可能性についてご紹介します。

開業医の後継者不在の現状と背景

クリニック・病院での後継者不在率は約60%

帝国データバンクの調査によると、病院・クリニックにおける後継者不在率は61.8%と、全業種平均(52.1%)を大きく上回る結果になっています。

出典:帝国データバンク|全国「後継者不在率」動向調査(2024年)

開業医の約半数が60歳以上

令和4年度の調査では、開業医の約4人に1人が70歳以上であり、定年となる60歳以上の割合は全体の52.7%を占めています。また病院経営者の平均年齢は64.9歳、クリニックでは62.5歳に達しています。この数字は全国の社長平均年齢(60.5歳)を上回っており、医療業界は他の業界と比較しても、経営者の高齢化が明白です。

出典:厚生労働省| 令和4(2022)年医師・歯科医師・薬剤師統計の概況

~ 後継者不在の理由 ~

  • 子どもが医師にならなかった
    医学部の進学難易度や学費の問題、本人の希望などにより、医業を継がないケースが増えています。

  • そもそも子どもに医業を継がせたくない

    開業医として、日々の診療に加えて経営、スタッフ管理、財務処理、制度改正への対応など多くの負担を抱えてきた経験から、「自分の子にはこんな苦労をさせたくない」と考え、医業を継がせないという選択肢を選ばれるケースもあります。

  • 家族が継ぐ意思がない
    医師資格があっても「開業医は負担が重い」「経営の責任を背負いたくない」「都市部で生活基礎ができてしまったため、戻れない」などの理由で承継を断るケースもあります。

  • 開業医という働き方が敬遠されている
    勤務医のほうがワークライフバランスが取りやすく、安定していると考える若い医師が多く、開業を避ける傾向にあります。

  • 地域性の問題(地方・過疎地域など)
    地方や人口減少地域では、承継しても経営が難しいと見なされ、後継者が現れにくい状況になっています。

  • 将来の医療制度への不安
    診療報酬改定や制度変更による経営リスクを懸念し、引き継ぎに消極的な若手医師も増えています。

 

~後継者がいないことで起きる影響~

・ 医院を「閉院」せざるを得なくなる

長年地域医療を支えてきた医院でも、後継者が見つからなければ廃業・閉院を選択することになります。

・地域医療に大きな穴が空く

特に地方では、ひとつのクリニックが地域医療の要となっているケースも多く、閉院すれば住民の受診先がなくなるおそれもあります。

・スタッフの雇用が失われる

長年働いてきた看護師・事務職員・技師などが、職を失うリスクが出てきます。地域によっては転職も難しいこともあるかもしれません。

・経営者とその家族の生活にも影響

閉院に伴って借入返済・設備処分・清算などの費用的な負担が発生し、経営者自身や家族の生活にも影響を及ぼすことがあります。

跡継ぎがいない=閉院ではない

「跡継ぎがいないから閉院するしかない」と考える方が多くいらっしゃいますが、第三者や地域の支援を得ることで、新たな可能性が開けることもあります。後継者探しは、まず情報を集め、専門家に相談することから始まります。

~後継者を見つけるための方法~

1.家族や親族へ承継意思の確認

「まず家族に後を継いでもらえないか?」というのは、多くの開業医が最初に検討する選択肢です。お子様が医師であれば、早期から承継を見据えた準備を進めましょう(例:非常勤勤務から徐々に医院に慣れてもらうなど)。たとえ子どもが医師でない場合でも、親戚や知人に医師がいる可能性を探る価値はあります。

また承継する気がなさそうでも、一度「医院の価値や地域への役割」を丁寧に共有することで、気持ちが変わることもあるかもしれません。継ぐ・継がないの意思確認は「早いほど良い」です。曖昧なまま時間が経つと、他の選択肢まで狭まってしまう可能性があります。

2.地域コミュニティとの連携による後継者探し

医療機関は地域にとって「インフラ」であり、地域ぐるみで後継者探しに協力してくれる場合もあります。地元の医師会、商工会議所、自治体などに相談することで、独自のネットワークから後継候補が見つかる可能性があります。病診連携先の若手医師や勤務医の中に、開業意欲をもつ人がいることも考えられます。承継は“個人の問題”ではなく、“地域医療の存続”という視点で考えると選択肢が広がるかもしれません。

3.第三者への医院承継を検討する

親族に承継者がいない、あるいは継がせたくない場合や、医院を閉めずにリタイアの道を探りたいという方には、「第三者承継」という選択肢があります。地域の医師や若手の開業希望者、医療法人など、医院を引き継ぎたいというニーズは存在します。税理士事務所やM&A仲介会社を通じて、匿名でのマッチングから条件調整、引継ぎまでをスムーズに進めることが可能です。譲渡対価が得られる場合には、老後資金やセカンドライフの準備にもつながります。

第三者承継は、「医院を存続させながら、円滑に引退できる」柔軟な手段です。長年支えてくれたスタッフや患者のためにも、非常に現実的な解決策といえるでしょう。

3つの承継パターンを比較

医院を承継する際、主には3つのパターンに分かれます。

  1. 親族(子ども)への承継
  2. 医療法人の分院・吸収承継
  3. 第三者承継

 

1.親族(子ども)への承継

昔からの一般的な承継方法で、いわゆる「親子間承継」といわれます。子どもが医師免許を持ち、同じ診療科に進んでいればスムーズに承継することできます。

メリット デメリット
長期的な運営が見込める子が継がない、継げない、継がせたくないケースが増えている(他分野勤務・都市部勤務など)
院長が段階的に引退しやすい親子でも価値観や経営方針が合わずトラブルになることもある
職員や患者の安心感も高い前院長となる親や親族の影響が残る

 

2. 医療法人の分院・吸収承継

医療法人にクリニックを譲渡し、分院として継続してもらう方法です。医師本人は法人内で勤務医(常勤または非常勤)、顧問として関わり続けることも可能です。

メリットデメリット
継続性が高く、スタッフの雇用も守れる自由度が下がる(経営方針が法人次第になる)
診療体制を法人が整えてくれる医院の「名前」や「方針」が変わることもある
自身の労働負担は軽減できる患者やスタッフに不安が生じ、集団退職などのリスクがある

 

3.第三者承継

「第三者承継(M&A)」は他の開業希望医師や医療法人がクリニックを引き継ぐ方式です。地域医療を維持しつつ、円満にリタイアすることが可能です。

メリットデメリット
親族に頼らずとも医院の継続が可能承継相手選びに慎重さが必要
譲渡益が得られ、老後の生活資金にもなる適切な手続きを行うために、外部の専門家の力を借りる必要がある(税理士、M&A仲介会社など)
スタッフや患者への影響が最小限に抑えられる患者やスタッフに不安が生じ、集団退職などのリスクがある

承継の主な流れ(約6か月~1年間)

  1. 現状把握(経営・資産の整理)

  2. M&A仲介会社などに相談

  3. 承継先候補の選定

  4. 条件交渉・基本合意

  5. 契約締結・引き継ぎ準備

  6. 承継・退任(または一定期間残る形もOK)

 

◆クリニックM&Aの手順を詳しく知りたい方はこちら
>>クリニック承継ガイド>成功するためのステップと事例

よくある質問|開業医の第三者承継(M&A)について

Q. M&Aをしたら医院の名前や診療内容は変わりますか?

A.M&A後も、医院名や診療体制を引き継いで運営するケースは多く、既存の患者様やスタッフにとっても安心感のある「現状維持型の承継」が一般的です。ただし、譲渡先となる医師や医療法人との協議によっては、医院のブランディングの一環として名称や診療科目、診療時間などを変更する場合もあります。

特に医療法人が承継するケースでは、グループ全体の方針に沿ってシステム導入や診療スタイルの見直しが行われることもありますが、地域医療の継続や患者様の通院環境を大きく損なわないよう、段階的な移行が一般的です。「名前や診療内容を残したい」という希望がある場合は、早期の段階からM&A仲介会社や譲渡候補者としっかり意思を共有しておくことが重要です。

Q. 地方でも後継者は見つかりますか?

A.はい、地方でも後継者が見つかる可能性は十分にあります。地元での開業を希望する若手医師や、地域貢献を重視する医療法人による「地方クリニックの承継ニーズ」も存在します。

M&A仲介会社や税理士事務所、自治体や地域医師会によるサポート、地域医療支援センターなどの制度を活用することで、地方での医院M&Aはスムーズに進む傾向にあります。特に、地域密着型の診療を志す医師にとっては、既存の患者基盤や診療所をそのまま引き継げる点は非常に魅力的です。

特に次のようなケースでは、地方でも承継が前向きに進みやすくなります。

  • 建物や医療機器が継続使用できる状態である

  • 長年の地域密着型の診療スタイルが確立されている

  • スタッフが安定して勤務している

  • 承継後も一定期間、前院長がサポートする意向がある

  • 承継希望者の診療科と大きく乖離していない、または柔軟に診療体制の移行が可能な場合

大切なのは、「地方だから難しい」と決めつけず、まずは情報収集と相談から一歩踏み出すことです。

Q. どの段階でM&A仲介会社に相談するべきですか?

A.「将来的にリタイアを考えている」「子どもが継ぐかどうか不明」と感じたタイミングが、M&Aを視野に入れた準備のスタートラインになります。実際に動き出す理想的なタイミングは承継を希望する2〜3年前です。なぜなら、医院M&Aは相手探しから交渉、引継ぎ準備までに半年〜1年以上の時間がかかることも珍しくないからです。

早めに相談することは結果的に選択肢が広がることにもつながります。特に、スタッフや患者様への影響を最小限に抑えたい場合は、「元気なうちからの準備」が非常に大切です。

「M&Aは患者様やスタッフに迷惑をかけず、医院を守る方法」

~当社クリニックM&A事例~

クリニックを“患者にとってのテーマパーク”のような存在にしたい―そんな思いで開業されたクリニックを、「体力と気力に余裕があるうちに承継を」と考え、当社のご支援のもと第三者へ承継されました。先生は「患者様やスタッフに迷惑をかけず、医院を守る方法として、M&Aは最適な選択でした」と語られます。

理想のかたちで医院を引き継ぎ、思い描いていたリタイア後のライフプランも実現されたご経験は、後継者問題に悩む先生方にとって、大きなヒントとなるのではないでしょうか。

>>インタビュー全文を読む

さいごに

後継者問題に「これが正解」という答えはありません。しかし、「跡継ぎがいない=閉院しかない」というわけではないことを、ぜひ多くの先生に知っていただきたいと思います。

地域医療を守り、長年支えてくれたスタッフや患者様に安心を届けるためには、元気なうちから将来の選択肢を考え、準備を始めることが何よりも大切です。「誰に相談すればよいか分からない」という方も、まずは情報収集から一歩を踏み出してみませんか。

私たちCBパートナーズでは、医療・介護・福祉業界に特化したM&A仲介会社として、先生方の思いに寄り添いながら、最適な承継方法をご提案いたします。ご相談は無料ですので、どうぞお気軽にお問い合わせください。

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コラム監修者

ディレクター
S.KOMURA

  • 経歴
    体育大学卒業後、人材教育会社に入職。人の人生に係わる仕事に興味を持ち、キャリアブレイン(現CBホールディングス)に転職し、医療法人へのコンサルティング業務や、医
    師のキャリアアドバイザーとして勤務。その後、CBパートナーズでM&Aに携わり、西日本の介護福祉事業部、医療事業部を立ち上げ、今に至る。